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アイビスサマーダッシュ

  • 2012年07月23日(月) 18時00分
 昨年、歴代2位の53秒8で快勝したエーシンヴァーゴウが出走してきたが、今年は休み明け。公平にみて絶好調だった昨年にはあと一歩のデキだったろう。人気が割れ波乱を思わせる中、軽量51kgの3歳牝馬ビウイッチアス(父ダイワメジャー)、新潟1000mの村田騎手が乗る新星アフォード(父サクラバクシンオー)が人気を集めた。

 レースの中身は「11秒6-9秒9-10秒6-10秒2-11秒9」=54秒2ほとんどの年に共通のバランスどおり、2ハロン目と、4ハロン目に高速ラップが刻まれたが、前半の400mが「21秒5」、後半600mが「32秒7」は、レース全体のバランスとすると、前半がちょっと速すぎたかもしれない。とくに最初の1ハロン11秒6が最後になって明暗を分けることになった。

 モデルケースとされるカルストンライトオの「53秒7」は、「12秒0-09秒8-10秒2-09秒6-12秒1」=53秒7。もうひとつのモデルとなるエーシンヴァーゴウのレースの「53秒8」は、「11秒8-10秒0-10秒5-10秒0-11秒5」=53秒8。

 カルストンライトオはまるで馬場状態の異なるスプリンターズSも独走したほどの歴史に残るスプリンター。そのサマーダッシュの記録は強弱のつけ方が巧みすぎて別格にも近いが、分かりやすい上がり3ハロンをベースにすると「21秒8-31秒9」となる。

 エーシンヴァーゴウ自身のバランス記録は「22秒0-31秒8」である。とすると、今年の前半400mの21秒5は結果論ではなく、明らかに速すぎた可能性が高い。粘った3歳ハクサンムーン(父アドマイヤムーン、母の父サクラバクシンオー)は、自身21秒5-33秒0のバランスで54秒5の4着にとどまったが、まだ1600万条件の3歳馬。直線1000mも初めて。それに歓迎ではない内枠でもあった。

 父は近年のサマーダッシュでは最重要の根幹種牡馬ミスタープロスペクター直系のスピード能力あふれる種牡馬。そして母の父サクラバクシンオー。評価を低くしてしまったが、絵に描いたような来年のサマーダッシュの候補出現である。ほんの少しだけ前半をなだめて進むレースを取り入れるなら、気は早いが、54秒前後はラクラクと可能だろう。

 そのハクサンムーンが内からグングン飛ばす中、途中まであわてることなく悠然と好位に構え(前半400mは教科書のように22秒0)、サマーダッシュの勝ち方の理想形どおり残り400mあたりからスパートして自身の後半600m32秒2。全体時計の54秒2こそ、今季の超高速コンディションではない芝状態だから平凡に映るが、完勝したのがベテラン安藤勝己騎手のパドトロワ(父スウェプトオーヴァーボード、ミスタープロスペクター直系)だった。この距離で1馬身半は完勝である。

 すぐ横のエーシンダックマン(父サクラバクシンオー、祖母の父がミスタープロスペクター系)が、新潟1000mを知り尽くしている蛯名騎手の騎乗する先行一手型だったから、格好の目標にすることができた利もあった。でも、安藤勝己騎手はこれで新潟1000mは7戦[3-1-2-1]だという。決して、パドトロワも、安藤騎手も集中力が長続きしそうもないコンビだから、サマーダッシュの1000mが合っていたなどということはいえない。

 前半のなだめ方も、スパートのタイミングも非の打ちどころなし。完ぺきである。

 体調維持のむずかしいタイプで、気力が充実してくると動きがゴツゴツしたりすることも珍しくない(今回も返し馬などお世辞にも1000m向きとは思わせなかった)が、このあとはまた北海道にもどって8月26日の「キーンランドC(昨年はカレンチャンとクビ、ハナ差の3着)」に出走するだろう。サマースプリントチャンピオンのタイトルも夢ではない。あえて函館で追っての直前遠征。馬体重は予想されたほど絞れなかったが、陣営の1000m挑戦の決断は大正解だった。

 2着エーシンダックマンの54秒4は「21秒7-32秒7」。初めての直線1000mの内容とすれば上々である。ゴール寸前、もうひとがんばりして内のエーシヴァーゴウ、ハクサンムーンを捕らえてみせた。オープン馬は直線1000mの経験を重ねることはできないが、もうすこし緩急をつけたレースができるなら、来年は…の可能性がある。

 エーシンヴァーゴウの54秒5は「22秒1-32秒4」。昨年より体調一歩が記録にも出ているが、53秒8で乗り切った昨年と自身の中身は強弱のバランスを失っていないから、さすがである。ドバイ帰りの4か月ぶりの不利が大きかった。

 人気の3歳牝馬ビウイッチアスは、未知の魅力はあったが、1200mを1分07秒台で乗り切るスピード能力があるか。あるいは、直線1000mに抜群の適性があるかを問われるこのレース。残念ながら今回は、どちらの条件も満たしていなかった。

 アフォード(父サクラバクシンオー)は春の新潟で54秒4(22秒4-32秒0)。あとちょっと上積みがあれば争覇圏と思えたが、今回は55秒0(22秒6-32秒4)。前半ちょっと他馬の行き脚に迫力負けしていた。キャリアの差もあるが、重量級の典型的スプリンターを感じさせなかった。ダッシュ不足の前半22秒6では、後半600m〜800mの勝負どころスパートしようにも、すでに圏外である。

 1200mでは期待したこともあるオウケンサクラ(父バゴ)は、さすがに日本の直線1000mではまったくタイプが違うので、今回の凡走は仕方がない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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