オーストラリアと違い、馬主要件の厳しい日本競馬。馬主になることが夢だったマイケル・タバートさんは、強力な協力者を得て、その夢をついに実現します。しかし、華やかに見える馬主の世界、新人オーナーには様々な試練が…。(7/2公開Part1の続き)
今何頭持たれているんですか?
東 :馬主になられて3年ですが、今は何頭ぐらい持たれているんですか?
マイケル :2歳が6頭で、3歳はハナズゴールなど4頭、4歳のノアノア、1歳は多分2頭だから、13頭かな。それと繁殖牝馬が4頭。今の1歳で母父ムーンロケットがいるんです。それがすごく楽しみです。僕がムーンロケットをノーザンファームから譲ってもらわなかったら、その馬が存在しないわけで。そういうのがうれしいなと。
東 :どんどん広がっていきますね。すごいです。
マイケル :すご過ぎますね。ヤバいです。ハナズゴールがいなかったら、今頃終わっています。
花代 :やっぱり賞金が入って来て、楽にはなったよね。でも、知らない間に馬が増えていたりするんですよ。
東 :牧場に馬を見に行って衝動買いしちゃいますか?
マイケル :もう、それしかないですよね。
花代 :「馬欲しい欲しい病」っていうのがあって、有効な治療薬はないみたいです(笑)。
マイケル :欲しいと思ったら迷わず。まあ予算がないので、そこはいつも難しいんですけど。だからセレクトセールなんか行ったら全部欲しくなっちゃうので、行っても意味がない。自分を苦しめるだけです。
高馬続出のセレクトセール
東 :セレクトセールって、ちょっと金銭感覚が狂ってしまいませんか?
花代 :上がって行く単位も違いますしね。
マイケル :あれはすごい世界ですよね。普通に会話しながらさらっと手を挙げて、1000万単位とかで動いていく。「いやいやいや、嘘やろ!」って。あれが悔しいというか、あれを見てがんばろうと思いました。
東 :逆に奮い立ったんですね。馬主資格はハードルが高いですが、どうやってクリアされたんですか?
マイケル :日本では無理かなと思っていたんですけど、どうしてもなりたくて。それで、馬主の山上(和良)先生を紹介してもらって相談したら、「行けるんじゃないか」ということで。
花代 :山上先生にはすごくお世話になっているもんね。
マイケル :全て先生のお陰、本当に。競りのやり方も、育成の場所も、全部先生に教えてもらいました。他にも、三宅(勝俊)先生、中西(功)さん等、周りでいろいろ教えてくれる方がいらっしゃるし、本当に恵まれています。
花代 :山上先生はずっと馬主をされて来て、その中でいろんなご苦労をされていると思うんです。それを惜しみなく私たちに教えてくださる。それに先生は、ご自身で牧場をいっぱい回って、馬もたくさん見られているんですよ。
マイケル :すごいですよ。どういうところで育ったかっていうのも全部見て。この間も先生と北海道に行って、1日で10箇所ぐらい牧場を回りました。
東 :ハナズゴールも山上オーナーからのご紹介だそうですね。
花代 :そうなんです。「マイケル君、良い馬がいたんだけど、この世代は僕はもう持っているから、もし欲しいんだったらどう」って。
マイケル :先生がいなかったら、あの馬には会っていないですね。
東 :ハナズゴールは2頭で200万だったという記事を見たのですが。
マイケル :ああ(笑)。いろいろ書かれているんですけど、もうちょっとしましたね。僕も正確には覚えてないですけど、シャープナーとセットで350万とか。
東 :馬は買う時の値段もしますし、その後のランニングコストも高いですよね。
マイケル :そう。それで先生から、200万ぐらいの馬でずっと無事に走っていたら、大きくは損しないと教えてもらって。月に1回ぐらい走れば出走手当もありますし、1勝すればプラスなんです。
東 :そうなんですね。そういう理想にレースを運んで行こうと思うと、厩舎との関係も重要になって来ますよね。
