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「中山記念さん」への親近感

  • 2012年02月25日(土) 12時00分
 私は、「どんなレースにも意味がある」という前提で競馬を見ている。その「意味」というのは、日本の競馬界の変化や進化に関するものだったり、自分の馬券や好きな馬の今後に関するものだったりと、公私も大小もさまざまである。

 例えば先週のフェブラリーS。公的かつ大きな意味では、例年どおりドバイワールドCへの重要なステップになった、ということが一番だろう。私的かつ小さな意味では、贔屓のスマイルジャックが初めてダートの実戦に臨み、ダート適性はつかみ切れずに終わったが、怪我なく無事に帰ってきてくれた、ということだった。

 これはある意味レースを擬人化しているうようなもので、前述したフェブラリーSの場合なら、

 ――GIなのにステップ扱いするなんて、フェブラリーSに申し訳ないかな。

 なんて思ってみたりする。

 武豊騎手ともこういう話をしたことがあった。

 87年から3歳馬が天皇賞・秋に出走できるようになり、96年、バブルガムフェローが3歳馬として初制覇を達成し、2002年にシンボリクリスエスがつづいた。ちょうど3000m以上の長距離戦のステイタス低下が世界的に叫ばれた時期だった。それもあって、「スタミナより総合力」というタイプの3歳の有力馬が、秋の最大目標を菊花賞ではなく天皇賞に据えるケースも珍しくなくなった。

 05年、ディープインパクトが無敗のままダービーを勝って二冠を制したときも、

 ――秋はどうするのですか?

 と武騎手はたびたび質問された。ディープの場合は秋天だけではなく凱旋門賞に向かっても面白いと思われていたのだが、彼はこう言った。

「やはり三冠には重みがありますから、春の二冠を勝った馬が菊花賞に向かわない、ということは考えられないと思います。どちらか一冠しか勝っていないのならともかく、二冠馬に対して、あまり『秋は天皇賞のほうがいい』とか『いや、凱旋門賞だ』とか言うのは、菊花賞さんに失礼ですよね」

 厳密には擬人化とは違うのかもしれないが、人間と同じように、生い立ちや個性、キャリアなどを尊重しての言葉だったから、ウィットの利いた「菊花賞さん」という響きがとても自然に感じられた。

 なぜ今回この話を書こうと思ったかというと、日曜日に行われる中山記念の過去10年の結果を眺めていて、「中山記念さん」が私によく似ていると思ったからだ。

 中山記念が創設されたのは1936(昭和11)年。天皇賞が前身の帝室御賞典からこの名になったのが翌37年だから、いかに伝統のあるレースか、おわかりいただけるだろう。

 私との共通点はそこではなく、このレースの上位入着馬の重なり具合である。

 ということで、02年から去年までの上位3着馬を以下に記す。

02年 1)トウカイポイント 2)トラストファイヤー 3)ラスカルスズカ
03年 1)ローエングリン 2)バランスオブゲーム 3)ダイワジアン
04年 1)サクラプレジデント 2)サイドワインダー 3)ローエングリン
05年 1)バランスオブゲーム 2)カンパニー 3)アルビレオ
06年 1)バランスオブゲーム 2)ダイワメジャー 3)エアメサイア
07年 1)ローエングリン 2)エアシェイディ 3)ダンスインザモア
08年 1)カンパニー 2)エイシンドーバー 3)エアシェイディ
09年 1)カンパニー 2)ドリームジャーニー 3)アドマイヤフジ
10年 1)トーセンクラウン 2)テイエムアンコール 3)ショウワモダン
11年 1)ヴィクトワールピサ 2)キャプテントゥーレ 3)リーチザクラウン

 書き写しながら、何かの間違いではないかと思ったほど、同じ馬が複数年にわたって登場する。

 40歳を過ぎた男の常として、私は同じことを何度も言ってしまい、あとで気づいて反省する、ということを繰り返している。中山記念さんに親近感を抱く所以である。

 以前、ある優秀な編集者にこう言われた。

「その話、前にも聞きました。3回目か4回目だと思います」

「そ、そうか。すまんね」

「ここまで来たら『島田再放送劇場』ですね。『この番組は、何月何日に放送したものです』と字幕スーパーをつけたら面白いんじゃないですか」

 と彼は笑った。私も笑った。

 彼のように私の再放送を指摘してくれる人は意外と少なく、ほとんどの人は我慢して聞いてくれる。

 直木賞作家の浅田次郎氏のように、私と同型の人と互いに再放送合戦をやるぶんには誰にも迷惑はかからないのだが、だいたいは私が一方的に相手に同じ話を聞かせて終わってしまっている。

 と、ここまで書いて、今年の中山記念の出走馬に、過去にこのレースに出たことのある馬が一頭もいないことに気がついた。今年の中山記念さんは再放送のやりようがないので、私と同型の姿を見せてくれるのは来年以降ということか。

 とりとめのない話になってしまった(という表現も何度目の再放送だろう)。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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