フェブラリーS、高松宮記念、NHKマイルC、スプリンターズS。これら4つのGIに共通しているのは、かつてはGIIやGIIIだったが(レース名や条件を変えたり変えなかったりしながら)GIに昇格した、ということである。
以前本稿で、そのレースで好走した馬がのちに出世するという意味での「出世レース」をとり上げたことがあったが、これら4つのGIは、ブリがワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ(関東の場合)と呼び名が変わる「出世魚」であるように、レース自体が出世した「出世レース」と言うことができる。
フェブラリーSはGIになって今年で16年目、高松宮記念とNHKマイルCは17年目、スプリンターズSは23回目である。さすがにこれだけ年数が経つと、どれもGIとしてすっかり定着したようだ。
これら4つの出世レースのうち、NHKマイルCは3歳限定だから連覇のしようがないが、GIになってからの高松宮記念は2010年と11年にキンシャサノキセキ、スプリンターズSは1993年と94年にサクラバクシンオーが連覇しているのに、フェブラリーSを連覇した馬は、まだ現れていない。
過去に連覇を狙った馬のフェブラリーSの着順を見てみると――。
メイセイオペラ(1→4)、ウイングアロー(1→2→9)、ノボトゥルー(1→3→6→9→14→14)、アドマイヤドン(11→1→5)、メイショウボーラー(1→15)、カネヒキリ(1→3)、サンライズバッカス(12→1→15)、ヴァーミリアン(5→1→6)、サクセスブロッケン(1→3)
という結果になっている。なお、今年出走を予定している2010年の勝ち馬エスポワールシチーは、09年に4着になっており、11年は出走していない。
面白いことに、フェブラリーS優勝馬のほとんどが、初参戦で勝利を挙げた馬である。2度目の参戦で勝ったのはアドマイヤドン、サンライズバッカス、ヴァーミリアン、エスポワールシチーの4頭のみ。これまた興味深いことに、そうしたリベンジがなされたレースはここ8年以内に集中している。
これは何を意味するのか。
日本のダート界がドバイワールドCをはじめとする世界の大舞台に直結していることを実感できるようになったここ十数年で、ダートのオープン、準オープンのレベルはかなり高くなり、芝路線からポンと参戦した馬がそう簡単には勝てないほど層が厚くなった。
にもかかわらず、そのなかで揉まれながら、一度はダメでも再度のチャレンジで頂点に立つ馬が出てくるようになったということは、角居勝彦調教師がよく話しているような「互いにやり合っているうちに、強さをさらに伝播する効果」が強くなった、と見ていいのかもしれない。
自分だけではなく周りも強くなるのだし、次々と新戦力が出てくるから連覇はますます難しくなりそうだが、トランセンドは、「王者」という冠や6歳という年齢には似つかわしくないほどの成長力を見せており、今も強くなっている真っ最中という感じがする。
今年のフェブラリーSがこの馬をめぐる争いになることは間違いない。
私の贔屓であり、出走馬中唯一の関東馬であるスマイルジャックはどこまでトランセンドに迫ることができるだろうか。
先週記したように、「次もダメだったら短距離かダートを試してみたい」という声が2年ほど前からスマイル陣営で上がっていたのだが、そのたびにスマイルがいい競馬をして路線変更されず、ここまで来くることになった(短距離に向かうという選択肢は、このところゲートからガツンと行くところがなくなってきたので自然消滅した形になっている)。
追い切りに騎乗した丸山元気騎手が望んでいたとおりの内枠、4番枠を引いた。鞍上が内枠を希望したということは、周囲に馬を置いて抑えたいと思うほどの活力を感じたということだろう。以前三浦皇成騎手が話していたように、道中、怒らせながら脚を溜めると弾ける馬である。砂をかぶってカッカして、直線、「コノヤロー!」と馬群を割って伸びてくるシーンを期待したい。