立ち直りつつあった5歳グレープブランデー(父マンハッタンカフェ)が、さらに迫力を増した馬体から、一段と力強さを加えたフットワークを爆発させて快勝。時計は上々の1分35秒1。
好スタートから厳しい流れを読むと一度下げ、後半の爆発力に結びつけた浜中俊騎手の落ち着いた騎乗が光ると同時に、管理する安田隆行厩舎からは、トランセンド(種牡馬入り)の次の時代を引き受けるべくまた新しいチャンピオンが誕生した。
グレープブランデーは、3歳夏のジャパンダートダービー(大井2000m)を制したころより、また、骨折の長い休養から戻って4歳夏の阿蘇S(小倉ダート1700m)を日本レコードと小差の1分41秒9で勝った当時より、さらには完全復活を告げた前走の東海S(中京ダート1800m)より、また一段とスケールアップしているから素晴らしい。
マンハッタンカフェ産駒は、これまでの賞金獲得順に並べると、ヒルノダムール(天皇賞・春)、レッドディザイア(秋華賞)、ジョーカプチーノ(NHKマイルC)、フミノイマージン(札幌記念)、エーシンモアオバー(名古屋グランプリ)…。多くの分野でトップホースを送りつづけているが、今度はダート1600mフェブラリーSのグレープブランデーである。マンハッタンカフェの産駒は、一般に…とか、総じて…などのひとくくりを許していないのである。
GIになった1997年以降、7歳以上馬が史上最多の「9頭」も出走し、若い4歳馬が3頭だけ。最多の「8勝」を誇る5歳馬はグレープブランデーただ1頭のみ、という今年は特異な組み合わせ。さまざまなジンクスや、ありがちなパターンは崩れるのではないかと考えていたら、あまり有利ではない内枠から勝ち馬が誕生した以外は、多くのパターンはそのまま連続した。
7歳馬以上からは勝ち馬が生まれることはなく、年齢別の成績は次のようになった。
▽4歳馬…[5-8-2-50]
▽5歳馬…[9-2-4-37]
▽6歳馬…[3-2-7-68]
▽7歳上…[0-5-4-64]
また、ベテラン組に該当する部分では、このレース2勝目を狙った馬は通算[0-2-3-13]となった。人気の4歳馬カレンブラックヒルが失速して凡走したため、このレースが初ダートとなる挑戦馬は、これで[0-0-1-16]となってしまった。
互角に発馬できれば…のイジゲンがまたまた出負けして凡走したため、連勝馬券に関係した関東馬は09年カジノドライヴだけ。そんな記録がとうとう15年間もつづいたことになり、関西馬の連勝は「14」にまでのびた。
注目のカレンブラックヒル(父ダイワメジャー)は、もまれる危険のない外枠を引き当てた利も加わり、ジンクスを吹き飛ばす快走が期待されて人気となった。最大の敗因は、予定どおりに乗り込み、上々の追い切りをこなしての挑戦であったが、ステップレースを使って素晴らしい状態でここに狙いを定めた歴戦のダート巧者に比べ、当日、ただ1頭だけ「休み明け」を感じさせる危なっかしい仕上がり状態になってしまったこと。充電、充実を思わせる体つきではなく、輸送前に478キロと発表されていた馬体は、なぜかさびしくギリギリだった。おまけに変に気負ってもいた。
ゲート内であばれ、後方にもたれた瞬間のスタート。ダッシュのいいはずのカレンブラックヒルにしては、出遅れにも近いまずいスタート。戦法自在の歴戦の古馬なら、一転の作戦変更もありだが、カレンブラックヒルが中団や後方に控えてはだれも納得しない。だから、行くしかない。
だが、気合を入れおっつけてどうにか3番手に追い上げたあたりで、もう、この時点でアウト。自身が最高の形になって初めて、初ダートのGIを戦える体勢が整う立場だった。先行スピードを生かすには、好スタートから自分のリズムで先行するしかない挑戦者が、あまり誉められない当日の仕上がり状態になってしまったうえ、それが原因で出負け。ダートの適性を問われる以前の失速はいかにも残念だった。
「初ダートの馬が通用しない」最大の原因は、慣れないダート戦でもまれてしまうことであり、先行タイプのカレンブラックヒルが後手を踏んでしまっては苦しい。この失速があとを引かないことを望みたい。
粘った8歳エスポワールシチーは見事というしかない。ジャパンCダートの失速から(まるで抵抗できなかった)、カレンブラックヒルなどの同型馬のいた今回は9番人気にまで評価が下がっていた。これは主戦の佐藤哲三騎手が乗れないエスポワールシチーには、もう以前の同馬ではないイメージが重なったためだが、「46秒5-48秒6」の厳しい流れに乗り、抜け出していったんは勝ったと思わせた内容は全盛期とほとんど同様だった。少し枯れた印象を与えながら、全然そうではなかったのである。
もまれた7歳ワンダーアキュートが、馬群をこじ開けるように伸びて0.2秒差の3着。連戦のタフな同馬の素晴らしい闘志に改めて感嘆したが、あとで和田竜二騎手に騎乗停止2日間の制裁が発表されている。直線の急な進路変更は危なかった。斜行してテスタマッタの前に入ったワンダーアキュートは3着に入っている(賞金2400万)。馬券の複勝は250円。3連単にも3連複にも関係した。
明らかに不利を受けたテスタマッタは、ワンダーアキュートからわずか0秒2差「4分の3馬身、クビ、ハナ、ハナ」の7着。あの不利がなければ、テスタマッタはワンダーアキュートに「先着していたはずだ」という見方が生じても当然である。事実、テスタマッタは鋭く伸びていた。でも「審議」ランプはつかず、のちにパトロールフィルムを流すだけで終わってしまった。
テスタマッタを買っていたファンは、それこそヤラレ損、マル損である。なぜ、審議にできなかったのだろう。瞬時に、テスタマッタはワンダーアキュートに先着できたとは「認められなかった」という判断になるが、とてもそんな判断があったとは思えない。機能した(しっかり見ていて、瞬時に判断した)裁決委員がいたとは思えないのである。同時に、横ではイジゲンが両脇から押し込められて立ち上がっている。格調の高さを誇るGIレースらしくない乱暴なシーンが重なった。
どうも新降着制度は、うまく機能しているとは思えない。なにかあったら、騎手に重いペナルティーを科しさえすればすべてが何事もなく済んでしまう制度が、新降着制度ではないのである。
これは、ムチの使用回数制限のある国と同じで、乱打による騎乗停止などハナから無視して、高額賞金のビッグレースでは上位に入線した方が勝ち(やり得)を避けられない。もしGIを勝ってくれるなら、騎乗停止期間に見合う報酬ぐらいOK、がないとは言い切れないからである。