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函館記念

  • 2012年07月16日(月) 18時00分
 ベテラン大活躍の荒れるハンデ重賞らしく、勝ったのは7歳トランスワープ(父ファルブラヴ)、2着に突っ込んだのは8歳馬イケトップガン(父マヤノトップガン)。洋芝でこそ真価発揮の渋いタフなベテランだった。6度目の挑戦になった11歳馬マヤノライジン(父マヤノトップガン)も5着に押し上げる大健闘である。

 種牡馬ファルブラヴ(その父フェアリーキングは、大種牡馬サドラーズウェルズの全弟にあたる)の不思議な種牡馬成績は、もうつとに知れ渡っている。自身はジャパンCなど中距離を中心に活躍して日本で種牡馬入りしたが、サイアーランキング上位に顔を出すほど成功しているわけではない。ここまで活躍しているその産駒たちは、短い距離ばかりが中心。これはフェアリーキング系の特徴だが、なぜか「牝馬」がほとんどなのである。ワンカラット、今週22日の「アイビスサマーダッシュ」で2連覇の期待されるエーシンヴァーゴウ、アイムユアーズ…など。

 現在、ファルブラヴ産駒の活躍馬を賞金獲得順にならべると、実に上位15頭まですべてを「男馬ではない」馬が占めている。みんな牝馬とはいえないのは、上位15頭の中に、トランスワープと、グローリーシーズ。せん馬が2頭入っているからである。

 トランスワープは5歳時に去勢されたせん馬。ファミリーは現在の日本でもっとも成功している名牝系のひとつ「輸入牝馬パロクサイド系」であり、祖母マックホープ(父ノーザンテースト)は、この牝系の代表格ダイナカール(父ノーザンテースト)といとこになる。

 また、このファミリーにはせん馬として名を挙げたトウカイポイント(父トウカイテイオー)がいるが、トランスワープとトウカイポイントは、ともに祖母にマックホープをもついとこ同士でもある。

 種牡馬トウカイテイオーは、GIを制した代表産駒トウカイポイントがせん馬になっていたため、サイアーラインが途絶えかけている。ひょっとする、トランスワープも種牡馬ファルブラヴの幻の後継馬になったりする危険はあるが、トウカイポイントも、5歳時に去勢されて生まれ変わったトランスワープも、せん馬になることによって重賞勝ち馬になるほど出世したのだ、という見方も否定できない。

 トランスワープは長い休養があったから、7歳とはいえまだ戦績は19戦[6-3-4-6]。とくに6歳夏から大野拓弥騎手(25)とのコンビを組んだケースでは[3-2-0-1]。1000万条件からオープンに駆けあがり、たちまち重賞勝ち馬に出世するほど手が合っている。今回は、先行して抜け出すのがパターンのトランスワープとすれば非常に苦しい位置取りになったが、少しもあわてることなく4コーナーを回るまでインぴったりで動かず、スタミナ温存。これまでの同馬とは思えないような追って伸びる脚を爆発させた。このあたりがコンビの利点だろう。

 今回が54kgの軽ハンデだったから、ハンデ戦の新潟記念(9月2日)ならまだ気にするようなハンデにはならない。一方、札幌記念(8月19日)だと今回と同様の洋芝で戦えるが、定量で相手はずっと揃う。2000シリーズを狙うにはどちらを適鞍と判断するか、考えどころである。でも、せん馬となったからには息の長い活躍をしたい。マヤノライジンを手本にするとき、来年の函館記念では注目のリピーターとなる。

 イケトップガンは5歳春にオープン入りして以降、ここまでクラスの厚いカベに苦戦してきたが、そのマヤノライジンや、昨年の勝ち馬キングトップガン(今年はぶつけられて失速)と同じマヤノトップガン産駒。少しずつ少しずつパワーアップし、前回56kgの巴賞ではメンバー中NO.1の上がり35秒3を記録していた。「59秒1-61秒3=2分00秒4」という先行馬くずれの展開と、軽量52kgが生きたのはたしかだが、8歳になって初めての重賞快走は見事なものである。タフなベテラン大活躍の函館記念らしい伏兵の快走だった。テン乗り丸田恭介騎手(26)も大野騎手と同じように道中はコースロスなくインでレースを進め、直線だけ外へ。スパートのタイミングも思い切りも良かった。

 巴賞を制して人気のトウカイパラダイス(父ゴールドアリュール)は、人気の中心とあって終始マークされる立場だった。内、外からずっと厳しいプレッシャーを受けていたのは敗因のひとつだが、小回りコースのグレードレース。そうそう優しい道中にはならない。パトロールフィルムをみると、いつも以上にせめぎ合いの厳しいレースで、タフなベテランが上位を占めた結果を考えると、したたかなレースキャリア不足の印象が残った。

 2番人気のネオヴァンドーム(父ネオユニヴァース)の敗因もトウカイパラダイスとまったく同じ。横から激しいプレッシャーをかけられ通しで、各馬の間に隙間が多い中央場所の広いコースとはしのぎ合いの厳しさが違っていた。こと函館記念では若い5歳馬である。同じく5歳のロードオブザリング(父ホワイトマズル)も果敢な先行策に出たものの、結果は、予想外の厳しい流れに巻き込まれての失速だった。

 流れを考えると、先行馬つぶれの中、粘ったミッキーパンプキン(ダンスインザダーク)はしぶとい。欧州タイプのファミリーらしく、これまでの良績は好時計の京都などに集中しているが、隠れた洋芝巧者を示す内容だった。北海道シリーズに良績のあるマイネルスターリーは、最内枠のため前半ちょっと流れに乗れなかったのが痛く、道中で脚を使わされた。さらに3コーナー手前から一気のスパート。思い切りは良かったものの、残念ながら流れは遅くなかった。結果、ちょっと強引だったかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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