裁決ルールが今年からカテゴリー1のそれに移行し、早速と言うべきか、先週のアメリカJCCの直線で、判断の難しい走行妨害が発生した。
フランシス・ベリー騎手のダノンバラードが、直線で内に斜行し、2位入線したトランスワープと9位入線のゲシュタルトの走行を妨害して1位入線。「その走行妨害がなければ被害馬は加害馬に先着できた」とは裁決委員に認められず、入線順位どおりに確定した。
この審議はさまざまな批判、議論を呼び起こしたが、新ルールそのものや、今回の裁決結果に対するものよりも、走行妨害発生から審議ランプ点灯、確定に至るプロセスの不透明さ、わかりにくさに対する意見が多かった。なぜレースが終わって10分ほども経ってから審議ランプを灯したことの説明がなかったのか、その前になぜ走行妨害が発生した時点で審議ランプをつけなかったのか……など、なるほどと思わされる声が、いくつかのスポーツ紙や競馬ポータルサイトのコラムなどで紹介されていた。今となっては私が言うべきことはほとんどないような気もするのだが、あえていくつか記したい。
そもそも今回のルール変更の目的は、従来のもの以上に「シンプルで、わかりやすく、合理的な」ルールにすることだった。見た目の入線順位どおりに確定するケースがほとんどになったという点では「シンプルで、わかりやすく」なったことは確かだ。また、より強い者、速い者の血を残していくのがブラッドスポーツとしての競馬の本質なのだから、レースの「繁殖馬選定競走」としての意味合いを強くしていくという点で、きわめて合理的であると言えよう。
しかし、このアメリカJCCの裁決に関しては、主催者もファンも新ルールに不慣れだったこともあってか、主催者が「伝えたいこと」とファンの「知りたいこと」とが上手くかみ合わず、結果として、新ルールが「複雑で、わかりにくく、あまり合理的ではない」かのような印象を与えることになった。
アメリカJCCの一件に関しては、JRAから、なぜすぐ確定しないのか、なぜレース終了後10分ほど経ってから審議ランプをつけたのか、といったことに関する場内アナウンスがその都度もっと細かくあれば、これほど問題視されることはなかったと思う。
審議の青ランプが灯らなくても審議は行われているのだが、私たちファンが「審議」になったかどうかを知るには、青ランプが灯るかどうかを見るしかすべはない。
ファン心理としては、「降着になるかならないか」以前に、「審議になるかならないか」によって、納得できる幅がぐっとひろがるものだ。青ランプがついただけで、「ほら、やっぱりそうだろう」と、今行われたレースに何らかのアクシデントがあったことを確認し、確定まで時間がかかったとしても、また入線順位と確定結果が変わったことによって馬券が外れたとしても「しょうがないよな」と受け入れられる。
新ルールになってから青ランプが灯りにくくなったのだが、「迷ったときは即点灯」というぐらいの頻度にしてもいいような気がする。そうすれば、前述した「青ランプ効果」によって、待たされるファンの気持ちもおさまりがつきやすくなる。
もうひとつ、ファン心理と「制裁」に関して、思うことがある。
新ルールになってから、「降着の有無」と「騎手に対する制裁」とが分けて判断されるようになり、「降着がなくても騎乗停止が科せられる走行妨害」が多くなった。
レースの運営上は、走行妨害があった場合、「入線順位どおり確定するか、それとも降着があるか」だけをファンに伝えれば円滑に進むかのように見えるが、ファン心理としては、審議の青ランプがついて待たされて、しかも馬券が外れていたりしたら(これは自分の責任なのだが)、自分だけが痛い思いをして、待たせる原因つくった側は「お咎めなし」というのが面白くないように感じるものだ。
その走行妨害によってどのような制裁が騎手に科せられるのか、いつ決定されるのか私にはわからない。が、もしレース確定からさほど時間の経たないうちに決められるのなら、ファンが場内にいるうちに、「第○レースで○番の走行を妨害した××騎手は○日間の騎乗停止が科せられることになりました」とアナウンスしてはどうだろう。ファンは、「そうか、あいつも痛い思いをしたのか」と納得しやすくなるはずだ。
ファンから見たら、自分を待たせたり、馬券の結果に影響を与えたりしたものとして、「降着の有無」と「騎手への制裁」はワンセットのままである。なので、できれば同時に、それが無理ならできるだけ早く、競馬場内でインターネットができない環境にいてもわかる方法でアナウンスしてもらえるのが理想だと思う。
先述した「青ランプ効果」同様、これもファンの「納得力」を高めてくれるはずだ。
最後にもうひとつ。アメリカJCCでの走行妨害によって、ベリー騎手は6日間の騎乗停止処分を受けた。GIIで6日間なのだから、同様の走行妨害をGIでやってしまったら8日間か、それ以上の期間になるのだろう。強い競馬をした馬がそのレースの「勝ち馬」として記録に残り、勝利騎手も同様に競馬史に名を刻まれる。それはいいと思う。しかし、手にする栄誉や賞金と制裁の重さを天秤にかけた場合、このままなら何人もの騎手が栄誉と賞金を獲りにいくのではないか。
騎手ばかりに責任と負担を押しつけるようで心苦しいのだが、例えば、進上金を騎乗停止2日間なら2割減、8日間以上なら8割減とし、そうして罰金のような形で返上された金を、アメリカのドン・マクベス基金のように、怪我をした騎手の援助をするための基金としてプールしていく――といったことを検討してもいいのではないか。
新ルール導入は国際化の一環でもあったわけだが、こんなに賞金の高い国はほかにないのだから、そうした日本独特のアレンジがあってもいいと思う。