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アルゼンチン共和国杯

  • 2012年11月05日(月) 18時00分
 最近になって、出世レースとして大きな注目を集めることになった東京2500mのGIIを制したのは、4歳馬ルルーシュ。2着ムスカテール、3着マイネルマークも同じ4歳馬だった。この日、同じトーンをもつダート重賞の「みやこS」を勝ったのも、注目の4歳の上がり馬ローマンレジェンドである。

 開催ごとに2歳戦が増えるのにしたがい、世代交代の波を受けるのが3歳以上馬。3歳馬はつい最近まで限定戦が組まれていたから、まだ若駒に近い扱いだが、もう古馬としてくくられる「4歳以上馬」は、世代交代の大きなうねりの中にいる。2歳馬がどんどん入厩して加わってくるから、平凡な成績をつづけていては、場合によっては制限頭数のある管理馬からはじき出されかねない。

 オープン馬としてすでに確固たる自分の位置を獲得している馬は大丈夫だが、まだ評価の確定しない4歳馬は、ちょうどいまこの時期が「本物」になって生き残れるか、それとも世代交代の嵐の中に飲み込まれてしまうか、問われる時期なのだろう。

 2010年から重賞となった「みやこS」で、エース級のオープン馬として評価を確定させた4歳馬は、いきなり勝ち馬がトランセンド。11年は、2着トウショウフリーク、3着ニホンピロアワーズ(今年も2着に好走)が4歳馬。

 そして「アルゼンチン共和国杯」では、出世レースとして4歳馬の大攻勢がはじまった2007年のアドマイヤジュピタを出発に、08年はスクリーンヒーロー、ジャガーメイル、アルナスライン。09年はアーネーストリー。10年にはトーセンジョーダン。そして昨11年のトレイルブレイザーなど…が4歳の台頭馬。

 アルゼンチン共和国杯を勝って賞金を加算したルルーシュ、2着ムスカテールは、近年の流れをくむなら、古馬のGI級に出世できる約束の切符を手にしたことになる。

 ルルーシュ(父ゼンノロブロイ)は、期待されたオールカマーが案外の内容で4着。直線の坂で沈んだため評価が難しかったが、当日輸送なしの北海道シリーズから帰って、当日輸送の中山で、レコード勝ちした札幌日経オープンの508キロの馬体重からプラス10キロの518キロ。馬体充実とみえたが、結果としてかなり余裕残しだったのだろう。今回はマイナス16キロ。絞れて502キロ。このほうが体の線がシャープに映った。

 デビューの2歳夏の新馬戦当時から、無理なく流れにのって抜け出す正攻法の戦法が、2000m以上のレースになったいま最大の強み。今回の2500mは、伏兵ミッキーペトラが「1分12秒1−(6秒5)−1分11秒3」=2分29秒9という理想的な平均ペースを作ってくれたから、途中まではこの流れに乗って進んだ。長距離戦のペース判断、ましてそれが先行タイプだったら他の騎手の追随を許さない精度を誇る横山典弘騎手だから、余力十分だった終盤は4−コーナーでもう先頭に立っている。最後は「11秒5−11秒2−11秒8」。余力を残して上がり34秒5。

 芝コンディションがいいから、レコードと0秒1差の2分29秒9(2400mなら2分24秒0前後に相当)はとくに速いものではないが、まったく危なげなしの完勝だった。長い休養があったから、レース数は少なく11戦【6−2−1−2】。すべて4着以内。ビッグレースの多い東京に良績集中は心強い。

 どういう距離が理想なのか、本当は2000m級のレースの方が合っているのではないか、など、まだ全容を現してはいないが、それだけにこの先が楽しみである。父ゼンノロブロイ(サンデーサイレンス)は、2004年秋の古馬3冠「天皇賞・秋→ジャパンC→有馬記念」3連勝を達成している。ただ、自身の血統背景と、ここまでの代表産駒のペルーサ、トレイルブレイザー(BCターフは、もっと走れそうに思えたが)、アニメイトバイオ、サンテミリオンなどの印象から、2000m級が理想のスピード系とする見方が多い。ルルーシュがこのあとに挑戦するジャパンC、あるいは有馬記念などで快走すると、こなせる距離の幅の広い種牡馬としてさらに評価は上がるだろう。

 ムスカテール(父マヤノトップガン)は、中団からメンバー中NO.1タイの上がり34秒2で伸びてきた。ずっと大きな注目を集めてきたジェドゥーザムール(父トップヴィル)の牝系で、母シェリール(父サンデーサイレンス)が、ダイワカーリアンの半妹になる。どちらかというと遅咲きのタイプが多いマヤノトップガン産駒。古馬になって初のオープン挑戦の、それも出世レースのアルゼンチン共和国杯で結果を出した自信は大きい。

 3着マイネルマーク(父ロージズインメイ)は、今回対戦した9歳マイネルキッツの半弟。兄が58キロ、弟は軽量52キロ。先着して当然とはいえ、尊敬できる兄と対戦することになったここで、自ら世代交代を告げる形になった。1000万を勝ったばかりで、まだ条件馬。兄マイネルキッツがオープンになったのは5歳になってからのこと。同じ国枝厩舎の所属馬だから、これからの展望を描きやすい立場にある。

 レースの傾向にわざわざ逆らって、7歳のオウケンブルースリ(父ジャングルパケット)の復活に肩入れしたが、後方差詰めの7着止まり。完敗だった。デキは決して悪くなく、本来の少しカリカリするような仕草をみせていたが、いいときならこういうレース上がり34秒5の流れでも、それなりのレースができたはずである。気配は良く見せても、かつての力は……なのだろうか。ジャパンC5度目の挑戦は難しくなった。

 1番人気のギュスターヴクライ(父ハーツクライ)は、きわめて残念。いつもより位置取りが悪く、追い出しての反応も鈍かったのでみんな不可解だったが、右前浅屈腱の不全断裂の診断が下った。脚光を浴びた同期の仲間ルルーシュ(同じ社台F生まれ。誕生日はわずか2日違い)が勝った出世レースだけに、つらいものがある。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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