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新潟2歳S

  • 2012年08月27日(月) 18時00分
 最近はずっと前半1000m通過「60〜61秒台」のスローペースが連続していたこのレース。今年は逃げ=先行の形で勝ってきた馬が極端に少なく、同様かそれ以上の緩い流れと思われたが、伏兵モーニングコールが外枠からややかかり気味にハナを切って前半1000m通過は「58秒9」。結果、1分33秒5のレースレコードが記録された。

 といっても、高速の新潟1600mでは決してきついペースではなく、レース全体のバランスは前後半「46秒9-46秒6」にとどまる。これまで新潟2歳Sを1分33秒台で乗り切った2002年のワナ、ヨシサイバーダイン、昨2011年のモンストール、ジャスタウェイのそのあとが大きな期待を集めたわりにもう一歩なので、この時期に速い時計でマイル戦を乗り切ること。あるいは高速の上がりを記録するのはあまり好ましいことではないと考えられてきたが、今年は緩みない流れで展開したため、上位3着までが従来のレコード1分33秒8を上回った。なにより馬場も良かった。変に負担がかかり、反動など出ることなく、スピード能力の証明をこのあとに結びつけたい。

 勝ったザラストロ(父ホワイトマズル)は、ここが3戦目。すでに新潟1600mの未勝利戦を1分35秒8(自身の上がりは33秒7)で乗り切っていたことが大きな自信になっていた。ゴール寸前の追い比べで、レース経験の差がプラスとなった。

 レース前半は後方にひかえ、慌てることなく4コーナーを回ってスパート。メンバー中No.1の上がり3ハロン33秒4をマークした。ときに大物を送るホワイトマズル産駒は、高速レース向きのマイラーを出す印象は少なく、代表産駒の多くは中〜長距離タイプだったり、ダンシングブレーヴ系らしく緩急のペースをこなすのが苦手なスピード型だったりするが、サンデーサイレンス牝馬との相性は抜群。アサクサキングス、シルポート、シャドウゲイト、シンゲン…などが該当する。ザラストロは、母の父がサンデー系のダンスインザダーク。母セクシーココナッツの半弟には脚部不安で大成はできなかったが、光る素質を秘めたココナッツパンチ(父マンハッタンカフェ)がいたファミリーの出身。直前の10レースに出走していた半姉プレノタート(父ジャングルポケット)以上の出世が期待できそうである。流れに柔軟な対応力があった。

 惜敗だったノウレッジ(父Street Sense)は、ダート1200mの新馬を勝ってここが2戦目。ゴール寸前、差し返す勢いをみせアタマ差の2着。BCジュヴェナイル勝ち馬として初めてケンタッキーダービー馬となった父ストリートセンスは、ゼニヤッタと同じストリートクライ(父Machiavellian)の代表産駒。イメージはダート巧者であったり、ダーレーの生産馬であることや、血統背景からドバイワールドC(ヴィクトワールピサの母の父もMachiavellian)を思わせたりするが、ダート1200mを直線一気の追い込み勝ちを決めたあと、一転、芝1600mを1分33秒5だからすごい。

 秘める可能性は勝ったザラストロに一歩もヒケを取らないだろう。そういう理由だけとは限らないが、蛯名騎手がエフティチャーミー(ダリア賞2着でここは4番人気)ではなく、10番人気のこちらに乗ってきたあたりも象徴的だった。平坦巧者と、ダート巧者は往々にして一致するケースが多いから、注目は坂のある中央場所だろう。

 ザラストロ、ノウレッジの2頭が、新潟2歳Sらしく差しての好走だったのに対し、2歳戦とすればきつい流れを早め早めに追走し、一度は先頭に並んだ小差3着の牝馬サウンドリアーナ(父ケイムホーム)。1分33秒6だから従来のレコードを上回っている。

 7月14日のデビュー戦に比べプラス20kgの馬体重だったが、少しも太めになど映らなかった。レース全体の流れを考えれば、1〜2着馬と遜色ない中身の濃い内容である。

 5代母はメジロボサツ(父モンタヴァル)。メジロドーベルなどが代表するファミリーの出身であり、この一族だから2〜3代前まではスタミナ色の濃い種牡馬が配されてきたが、同馬は母の父ダンシングブレーヴ、父はミスタープロスペクター系ケイムホーム。スピード色が前面に出ている。新潟2歳Sの好走馬は、とくに時計の速い年ほどのちになって評価が難しくなることがあるが、それは多くの場合、牡馬。牝馬は2007年のエフティマイアを筆頭に、3歳戦でもポイントの馬となることが珍しくない。

 人気のメイショウオオゼキ(父ハーツクライ)は、無理なく中団の外につけ、手ごたえも決して悪くなかったが、勝負どころの4コーナーからペースが上がった(11秒7-10秒9)ときに反応できなかった。バテたわけではなく、ゴール寸前になって盛り返すように伸びて4着。新馬より同じコースの同じ距離でタイムを2秒4も短縮したから、凡走したというよりこういうペースのマイル戦は合わない印象が残った。スローからのヨーイドンのレースなら1600mもこなせるが、平均ペースからさらに加速を求められるマイル戦は苦しかった。距離延びてだろう。

 みんなキャリアのない中での高速の1600m。本質スピード系の期待馬で、1分33秒台、34秒台前半のスピード決着に対応できなかったとなると、ちょっと心配が生じたが、タイプの異なるグループにとってはそう悲観する初重賞挑戦でもない。負けたグループはこれからの成長に期待し、あるいは違う距離区分を考えればいい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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