マイケル :そこはすごく重要です。多分、新しく馬主になる人の一番の悩みは調教師です。馬を買うのはできるけど、じゃあどこに預けたらいいかって。それに、付き合い始めるとすごく良い人が多いと思うんですけど、最初はどうやって付き合ったらいいかも全然分からなくて。
東 :はい。
マイケル :僕が特にそうなんですけど、やっぱりダビスタみたいな感じでやっているじゃないですか。ダビスタだったら「このレースを使いたい」「この騎手を乗せたい」とか全部自分で選べる。それなのに「何でそこで使うんかな」とか、そういうことがあったので。
東 :馬主になってまで思い通りに行かないって、悔しいですよね。
そこだけは理解ができないです
マイケル :調教師が全部任せてくれと言って、それで結果を出すんだったら納得できるけど、結果が出せなかったら、向うは痛くないのにこっちだけ痛いじゃないですか。競馬の常識で、馬主は口を出さずに調教師の言う通りにすべきだ、みたいな話をよく聞くんですけど、そこだけは理解ができないです。でも、今はすごく恵まれています。牧浦充徳先生とか加藤和宏先生は素晴らしいです。お互いに意見が言い合える関係ですし、こんなに楽しく馬主をできるのは、そういう良い調教師に出会ったからだと思うんです。
東 :出会いのきっかけは何だったんですか?
マイケル :最初にノアノアという馬を持っていたんですけど、その馬は元々違う馬主の馬で、それを買って。その馬を管理していたのが牧浦先生だったので、最初に関係ができたんです。
東 :ノアノアが馬主として最初に持たれた馬なんですね。
マイケル :はい。初戦が札幌の未勝利戦(2010/9/25)で、9頭立てで1.8倍の1番人気だったんです。「いきなり勝てる!」と思って見に行ったら、5着で「ええっ?」みたいな。そういうところからスタートして、1年ぐらい勝ち上がれなかった。
東 :現実はダビスタみたいにうまくいかないですね。馬主としての初勝利もノアノアで。
マイケル :そうです。いや〜、うれしかったな。ちょうどオーストラリアから親が来ていまして、一緒に新潟まで行って。
花代 :後で口取りのDVDを見たら、「マイケルオーナー」ってお父さんが映っているんです(笑)。
東 :間違えられてしまった(笑)? 初勝利なのに、お父さんが良いとこ取りですね。加藤先生とのきっかけは?
マイケル :山上先生に紹介いただいた、カナイシスタッドという育成牧場の金石社長を通じて、タニという馬を持っていたんですけど、その金石社長と加藤先生が同級生で、加藤先生がやりたいって言ってくれて、それで付き合いができたんです。
東 :じゃあタニがつないでくれて、それがハナズゴールにつながったんですね。
マイケル :そうなんです。タニはダビスタで一番走った馬の名前で、「最初に登録する馬はタニって付ける」って、昔からみんなに言っていました。
東 :ちなみにタニにはどういう意味があるんですか?
マイケル :いや、意味はないですよ。ダビスタで馬を作り過ぎて、名前なんかなんでもいいやと思ったら、意外とむちゃくちゃ強かった(笑)。
東 :今は奥様・花代さんのお名前からハナズ=Hana’sが冠名に。素敵ですね。
花代 :うれしいです。私の両親もそれで競馬を見るようになって。「ハナズ」って付いているとすぐ分かるじゃないですか。だから、逐一「今日出るよ」とは言わないんですけど、気が付いてすぐに電話をくれます。(Part3へ続く)
◆マイケル・タバート
1975年1月12日、オーストラリア出身。シドニーの近くのニューカッスルの高校で日本語を学び、日本へ留学。大阪外国語大学の日本語コースで1年間勉強した後、京都大学経済学部経済学科に進学。卒業後は母国で会計事務所に入社。99年、東京事務所への転勤で再来日。01年からは大阪事務所へと移り現在に至る。09年に馬主資格取得。11年8月にノアノア号で初勝利。12年3月、ハナズゴール号でチューリップ賞を制し重賞初勝利を挙げる。冠名のハナズは奥様「花代」さんの名前からとったもの。