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マイルCS

  • 2012年11月19日(月) 18時00分
 皐月賞2着の星がある4歳サダムパテック(父フジキセキ)がGI挑戦7戦目にして、ようやくビッグタイトルを獲得。騎乗した武豊騎手(43)はこれまで、このG1は20戦【0−4−3−13】。21回目の挑戦で、未踏だった「マイルCS」制覇に成功し、GI66勝目。残る未勝利のJRA・GIは朝日杯FS【0−3−2−7】だけとなった。

 GIレースで武豊騎手の笑顔を見たのは久しぶりの気がする。再三のケガの影響はある。10年前のように毎週、毎週はありえないが、まだ43歳。しょっちゅうでは若手が困るが、ときどきはこういうシーンがなければ、多くのファンが切ないだろう。

 馬場はかなり回復していたが、良馬場には遠く、軽快なスピードと切れを身上とするタイプにはちょっと厳しいコンディション。とくに3歳馬にはきつかった。

 どんな逃げ戦法をとるのか注目された7歳シルポート(父ホワイトマズル)のペースは、最初からなだめて前半「35秒0…」。そこからもピッチを上げることなく最近の同馬にしては珍しいスローに近い平均ペースを作り出し、1000m通過は58秒2。そのためレース全体のバランスは「46秒9−46秒0」=1分32秒9に落ち着いた。

 飛ばすシルポートに期待したムキにはちょっと物足りないシルポートの逃げだったが、自身の記録は、昨年が「46秒7−47秒8」=1分34秒5で8着。今年は最初からなだめて進むことに成功し、「46秒9−46秒3」=1分33秒2。結果4着。どんな逃げも打てるシルポートは、中間に坂があるので平均ペースに落としやすい京都の特徴を生かし、自己最高タイのマイル記録で4着に粘ったのである。距離の長かった東京の前2戦はここに向けての演出効果。今回の4着はGIでの自己最高着順である。

 前後半のバランスが保たれることになった京都1600mは、展開やペースによる波乱は生じないのがパターン。ただし、こういう馬場。やけに落ち着きすぎた流れに折り合いを欠くことなく対応できる精神力も求められた。サダムパテックは前半から好位のイン6〜7番手をきわめてスムーズに追走し、そこから広がった馬群をこじ開けるように抜け出した。隣のリアルインパクト(ムーア騎手)をはじくように接触したが、ムーア騎手は何事もなかったかのように体勢を立て直している。多頭数でみんなが脚の残っているスローに近いマイル戦とあって、あおりを受けたガルボ(石橋脩騎手)以下、複数の馬が横にはじかれるような余波を受けたが、セパレートコースではないから、あれは仕方がない。危険な騎乗や、ラフプレーがあったわけではない。

 10月28日のスミヨン騎手の降着(新馬のソロル)のときに触れたが、このくらいの接触プレーは、国によって考え方や基準は異なるにしても、レースでは当たり前のこと。人間の陸上競技ではもっと接触は生じる。相手がよれたからといって、別に危険騎乗でもペナルティーに相当するラフプレーではないのである。むしろヨレすぎる方が問題で、世界を代表するトップ騎手が何人も日本に来ている。世界のビッグレースで通用する厳しさや激しさを伴う騎乗の、1番いいところを取り入れる機会を利用すべきだろう。

 また、今年も海外の騎手に内を空けて抜け出されるレースが多い。別に締める必要もないが、内から差されるのは騎乗が甘いケースがほとんどである。今回の武豊騎手のサダムパテックの進路の取り方と、連動して生じた他馬への影響が、あれがもし「スミヨン騎手」だったら、ひょっとして大きな制裁を受けていたのではないかなどとささやかれたりするのも、非常に悲しいことである。

 グランプリボス(父サクラバクシンオー)は、直線の中ほどで前を遮られるかなりの不利があったが、そこから立て直し猛然とサダムパテックを追い詰めた。3歳春のNHKマイルC1着当時より、さらには今春の安田記念2着時より、一段とパワフルになっている。今回はちょっとアンラッキーだったが、このあとは12月初旬の香港マイルに遠征する。3歳時のイギリス遠征では結果が出なかったが、よりたくましく成長したから、あの挑戦は糧となっている。今度の遠征は期待を上回る結果が出せそうである。

 3着ドナウブルー(父ディープインパクト)は、この馬場だから外枠はマイナスではなかった。あまり速くない流れとあって早め早めの位置取りから、直線は馬場のいい外を選び、一旦は勝てるかの勢いだった。最後は立て直して追い込んできたグランプリボスにもかわされて3着だが、小柄なこの牝馬、夏よりずっと強くなっている。直線に坂のあるコースはあまり歓迎ではない馬だが(京都で4勝、新潟で1勝)、今回の内容ならもうコースに注文はつかないだろう。

 2番人気のストロングリターン(父シンボリクリスエス)は、2歳秋の未勝利を勝ったぐらいで、これまで秋シーズンにほとんど出走していない不思議な馬。毎日王冠をひとたたきして好調教をこなしたが、今回は当日、変にチャカついていた。馬群にもまれているうちに頭を上げ、手ごたえをなくしたレース内容は平凡。秋型ではないのだろうか。

 3番人気のファイナルフォーム(父ディープインパクト)は、直線でごちゃついた厳しい展開を気にしたのかいいとこなし。時計が速いわけでもなく、馬場もこなせる範囲だったが、最近のマイルチャンピオンSの「3歳馬不振」の流れに反発できなかった。とくにこの馬の場合は、強敵相手と対戦経験の乏しさが痛かったかもしれない。

 ダノンシャーク(父ディープインパクト)は、パドックで再三尻っぱねを繰り返すなどいつも以上にうるさかったのが敗因のひとつか。完調ではなかった気がする。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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