言うまでもなく、勝利する確率の圧倒的に低いのが競馬のレース。当事者の、次に突き進むための心の整理は大変だと、いつも思っています。そして、それが大レースであるほど、また、人気馬であるほど、敗戦から受けるダメージは大きい筈です。
そうした情況が、時には痛いほどわかるので、放送で使う言葉には神経をとぎすまさなければなりません。
レース直後の当事者と言えば、騎手が第一です。わかりやすく述べてしまえば、騎手のせいにして済ませるのが手っ取り早いのです。その点は、特に注意しなければなりません。昔から、そのことには気を配ってきました。
先日の天皇賞、大半の馬に根拠とする実績に欠けるという情況の中、本当は、どうなるのかわからないというのが普通の考え方であった筈でした。それでも、競馬の世論は、過去の傾向やデータに過敏に反応するものです。そうしてつくられている人気。背負わされる方は、これではたまらないと言いたくなることもあるでしょう。
結果、一番人気のダイタクバートラムは3着でした。直線に向いて、前をふさがれる不利が致命的でした。期待した者は、そのシーンをいつまでも悔やむものです。あれさえなければと。折角のレースも、悪しき思い出になってしまいます。
ここで当事者の一人、武豊騎手のコメントに、みんなが救われたのではないでしょうか。“あれは確かに不利でした。ですが、突きぬけるものがありませんでした。G1レースの壁かもしれません”と。何かのせいにするのではなく、フェアなそのコメントに、どこかすっきりする思いでした。一番人気という立場のものが、敗れることによってどういう見方をされていくのか、そこにあるモヤモヤをすっきりさせてくれたその言葉に、さわやかな記憶にすることができました。