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ハーツクライ産駒の激走パターンを見極める(5)

  • 2013年03月13日(水) 18時00分
 ハーツクライ産駒の長距離戦は、高い好走率を誇るが、出走のほとんどが人気だったことなどを考慮に入れれば、「やや得意」な部類に入るのだった。

 問題は、疲れやすい長距離戦で、疲れるのが弱点のハーツクライ産駒が好走しているという点である。これは、今まで見てきたハーツクライ産駒の重賞激走パターンとはやや異なっている。また、精神コントロールが難しいので、強い相手に食い下がれることも多いが、逆に弱い相手に安定感がないという性質とも矛盾した結果が出ている。

 相手弱化のダイヤモンドSでアドマイヤラクティがそのまま1番人気1着したり、阪神大賞典では勝ったギュスターヴクライが、本番の天皇賞春では5着と人気を裏切ったりなどは、普通の種牡馬の仔ならばありがちなことだが、ハーツクライ産駒の激走パターンとは、やや異なっているというわけだ。実際私自身も、ダイヤモンドSのアドマイヤクラリティは危ない1番人気だと思っていたので、少し驚いた。これにはハーツクライ産駒が、前走より体力的にタフな競馬になると集中して走れるという性質が、私の考えていた以上に強いことを意味している。GIIからGIIIという臨戦過程のダイヤモンドSでは、相手は弱化しているが、前走と比べると体力的にはかなりタフな競馬になっていた。

 相手関係というより、前走比で体力的にタフな競馬になるほど、集中力が切れにくい性質を強く持っているのである。ただ、ここで注意すべきは、「長距離だからタフになるとは限らない」ことだ。距離が延びれば単調な流れになりやすく、むしろタフさが薄れることの方が多い。特に精神的なタフさにおいては、激流になりやすい短い距離や小回りの方が必要なのは、これまで何度も書いてきた。ところが、それも3000mを超えた重賞になると、この関係性がやや薄れ、特殊なタフさが必要になってくる。これは主に肉体的なものになる(GIになると精神的なストック=生命力もかなり重要になる)。肉体的な前走比でのタフさが、ハーツクライ産駒を長距離戦になると、精神的にキレずに走ろうとさせているのだ。C系のステイゴールド産駒と、この点で違っている。

 ステイゴールド産駒は、ほとんどの場合、精神的なタフさがより重要になってくる。だから、3000m級の重賞になったところで、前走より相手が弱くなると、集中力が切れる可能性が高くなる。特に甘いレースになりやすいGI以外の長距離戦では、むしろ取りこぼすリスクの方が急激に高まる。普通、精神的にキレやすいが強い相手に頑張るタイプは、これになる。

 例えばダンスインザダーク産駒も、精神的なタフさの方が大切な種牡馬だ。その為、単調になりがちな距離延長での長距離戦で踏ん張れるのは、生涯鮮度が高いときだけだ。ただし、そのときはハーツクライ産駒以上に、激走モードに入る。これについては、連載の当初から何度も書いてきて、実際にそれを利用して万馬券などを当ててきたので、よくご存じのファンも多いと思う。このように、前走との差を、精神的な差と、肉体的な差で、感じようが違ってくる種牡馬がいるので注意したい。
 
 特殊な動きをするハーツクライ産駒の長距離戦だが、本質的な部分では、ハーツクライ産駒の激走パターンから離れられないケースが多いのも、また事実だ。例えば、初3000m超になった菊花賞では連対したウインバリアシオンが、日経賞2着好走後の2回目の3000m超戦だった天皇賞春では連を外したり、阪神大賞典で勝ったギュスターヴクライが天皇賞で人気を裏切ったりである。前走の疲労、ないし生涯蓄積疲労が顕著化された場合、より集中しやすい肉体的にタフに流れる長距離でも、ハーツクライ産駒らしく、心身疲労により崩れる可能性が高くなるのだ。

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ストレス、ショック療法など、競走馬の心身構造を馬券にする「Mの法則」を発見し、従来の競馬常識を完全に覆した。現在は、競馬雑誌等で活躍中のほか、馬券研究会「Mの会」を主催し、毎週予想情報の提供を行なっている。主な著書に「短縮ショッカー」、「ウマゲノム版種牡馬辞典」、「ポケット版 大穴血統辞典」などがある。

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