何事にも偏(かたよ)ることなく、一方に過ぎないよう心がけたいものという教えがある。仏教ではこれを、「琴のたとえ」というお話を引用して説いている。それはこんな話の展開だ。
「琴を弾く時、弦を強く張り過ぎるといい音色にはならず、そればかりか弦が切れることさえある。また、弦を緩め過ぎると音は出なくなってしまう。強すぎず弱すぎず、このことを心掛けるべきである」と。つまり、修行するときは、努力精進があまり度が過ぎると心が興奮し、そうでないと怠惰に陥ってしまうから、強すぎず弱すぎずと程合いが大切だというのである。
この一方に過ぎない程合いということ、この身の上において心すべきなのだが、全く似たことが馬の世界にも見ることができる。
先週あった札幌2歳ステークスは、距離が千八百米になってから、ジャングルポケットやサクラプレジデント、アドマイヤムーンにロジユニヴァースと、その勝ち馬からのちの活躍馬を輩出してきた。去年の1、2着馬グランデッツァ、ゴールドシップを上げずともここから来春のクラシック戦線という考え方は、当然してみたくなる。
しかし、ここからどうステップアップさせていくかが問題で、どの陣営も、一方に過ぎず、その時々の課題を程合いよく克服させて大きな成果につなげていったのだ。競馬を見ていく上で、この点は大切なことだし、見ていて楽しみではないかと思う。
今年の勝ち馬コディーノは、初戦が2馬身の出遅れから圧巻的マクリでねじ伏せるという、スピードにのせてからの次元の違う走りが印象的だったが、2戦目のステークスは好スタートを決め、好位から抜群の手応えで他馬を寄せつけず文句なしのレコード勝ち、明らかにステップアップしていた。テンションが上がりやすい性格という課題を、どう程合いよく成長させていけるかここが見所だ。