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弥生賞

  • 2013年03月04日(月) 18時00分
 勝ちタイム2分01秒0(前後半61秒6−59秒4)は、前半のスローペースを考えるときわめて速い。1984年から2000mになった弥生賞で、今年と互角以上の速い時計の決着になったのは、中山コースでは次の4回だけである。

 1993年 2分00秒1(ウイニングチケット、ナリタタイシン、ステージチャンプ)
 2004年 2分00秒5(コスモバルク、メイショウボーラー、メテオバースト)、
 2007年 2分00秒5(アドマイヤオーラ、ココナッツパンチ、ドリームジャーニー)
 2011年 2分01秒0(サダムパテック、プレイ、デボネア)

 1993年は、皐月賞はナリタタイシンが勝ち、ダービーをウイニングチケットが制している。2004年のコスモバルク=メイショウボーラーは、そのまま皐月賞の2〜3着馬だった。2007年のアドマイヤオーラは皐月賞4着。ドリームジャーニーは8着。皐月賞のヴィクトリー=サンツェッペリンは歴史的な波乱で、馬連でさえ9万円台だった。そして2011年は、サダムパテックが皐月賞2着。伏兵デボネアも皐月賞4着。07年以外、好タイムで好走した組は、皐月賞の快走と結びついている。

 今年、前半1000m通過61秒6のゆるい流れで、芝も高速コンディションではなかった。それを考えると、「2分01秒0」の歴代4位タイの速いタイムで、上位接戦の勝ちタイムは評価していい。これまでのパターンからして、今年は弥生賞の組からクラシック好走馬が出現する可能性は非常に高いと考えていいだろう。

 ただし問題は、人気が走るわけではなく、能力とは一致しないのが3歳春とはいえ、6番人気カミノタサハラ、10番人気ミヤジタイガの1〜2着は歴史的なことだった。もっとも重要な位置にあり、そう多頭数にはならなくても、候補がそろうとされる今年で50回を数えたトライアル弥生賞が、上位5番人気にも入らない伏兵同士で決着したのは、史上初のことである。

 この時点の人気(評価)と、実際の能力は必ずしも一致するものではないが、6番人気以下の伏兵として弥生賞で1〜2着したのは、近いところから順に、「12年コスモオオゾラ、11年プレイ、07年ココナッツパンチ、06年グロリアスウィーク、92年アサカリジェント……」。なぜか、つづく本番でも連続して快走した馬はなく、遠く1987年のサクラスターオー(6番人気で勝ち、皐月賞も快勝)までさかのぼらないと、連続しての好走例はない。

 で、不思議なのは、11年プレイ、07年ココナッツパンチ。2頭もが速い時計で決着した年の伏兵と一致している。なおかつ、ココナッツパンチの2007年は、前述のように皐月賞史上でも歴史的な大波乱(7番人気ヴィクトリー、15番人気サンツェッペリンの1〜2着)の年であるのもちょっと気になるところである。

 勝ったカミノタサハラ(父ディープインパクト)の評価は素直に上げなければならない。重賞路線で入着経験がないどころか、出走の経験もなく、かつオープン特別勝ちもない。こういう前回500万の平場勝ちだけの伏兵が弥生賞を勝ったのは、このレースが皐月賞トライアルとなった1995年以降、カミノタサハラが初めてのことである。型破りの新星登場である。

 ただ、今回テン乗りで結果を出した内田博幸騎手は、コパノリチャード(アーリントンC勝ち馬)とのコンビで皐月賞に挑戦することが発表されている。あまりスパッと切れる馬ではなく、マウントシャスタの全弟というより、ボレアスの全弟という印象もあるから、このあとのさらなる上昇はあるのか、本番ではいったい誰が騎乗するのか、大きな課題はある。

 2着ミヤジタイガ(父ネオユニヴァース)は、中山1800mに2歳コースレコードの1分46秒4をもつコース巧者。6戦のキャリアをフルに生かして台頭してみせた。コディーノに競り勝ったから、決してフロックなどということはありえない。好馬体を誇り、今回はデキも良かった。血統背景と、凝った名前が珍しくない中、やや地味な印象のネーミングとあって、評価は上がらないだろうから、本番でも人気薄必至。波乱の年と考えれば、皐月賞でも怖い1頭である。

 人気の中心だったエピファネイア(父シンボリクリスエス)は、福永祐一騎手の騎乗停止の乗り替わりはあまりに痛かった。若いW.ビュイック騎手(24)は決して乗れない騎手ではない。短い期間で14勝もしてみせたが、微妙なテクニックを求められる難しい小回り中山の1800〜2000mでは外を回りまったく良績がないから、トライアルのピンチヒッターにいかにも合わない騎手を配したものである。今回のテーマは、ここまでの超スローの競馬とは異なる流れでの折り合いだったと思われるが、外枠だったため最初から行きたがって4コーナー先頭。

 あれだけかかっては失速する。本番では鞍上も戻り、輸送もコースも2度目。巻き返して当然と思われるから、今回の4着(0秒1差)で評価を下げる必要はない。カギは、だれがみても惚れ惚れすることの多いシンボリクリスエス産駒はここまで、いざ本番の3歳クラシックではほとんどといっていいほど良績を残していないことである。

 一方のコディーノ(父キングカメハメハ)は、朝日杯の敗戦から出直すように、それこそ入念には乗り込んでいたが、ビシッと追って仕上げたものではない。明らかに本番前のトライアル仕立て。願いどおりの内枠を引き当てたから、好位のインで折り合うレースができた。ペースが上がり勝負どころの4コーナー手前、もしこれが本番の皐月賞だったら、鞍上の横山典弘騎手はあそこまで下げるように我慢しては待たず、スパートしていたと思える。最後はエピファネイア、ミヤジタイガの間に入って「クビ、ハナ」差の同タイム3着。ミヤジタイガに競り負けたあたりは物足りないが、余裕残しで90点くらいの仕上がりを考慮すれば、上々のトライアルだろう。道中の折り合いはほぼOK。距離も大丈夫だった。2分01秒1で乗り切れた。今回の敗戦で、侮りがたい能力を秘める馬が何頭もいることがわかったが、この馬自身の評価は下がらない。

 以下、出走権のかかったグループでは、直線、馬群に詰まって脚を余した感の強いキズナ(父ディープインパクト)は、皐月賞に出走するには賞金加算が必要だから、出負けしてメンバー中NO.1の上がり34秒5を記録しながら0秒2差の5着にとどまったヘミングウェイ(父ネオユニヴァース)とともに、権利確保の1戦が必要になる。ここできつい日程を選ぶか、それともダービーに目標を切り替えるのか、陣営の腕の見せどころである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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