2連覇のかかったチャンピオン牝馬カレンチャン(父クロフネ)と、同じ安田隆行厩舎のライバル=ロードカナロア(父キングカメハメハ)の攻防は見ごたえがあった。
6着サンカルロまでが後半3ハロンを「33秒台」でまとめ、その6頭すべてが1分07秒0以内でゴールに飛び込む高速の大激戦だった。しかし、着差は別に、その中身は2頭のマッチレースに近かったろう。
「1分06秒7」のコースレコードが記録されたレースの中身は、「前半32秒7−後半34秒0(最後11秒5)」。前半が下り坂に近い中山の1200mのコース形態から、前半の方が1秒5くらい速い前傾バランスになるのはごく自然の流れである。
レース前から、有力馬の陣営はこの馬場コンディションなら1分07秒0のレースレコード前後(コースレコードは1分06秒9)は必至。ひょっとすると更新されるかもしれない予感があった。みんなが時計を短縮できるコンディションだった。
1200mのGIに展開うんぬん、ペースうんぬんは関係ない。だれもが勝ち時計の予測がつき、実際にそのタイムで決着するのだから、あとはどうやって自分の騎乗した馬を1分07秒前後で乗り切らせるかの勝負である。1分07秒前後で乗り切る能力のない馬はどう乗っても台頭できない。ここには紛れの生じる道理はない。
好スタートのカレンチャン(池添騎手)は、2ハロン目に「10秒1…」のラップが刻まれた地点で、先行争いの一団から意識的に下げ、池添騎手は手綱を引くようになだめた。カレンチャン自身の前半3ハロンは33秒1である。計算できるものではなく、あくまで感覚だが、素晴らしい判断だった。ひと呼吸入れたカレンチャンは3コーナー過ぎから先行馬との差を詰めにかかった。4コーナーでもう先行馬の外に取りつくと一気にスパートをかけ、自身の前後半は「33秒1−33秒7(11秒6)」。走破タイムは1分06秒8のコースレコードであり、かつレースレコードに相当している。
馬場状態も、自身の力量も少々異なった昨年が「33秒6−33秒8(最後11秒7)」=1分07秒4だから、今年のレースの中身は文句なしといっていいだろう。
ただ、あくまで結果論。ほんの小さなスパートのタイミングに過ぎないが、せっかく猛ラップの前半の競り合いを避け一度は引くことに成功したカレンチャン、もうひと呼吸か二呼吸、3コーナー過ぎからのスパートを遅らせていたなら、2連覇のチャンスはもっときわどいものになっていたかもしれない。あとで振り返ってラップを見るなら、あれでも動くのが早かったのか、という悔いは残った気がする。
それでもロードカナロア(岩田騎手)さえいなければ、コースレコードでスプリンターズS連覇を達成していたことになるのだが、現実には、一番怖いライバルのロードカナロア(2番人気)が直後にいた。初のGI挑戦となった高松宮記念ではカレンチャンに0秒1及ばず、ゴール前の詰めを欠いたロードカナロアは、いままさに充実の4歳秋。今回、ケタ違いにデキも良かった。前年の覇者であり、高松宮記念でコンマ1秒だけ及ばなかった大目標のライバルが目の前にいるのだから、こんな有利な位置はない。ましてお互いどこまでなだめて進み、どこまでスパートを我慢できるかの猛ペースの流れである。
ロードカナロアは枠順もあって、最初から好スタートで先行するカレンチャンを射程に入れて進めばいい立場だった。セントウルSが示すように秋になっての力関係はほとんど互角。そのライバルが2馬身ほど前にいてくれる形で、いやでも察知できる猛ペースだから、お互いどこで勝負をかけたスパートに出るかだけである。この日、年間100勝を達成してモード絶好調。リズムに乗りきって、顔つきまでニコニコの岩田騎手にとって、これ以上の望ましい位置関係はありえない。
この形になったら、マークする側に回った馬断然有利は勝負ごとの定め。抜け出そうとするカレンチャンから離されることなく加速できた時点で、4コーナーを回るあたりですでに勝敗の帰趨はみえたかもしれない。カレンチャンのスパートが結果的に少しばかり早かったとしたが、そうではなかった。カレンチャン(池添騎手)は、負けはしたが100点満点だった。ロードカナロア(岩田騎手)が120点だったのである。
人気急落のドリームバレンチノ(父ロージズインメイ)は、間隔があいて中間の気配もう一歩だったキーンランドC時とは一変、素晴らしい動きで、返し馬でも突き差すようなフットワークを回転させていた。うまく内を回ってきたから、コースロスはなかったが、馬込みの外を自分のリズムで回ってスパートできた1〜2着馬より、前半から狭い馬込みをさばかなければならなかった目に見えないロスが0秒1差だったろう。1〜2着馬はスパートのタイミングのほんの小さな差が明暗を分けた気がするが、そういう視点に立つなら、3着のこの馬もほとんど能力差はないに等しい。
ゴール寸前になってエンジン全開のエピセアロームは、ちょっとレースの流れに乗り切れない印象があった。たしかにマイルよりはこの距離が合っているが、本物のスプリンターというには自分でスパートできないあたり、まだなにかが足りない。というより、典型的なトップスプリンターとは異なる部分があるのだろう。
香港のラッキーナイン、そしてサンカルロはともに上がり33秒3〜4の末脚で突っ込んできたが、置かれた時点で、今年のような高速の1200mでは善戦止まりになるのは仕方がない。記録の上では小差だが、惜しいというレース内容ではなかった。
人気の1頭パドトロワは、前半32秒7の猛ペースになったが、この馬は引いてはおそらく(まず)アウトなので、競り込む馬が出てはどうしようもない。振り切って坂を上がるところまで先頭、1分07秒3だから能力は出し切った。