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新潟記念

  • 2012年09月03日(月) 18時00分
 難解なハンデ重賞らしく、これで1番人気馬は「11連敗」となり、組み合わせの難しい3連単は「7年連続」して6ケタ以上の高配当となった。

 外回り2000mが前半スローで流れるのはごくふつうになったが、今年もそれこそゆったりペースで展開し、レースバランスは「60秒4-57秒2」=1分57秒6。超高速の上がり決着に持ち込まれ、44秒8-33秒1。大接戦の上位7着馬までのうち、上がり33秒台だったのは2番手から抜けて粘った6着スマートシルエットだけ。ほかの6頭はみんな上がり32秒台を記録した。

 最後の直線に向くと、まるでスプリントレースと同じような加速が求められ、ペースアップした4コーナー手前から、残り1ハロンまでの3ハロンは、平坦の長い直線とはいえ「11秒7-10秒9-10秒3」=32秒9である。差す形になった馬、追い込んだ印象を残した馬もいるが、1分57秒台を記録した上位8着馬まではみんな、位置取りの難しい接戦とはいいつつ、ペースの上がる4コーナー手前では先頭から10番手以内にいた馬のみ。それより後方に位置した馬は圏外だった。

 レース上がり「44秒8-33秒1」だから、さすがに仕方がない。後方から追い込んだ馬は1頭もなく、10番手以内にいて失速したのは17着マイネイサベルだけ。ほんのわずかの位置取りの差とはいえ、控えたグループは全滅だった。

 勝ったトランスワープ(父ファルブラヴ)は、洋芝で2分00秒7の函館記念(54キロ)から、今回は3秒も速い1分57秒6で連勝。56キロへの増量と高速馬場を考え、最初から中団をキープし、メンバー中No.1の上がり32秒3を記録してみせた。あれより後方に位置していたなら届かなかったろう。去勢されてセン馬となった6歳以降、大野拓弥騎手とのコンビでは[4-2-0-1]。調教まで任されてトランスワープを知り尽くす大野騎手の、絶妙の巧騎乗だった。

 7歳以降になって4勝(うち重賞2勝)はすごい。最近ではカンパニーが思い浮かぶくらいで、きわめて希な記録だろう。ファルブラヴ産駒が快走すると決まって出てくるが、これで種牡馬ファルブラヴの賞金獲得額上位15頭までの代表産駒は、すべて「牡馬ではない」という不思議な記録が固まった。秋の天皇賞2000mの候補とまではいえないが、6歳時までは1000万下で勝ちあぐねていた同馬、ファミリーはダイナカール、エアグルーヴが代表するパロクサイド一族の出身。驚異の変身ぶりと、独特の血統背景(父ファルブラヴ)を考えると、伏兵の1頭にはなりえるだろう。8歳になって本物になったカンパニーはGIを連勝している。

 そのカンパニーの横山典弘騎手が4戦連続の騎乗となった評価落ちのタッチミーノット(父ダンスインザダーク)がに反撃に出て、あと一歩の2着。伏線はあった。高速の芝で先行しなければ好走不可能だった5月の目黒記念で、好位を取りに出たが他馬と接触の不利で折り合いを欠いて凡走。福島の七夕賞(2番人気)でも結果を出せなかったから、今回の横山典騎手は期するところ大だった。

 気合をつけて最初から好位のイン確保。流れに乗り、仕掛けを待って抜け出した。寸前トランスワープの切れに屈したが、5歳春の大阪杯を1分58秒0でヒルノダムール、ダークシャドウなどと接戦の能力を改めて示すことができた。今回は14キロ絞って496の馬体重。大阪杯が490だったから、500キロを超えない方がいいかもしれない。

 七夕賞辛勝の内容と、小倉記念凡走で評価の下がったアスカクリチャン(父スターリングローズ)は、ゴール寸前狭いところをこじあけて小差3着。内田博幸騎手に手が戻ったこともあるが、こちらはこれで新潟芝[4-0-3-1]。いかんなくコース巧者ぶりを見せつける好走だった。クビ、クビ差の3着でサマーチャンピオンのタイトルには手が届かなかったが、この馬、ハンディキャップホースではなかった。

 種牡馬スターリングローズ(父アフリート)は必ずしも著名種牡馬ではないが、ファミリーはオークス2着ゴールデンジャック(産駒に関屋記念のサイドワインダーがいる)の全弟。競走時は圧倒的なダート巧者だったが、アフリート系(変幻自在に広がるミスタープロスペクー系の主流血脈)らしく、芝、ダートは問わない。さらに評価が上がること必至である。

 エクスペディション(父ステイゴールド)は、今回は初コース(左回りも初めて)でちょっとカリカリしていたのと、2キロ増が応えたが、0秒1差なら負けても中身は十分。ここにきての充実は本物。小倉コース以外で答えを出した自信は大きい。

 人気のトーセンラー(父ディープインパクト)は、これで左回り[0-0-0-4]。左回りが不向きというより、持ち味は鋭い切れ味なのに、長い直線の東京や新潟では脚のつかいどころが難しい印象をまた強くした。今回はローテーションもきつく、京都で快走しているから、コーナーの多い小回りコースの方が切れると決まったわけでもないが、ビッグレースを目ざすには迫力と存在感がちょっと足りない。

 スマートシルエットは粘りに粘って快勝した前回(上がり33秒3)とほとんど同一の33秒2でまとめたが、ゴール寸前の競り合いになって6着。時計差は0秒2。上がり3ハロン、あるいは2ハロンの高速決着は平気だが、目標になった不利は別にして、50mとか100mに集約される一瞬の鋭さ比べが合わないタイプだろう。

 ステラロッサは、高速上がりをこなした前回が買われたが、それが落とし穴。究極の上がり32秒3を記録したあとの中1週。中間の動きからは大丈夫と思われたが、当日はゆったり落ち着いていたのではなく、反動が出てまるで元気がなかった。

 58キロのナリタクリスタルはこの重賞2連覇のレース運びと同様、スローペースに乗っての先行策と思われたが、今年は一転、控える作戦。小倉の前回は突っ込んだもののまるで流れが違うからこの馬の上がりは鋭くみえても34秒4。今回は自身最高の32秒5を記録したが、後方からわずかに差を詰めただけだった。もともと脚質は自在だからためる策もありだが、ここまでの高速上がりは誤算だったろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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