先週の土曜日の夜、1週間の札幌滞在から東京に戻ってきた。翌日、日曜日は武豊騎手のドキュメント番組の取材で、朝早く中山競馬場へ。全GI制覇に向けて、ただひとつ残っている朝日杯フューチュリティステークスの制覇はならなかったが、騎乗したティーハーフは関西馬最先着の5着と健闘した。
都内のホテルまで移動する車中で彼にインタビューをしたあと、私は、打ち合わせを兼ねたメシ会をするスタッフと別れ、帰路を急いだ。というのは、ずっと札幌にいたので衆院選と都知事選の期日前投票ができず、この日も寝坊して投票できなかったので、午後8時までに地元の小学校跡地の投票所に行かなければならなかったのだ。
その夜と翌月曜日は原稿に没頭し、火曜日の午後、制作会社で打ち合わせをした足でディレクターと制作担当者と関西へ。栗東トレセンと、大阪の会社を経営する馬主、そして阪神競馬場で取材をするため、草津に2泊、梅田に2泊と計4連泊することになった。
というわけで、今、梅田のホテルにこもってこれを書いている。
水曜と木曜日は、朝の6時ごろから調教スタンド周辺で武騎手を撮影した。このところ、美浦は別として、栗東での取材は調教時間のあと、騎手や調教師にインタビューするものばかりだったので、栗東で大勢の人馬がわさわさするなかに身を置くのは久しぶりのことだった。
氷点下でも外にカメラを据えて武騎手を待っていたカメラマンやディレクターと違い、私は根性なしで、しかも寒がりなので、隙を見つけてはスタンドに逃げ込み暖をとった。
「おはようございまーす」との声に同じ挨拶を返すと、入ってきたのはミルコ・デムーロ騎手だった。ミルコはカウンター向かいのソファに置かれたスポーツ紙をひろげ、しばらく読みふけっていた。気のせいかもしれないが、彼の目は、細かく上下に動きながら横にスライドしているように見えた。つまり、縦書きの日本語を読んでいたらしいのだ。欧文など横書きの新聞だと日本の新聞で言う終面から開いていくことになるのだが、彼は1面からめくっていた。
ここに来るといつもなのだが、20年ほど前から海外などで行動をともにすることがたびたびあった浅見秀一調教師が、「コーヒー飲むか?」と声をかけてくれた。
「はい、いただきます」
「じゃあ、淹れてやってや」と、師はカウンターのおばちゃんに言った。
「砂糖とミルクは?」とおばちゃんに訊かれた私が「ミルクだけ」と答えると、師はニヤリとして言った。
「コーヒーもいらんて。ミルクだけでええってよ」
これは結構ウケた。
驚いたのは、調教を終えたクリストフ・スミヨン騎手が、「ハイ、タケ」と武騎手に声をかけ、ハイタッチのような感じの軽い握手をしてから帰って行ったことだ。2年前、スミヨン騎手のブエナビスタが武騎手のローズキングダムの走行を妨害して降着になったジャパンカップの印象などから、彼らが言葉を交わすことなどないと思い込んでいたのだが、ごく普通に接していた。
ストーブを挟んで武騎手と岩田康誠騎手が向かい合い、ローズキングダムのモタれ癖などについて話していた。岩田騎手の丁寧な受け答えを聞いて、先日の選挙速報番組での石原慎太郎氏ではないが、相手が武騎手だとやはり違うのだな、と思った。
嬉しかったのは、調教師試験に合格した石橋守騎手と飯田祐史騎手にお祝いの気持ちを伝えられたことだ。握手したふたりとも、(当然だが)今もバリバリの現役騎手の、ゴツいながらもやわらかな手をしていた。
飯田騎手は、手を握ったまま、「遅くなりましたが、馬事文化賞おめでとうございます」と言ってくれた。あと数週間で次の受賞者が出るのに、恐縮してしまった。
今滞在最後のロケは、土曜日の阪神競馬場。メインは、来年のダービー馬候補、キズナが走るラジオNIKKEI杯2歳ステークスである。
「可能性を感じさせ、ワクワクさせてくれる馬です」と武騎手が言っていたが、それは私たちファンにとっても同じである。
相手も強いが、いや、強いだけに、楽しみがさらにふくらむ。
【お知らせ】
2012年度の更新は今回で終了となります。2013年度は1月12日から更新いたします。