あるひとつの名誉が人間の生き方を変えたという話は、たまには聞いたことがある。成功者が、この一言が人生を力強く生きる指針になったと述べるのを見て、自分もそうした言葉に出会いたいと思う者がいるだろうか。
聞いたり見たりするだけでは、たとえ得がたい名言であっても、自分のものにはならないものだ。ところが、幾たびか辛酸をなめると、このこころの様子は変わってくる。なんとかしなければという思えさえ残っていれば、段々とその志向が固まってくる。そして志をまげるなと自分を励ますようになるのだ。
実は、西郷隆盛に“志をまげるな”と述べた力強い言葉があることを知っていた。目にした本の中にそのことが書かれてあり、久しぶりに自分の心を覗くことができた。そこには、“幾たびか辛酸を経て、志は始めて固まるものだ。その志を貫くためには、玉となって砕けることを本懐とすべきであって、志をまげて瓦となってまで、生きながらえるのは恥とする”と書かれてあった。自分の中にある無限の可能性を信じなければ、とてもここまで言い切れないが、かくあるべしという信念は持っていた。
自分の中にある驚くべき力に気づくことはムズカシくとも、競走馬を管理するホースマンなら、手をかける馬にその思いを抱くことは可能だ。馬の持てる能力をどう最大限に引き出すか。その課題に取り組んでいるのがこの世界の人間で、可能性を信じているからその戦いが目の前で行われていると言ってもいい。見る側は、ひとつのレースの中にどれだけそうした思いを強く背負っている馬がいるかを探るのだ。目標、今なら秋のタイトルをはっきり口にできる陣営には、その馬に大きな力があることに気づいていると言っていい。クイーンステークスを勝ったアイムユアーズが圧倒的一番人気だったのは、多くの人たちがそれに気づいていたからである。“志をまげるな”何にどうすればと問うのだ。