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エリザベス女王杯

  • 2012年11月12日(月) 18時00分
 降りつづく雨が一段と激しくなった中でスタートした秋の牝馬チャンピオン決定戦は、レース史上もっとも時計を要し、2分16秒3の決着。レースレコードは2分11秒2。スタミナと勝負強さを求められる激しいレースとなった。

 レース全体の流れは「62秒4−(12秒9)−61秒0」。上がり36秒4−12秒4。残る数字は穏やかな平均ペースのようにも映るが、どのハロンも良馬場で計測される時計より「0秒5」程度かかっている。そこで、全体タイムは良馬場の予測勝ちタイム2分11秒台前半より、11ハロンで「5秒」要することになった。厳しいレースである。

 断然人気の3歳馬ヴィルシーナを競り落として勝ったのは、ベテラン5歳のレインボーダリアだった。レインボー…という名前からして、レインボーアンバー(不良の弥生賞を大差勝ち。祖父ノーザンテースト)などの重巧者が連想されるが、たまたま今年の16頭の中で、芝の重馬場発表のレースを勝った記録があるのはこのレインボーダリア(父ブライアンズタイム。母の父ノーザンテースト)だけである。

 大ベテランの名種牡馬ブライアンズタイム(27歳)産駒のGI制覇は、2004年の皐月賞ヴィクトリー以来のことになる。でも、まだ健在だから素晴らしい。ベテラン柴田善臣騎手(46)のGI制覇は、同じように渋馬場だったナカヤマフェスタ(同じ二ノ宮厩舎)の宝塚記念以来のこと。ベテランは雨に打たれるのに慣れている。

 ブライアンズタイム産駒といえば、今回のヴィルシーナでまたまた惜敗だった友道厩舎に所属する菊花賞2着馬スカイディグニティ(大栄牧場生産)は、まだまだ健在ブライアンズタイムの最近の代表産駒であり、母の父ノーザンテーストという配合形まで女王杯のレインボーダリア(大栄牧場生産)と同じである。菊花賞2着の3歳スカイデグニティは、やがて古馬になっての本格化がみえた。おそらく重馬場も歓迎だろう。

 洋芝の北海道シリーズで全5勝中の4勝を挙げていたレインボーダリアは、夏のクイーンSが0秒2差。大外枠の府中牝馬Sが上がり32秒9で脚を余した感もある0秒4差。5歳のこの秋、再び成長曲線に乗ったかのように絶好調だった。昨年のエリザベス女王杯で17番人気(5着)に推された当時とは明らかにちがっていた。

 高速の府中牝馬Sとは逆に、重馬場の外枠は不利ではなかった。気合を入れて中団の後方で流れに乗せた柴田善臣騎手は、途中からスタミナを消耗させる馬場を考え、少しずつ少しずつ芝のいい外寄りに進路をとっている。3コーナー手前から、直後にいたエリンコートが猛然と奇襲スパートに出たときも連れて動いたりしなかった。慌てることなく先行集団の外を選んで、直線に向いてスパート。悪コンディションゆえ、ベテラン騎手の経験に裏打ちされた沈着な読みが、絶好調の牝馬に重なった。最後は馬体を合わせてきた3歳ヴィルシーナをねじ伏せるように競り落とした。

 惜敗のヴィルシーナ(父ディープインパクト)は、決して自身は重馬場歓迎ではなくとも、懸念のあと一歩の詰めの甘さをカバーできる渋馬場は、他馬の切れが鈍る分だけ、先行してまずバテない同馬にプラスになると思えた。少し気合をつけつつもスパートを待っていた4コーナー手前で、外から勢いよくエリンコート(父デュランダル。池添騎手)が進出していったのが、結果的に痛かった。決して合わせてスパートを開始したわけではないが、相手は歴戦の古馬牝馬(ましてオークス馬)。前の4歳オールザットジャズ(川田騎手)も動いたから、さすがにもう待つわけにはいかなかった。

 外から伸びたレインボーダリアに寸前まで抵抗したが、最後は厳しいコンディションの中、歴戦の古馬の勝負強さに一歩譲る形になってしまったのは仕方がない。力負けという表現はふさわしくないだろう。秋華賞に全力投球したあとであり、今回が初の古馬との対戦でもあった。これで5戦連続の2着。通算【3−5−1−0】。GIはすべて連対の2着4回。しかし、まだ3歳。似た過程の4歳ホエールキャプチャがそうだったように、来季、4歳になってGI制覇の機会は当然のように訪れるだろう。

 ピクシープリンセス(父ディープインパクト)の追い込みは惜しかった。3コーナーまでずっと最内追走で我慢。あえてスパートを遅らせ、そこからは一転、重馬場の大外一気。京都コースの特徴も、日本では珍しいこういう渋った馬場でのレースパターンも知り尽くすM.デムーロ騎手の、思い切った騎乗だった。ゴール地点を過ぎ、レインボーダリアもヴィルシーナも力尽きて止まったが、ピクシープリンセスは一気に抜き去り、脚を余したとはいえないが、まだまだ余力があるかのようなフットワークだった。ここにきての急上昇は本物。もう能力は1600万条件のそれではない。

 2番人気のフミノイマージン(父マンハッタンカフェ)は、成績通り重馬場は不得手なのだろう。開き直ってコースロスを避け、最内を狙う苦しい作戦に出たが、ちょっとしか脚は使えなかった。3番人気のホエールキャプチャ(父クロフネ)は、こういう馬場で返し馬に入るといかにも非力な印象が前面に出てしまった。クロフネ産駒だが、力の競馬は合わない。ヴィクトリアマイルを1分32秒4で快勝した馬である。

 直線、先頭に立って見せ場を作ったオールザットジャズ(父タニノギムレット)は、エリンコート(14着)の猛スパートにちょっと幻惑された形で4コーナー手前から一気に勝負に出てしまった。残念、相手は形作りのエリンコートではなかった。

 伏兵として期待したマイネイサベル(父テレグノシス)は、雨に打たれてパドックに入ってきたときから、隣のアカンサス(父フジキセキ)とともに元気がない。遠征の輸送競馬で、待っていたのは激しい雨。闘志がへこんだ印象はぬぐえなかった。この馬場で内枠もきつかったろう。それぞれがんばって7〜8着は仕方がない。11着に沈んだフミノイマージン、10着のホエールキャプチャなどと一緒。重馬場に泣いたグループがいたのは仕方がないことである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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