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アグネスデジタル産駒の「芝→ダート」ショック!

  • 2012年09月19日(水) 18時00分
 今年度版の『血統辞典』の完成が、いよいよ近づいてきた。今回はオプションとして「ダートから芝」「芝からダート」という、馬場替わりショックを2つ入れている。今までは馬場替わりショックを1つに括っていたのだが、どちらかが得意で、どちらかが苦手な種牡馬もいるので、しっかり分けようという作戦だ。

 前走芝から今回ダートという、「芝からダート」ショックでA評価を受けた主要種牡馬は、アグネスデジタル、オペラハウス、キングカメハメハ、ゴールドアリュール、ゼンノロブロイ、ネオユニヴァース、フレンチデピュティ、ウォーエンブレム、オンファイア、サウスヴィグラス、Giant's Causeway、スウェプトオーヴァーボード、トワイニング、プリサイスエンド、ボストンハーバーとかなりの数に上る。

 それっぽいダート血統も多いが、キングカメハメハやネオユニヴァースなど、芝で強い馬もA評価を貰っているのが、なかなか興味深い。データだけでは仕方ないのでアグネスデジタル産駒で実際のレースを調べてみると、なんとも衝撃的な内容に出会った。

 アグネスデジタル産駒を本賞金順に並べると、ヤマニンキングリー、グランプリエンゼル、ダイシンオレンジとなる。

 ヤマニンキングリーは芝とダート両方の重賞を勝ち、グランプリエンゼルは芝1200m重賞勝ち、ダイシンオレンジはダート1800m重賞勝ちと、さすが幅広い条件で走ったアグネスデジタルの仔だけあってバリエーションに富む3頭だ。

 それぞれに個性があるのだが、この3頭の戦績を調べると、驚くべき共通点が見つかった。そう! 今回のテーマである、芝からダート替わりで3頭とも激走しているのだ。

 ヤマニンキングリーは昨年の出来事だったので鮮明に覚えている方も多いだろう。シリウスS(ダート2000m)である。芝で11戦3着以内がなかった6歳馬が、突如生まれて初めてのダート戦、しかも重賞でいきなり0.4秒差の圧勝劇を演じたのだった。衝撃的だったので、「ああ!あれか」とみなさん、思い出したのではないだろうか?

 ダイシンオレンジのダート勝ちも、実は芝を4戦してすべて6着以下後、初ダートでの圧勝劇だった。では芝馬のグランプリエンゼルはどうか? というと、これまた芝で9着惨敗後のダート戦で、10番人気でいきなり勝って2勝目を挙げたのである。本賞金ベスト3が、3頭とも芝からダートで激変しているという、恐るべき「芝からダート」ショック適性だ。

 どうしてこのような現象が起きたのだろうか?

 アグネスデジタル産駒はS系で、もともとショック全般を好む傾向にある。S系は闘う意欲が旺盛なので、もともと“短縮”や“芝からダート”を好む産駒が多い傾向にある。S系で、しかもダートをこなすタイプだと、かなりの確率で芝からダートのショックは好きだと判断していいだろう。

 また、アグネスデジタル産駒の変わり身指数が「56」と高い点もポイントだ(変わり身指数とは、前走凡走から変われるかどうか、その変わりやすさを指数化したもの)。ショックが好きな馬や、気がいい馬には、惨敗から巻き返せる変わり身指数が高い馬が多い。

 アグネスデジタル産駒は変わり身指数が高く、芝からダートのショックがA評価で、S系と三拍子揃っている。M的にいえば、前走芝戦惨敗からダート戦で急変する要素を、すべて持っていると言えるだろう。

 面白いのは「ダート適性が芝以上に抜群だから、芝からダートショックがよく効く」といった、短絡的なことを表しているわけではない点である。

 その証拠に、ヤマニンキングリーは初ダートで激変した後、ダートばかりを4戦したがすべて6着以下。グランプリエンゼルはご存じ、その後は芝重賞のトップクラスで活躍を続けている。

 つまりこの2頭は、特別芝よりダートが得意なわけではないということだ(もちろんダート適性もあったのだが)。単に、芝からダート替わりショック、つまりショックそのものが好きだったからに過ぎない。

 そこが、いかにもM的であり、馬は適性や能力だけで走るのではなく、記憶の連続性、これまでとの感じ方の違い、そういった時間と空間の関係性の中で、着順を決める生き物だということである。それはまったく、人間の日常と変わりない。

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ストレス、ショック療法など、競走馬の心身構造を馬券にする「Mの法則」を発見し、従来の競馬常識を完全に覆した。現在は、競馬雑誌等で活躍中のほか、馬券研究会「Mの会」を主催し、毎週予想情報の提供を行なっている。主な著書に「短縮ショッカー」、「ウマゲノム版種牡馬辞典」、「ポケット版 大穴血統辞典」などがある。

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