2010年のアリゼオ=エイシンアポロンにつづき、3歳馬カレンブラックヒル=ジャスタウェイの1〜2着。昨2011年の2着馬リアルインパクトも3歳馬だったから、秋のビッグレースの前哨戦となる毎日王冠の色合いが急速に変化した感がある。ここ3年間の連対馬6頭のうち、実に5頭までが3歳馬となった。
3歳馬(とくに牡馬)にとって、菊花賞3000mを展望するなら、セントライト記念、あるいは神戸新聞杯をステップに菊花賞とつづく「一直線の最後のクラシック路線」はあるが、スプリンター型はとっくに3歳以上の混合戦になっている。さらにはマイラータイプにとってもすでに路線は春後半から3歳以上であり、中〜長距離タイプにとってのみ、3歳馬限定の「菊花賞3000m」という路線が残されているのである。
明らかにマイルから中距離2400mまでくらいを理想の距離と考える陣営の、絶好の「腕試し戦」となるのが毎日王冠であるのは少しも不思議ではない。4歳以上のトップホースが数多く出走してくるから、対戦比較がなく展望の難しかった3歳馬とっては絶好の能力見きわめ戦になる。多くの3歳馬にとって斤量面のアローワンスもある。
しかし、いきなり古馬との最初の手合わせが、GIIの中でもとくにレベルの高いことで知られる毎日王冠では尻込みする場合が多かったら、あまりこの路線を選ぶ陣営がいなかっただけのこと。3歳馬は、近年の秋の天皇賞2000mで2010年にペルーサが2着。2007年(最強に近いメンバーの年)にディープスカイがハナ、クビの3着、2006年にはアドマイヤムーンが3着(勝ったのはカレンブラックヒルの父ダイワメジャー)、2004年には牝馬ダンスインザムードが2着し、2002年にはシンボリクリスエス、1996年にはバブルガムフェローが勝っている。
毎日王冠(路線は当然、秋の天皇賞)で3歳馬の台頭が目立ってきたのは、明らかにマイラー、中距離タイプが多くなってきたためだが、3歳馬限定の菊花賞3000mの位置や価値うんぬんはとは観点の異なる別問題である。生産に関与しない香港が、多くの競走馬がスプリンター、マイラーに集中してきたから、もう2000m級のレースを少なくし、評価下げしてしまおうと考えるのと視点が同じになりかねない。
カレンブラックヒルは、1分34秒5で独走した5月のNHKマイルCが、「前半47秒3−後半47秒2」の一定ペースの逃げ切りだったこと。また、もっとペースの速かったニュージーランドTでは先行争いを避けて抜け出してきたように、どちらかというと、快速系のマイラーというより、皐月賞2000mを制して頭角を現した父ダイワメジャーの最大の長所を受け継いだスピードあふれる中距離型に近いのだろう。
激しく先を争うように前半「34秒5−46秒0−57秒8…」で飛ばしたシルポート(14着)、2番手グランプリボス(6着)と離れ、同馬の前半1000m通過は推定58秒8前後か。カレンブラックヒル自身の前後半バランスは、推定「46秒8−(11秒8)−46秒4」となる。相手のいるレースだから、絵に描いたようなバランスにはならないが、しかし、高速決着の1800mを制したここが5戦目の3歳馬とすると、驚くべきペース配分である。というより、自信をつけた秋山真一郎騎手のカレンブラックヒルと一体になったスピード感覚こそ素晴らしい。
シルポートとの間の取り方、慌てることなく少しずつ差を詰めにかかったスパートなど、見事というしかない。というのも、もっと強気に早めにシルポートを捕まえに出ていてもやっぱり勝って、1分44秒6ぐらいを記録していたかもしれないが、天皇賞.秋を展望するとき、今回の内容のほうがずっと天皇賞.秋を描きやすくなったという意味である。
伏兵ジャスタウェイ(父ハーツクライ)は、NHKマイルCでカレンブラックヒルから0秒8差の6着(4番人気)。上がりはメンバー中NO,1の34秒2で、独走の勝ち馬を0秒2上回っていたこと。今回はG?馬の勝ち馬より2キロ軽い54で出走できたことなど、カレンブラックヒルを信じるなら、机上計算では2〜3着に台頭して不思議ないが、そんな簡単ではないのは当たり前。でも、レースレコードのハイレベルだった1800mのきさらぎ賞がもう少し走れそうな内容で4着。54キロならこのくらいのレースを展開できる資質を秘めていたということか。ゴール寸前は勝ち馬を追い詰めてクビ差だからすごい。
3着タッチミーノット(父ダンスインザダーク)は、高速決着に対応すべくスタートで激しく気合を入れて最初は5番手前後を確保。だが、追走しては伸びなくなるハイペースとみるや、少しずつ位置を下げ、一度は10番手前後。インぴったりから直線スパート。これ以上はないと思える最高の騎乗だったが、あれでカレンブラックヒルだけでなく、ジャスタウェイに競り負けては、残念ながら、GI展望は厳しいか。2000m級より1800mのほうが合っていたのは確かだったのだが…。
人気のエイシンフラッシュは、調教では豪快に動いたが、今回は動きが全体に硬い印象が濃かった。体調一歩だったろう。それにしても9着(0秒6差)は負け過ぎだが、この馬、日本ダービーの高速上がりや、皐月賞、有馬記念の好走が示したのは、楽に追走できたときの切れ味(そう長続きはしない)である。こういうハイペースや一定ペースはあまり得意ではないだろう。体調は別に、昨秋の天皇賞は粘って善戦とはいえ、最後は6着。高速上がりは欧州血脈の典型だから平気。でも、全体が高速のレースは得意ではない。
トーセンレーヴ(父ディープインパクト)は、素晴らしい状態に映った。ピンナ騎手ではないが「どうも理解できない」。きわめて難しいのは、燃焼タイプの一面もあるから、続けてはめったに好走してくれないことだろう。凡走したから、次回の方が怖い。
フェデラリスト(父エンパイアメーカー)はエイシンフラッシュと同じで追い切りは抜群に動いたが、今回は明らかに急仕上げだった。ストロングリターンは、一説によると春の方が体調がいい馬とされるが。どのみち真価発揮があれば次のマイル戦だろう。