いろいろ現在進行形で解説しなければいけない問題が多くて、
クレスコグランドで説明していた鮮度と経験の話が途中で終わってしまったので、今回はそれを改めて見ておこう。
クレスコグランドは、天皇賞・春まで3000m以上の経験がなく、また古馬混合重賞の経験もなかった。だが、そういったハンデは、鮮度が高いことで一気に覆してしまうケースも多いのだった。
ではなぜ今回、その経験不足を鮮度で「覆してしまう可能性」が低くなってしまったのだろうか?
ポイントは、そこまでのレース質である。前走の大阪ハンブルクCは外回りの2400m。前々が日本で一番広い東京のダービー。3走前の京都新聞杯が京都外回りの2200m。4走前も外回りだ。
よく「外回りのごまかしが利かない条件で好走しているのは評価できる」という話を聞く。広くて緩い流れで好走しているのだから、前走より厳しい流れになったとき、馬が嫌がる可能性が高いと考えるのが普通だ。しかし、これは多くの場合、間違っている。
今回も広くて、しかも緩い流れになるであろう長距離の京都外回り3200mだから、それに類似する外回りで好走しているのはプラスでは? と考える人も多いだろう。しかし、同馬の場合は、まだ古馬重賞を経験していない。しかも、前走はOP特別の長距離という、とびきり生温い競馬だった。この場合、今回のGIへの流れは、かなり馬にはタフに感じる。だから余計に、外回りばかりしか経験していないのはマイナス材料になるのだ。
同馬が内回りを走ったのは、わずか2回。しかも新馬の京都2000mと、未勝利の阪神2000mである。小回りコースでもない、3歳の新馬、未勝利2000mは、説明するまでもなく流れは緩い。これでは、内回りとして、なんのキャリアにもならないのはいうまでもないだろう。
競馬でいう経験は、なにも今回の条件と類似の条件を経験していることが有利になるこを意味しているのではない。今回の条件へ向かって必要とされる経験の質が問題なのだ。
もちろん、今回は類似条件の経験はプラスになるし、そこでの好走は今回に関して、適性を保証する意味で大きな支援材料になる。しかし、それは近い過去である必要はない。というより、距離が長ければ長いほど、似た条件で走っているのは、鮮度的には減点材料になる。だからこそ、以前書いたように、半年以上前に経験していればそれで充分というより、それこそがベターなのである。
経験の話で、逆に「ここまでくると影響しないのか」と改めて思い知らされたのが、ビートブラックである。同馬は直近の4走中3走で3000m以上を走っており、3000m以上のGIを使う上ではM的に不利なステップで連対した、極めて希な馬となった。
ただ同馬の場合は、前走が4秒差負けだったのだ。もちろん、このような惨敗後に出走する馬はほとんどなく、データ的にはなんとも判断できない。結果から言えることは、ここまで負けてしまえば、「長距離を走った」という印象は、なにも馬には残らないということだ。
さすがに私も体調を疑って評価しなかったが、あっさりと裏切られたのである。惨敗による記憶の希薄化というMの基本を、改めて我々に痛感させるレースとなった。
ちなみに同馬は直近4走のうち3000m以上では、11着、6着、10着。すべて人気を下回り、まったくいいところはなかった。逆に一番好走したのは2400mで、しかも前半34.6と、2400mとしては異例なほど速い流れになった日経新春杯だった。直近における似た条件での成績が、今回に関してあまり意味を持たないことがよく分かる戦績だと思う。
問題は前走→今走という流れの中での話なのだ。今回はGIへ向かうという、前走よりタフな流れだったから、むしろ今回と別の2500m以下での走りこそが意味を持ったのである。
もし今回が最も緩いOPと言われる「芝3000mのOP特別」だったら、似た条件での惨敗はなんのキャリアにもならなかった。つまり今回が弱い相手の万葉Sであったなら、ビートブラックは何度走っても、恐らくそれまでのレース同様、勝てなかったろう。GIだったからこそ、このステップで好走が可能だったということである(C系ということもあるが)。
経験とステップは、今回の条件というより、前走→今回の流れの中で、必要とされる経験を積んできているか? ということに尽きるのである。
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