断然の人気に支持されたチャンピオンスプリンター、5歳ロードカナロア(父キングカメハメハ)が、着差以上の圧倒的なパワーを爆発させて快勝した。スプリンターズS、香港スプリントにつづき、GI・3勝目を記録し、これで通算15戦【10-4-1-0】となった。陣営によると「ここが春の目標だったから、このあとのローテーションは白紙」というから、秋のスプリンターズS→香港スプリントまで休む可能性もある。
1200mのGIを3勝のチャンピオンになってしまうと、たしかに国内ではもう出走したいレースが少ないのがスプリント路線である。オーストラリアの牝馬ブラックキャビア(22勝目だけは英のダイヤモンドジュビリーSに挑戦)のケースとは、牡馬ロードカナロアの置かれている立場はちょっと異なる。海外のGIに挑戦して勝ち負けしたところで、のちに種牡馬入りしたときに必ずしも評価が高まるとは限らないのが、スプリンターのかかえるつらい宿命である。まして接戦に持ち込んでも、負けてしまうと大きく評価は下がる。ここがマイル〜中距離〜長距離路線とは違うところで、アグネスワールドがそうだった。他国でもこういう評価に大差はない。
・新装の昨12年が、1分10秒3(レースの前後半 34秒5-35秒8)
・レコードタイムは、1分08秒7(レースの前後半 33秒7-35秒0)
・今年2013年は、1分08秒1(レースの前後半 34秒3-33秒8)
同じ1200mでも、前半が下り坂でほぼ真っ直ぐな中山コースと異なり、新中京コースは最初のコーナーまでそうピッチは上がらず、最後の直線がこれまでより長く、かつ坂が生まれたコース形態からして、あまり極端な前傾ラップにはならないことが予測された。実際、1分08秒1のレコードが記録された今年の高松宮記念は、これまでの日本のスプリントGIとしてはありえなかった「後半3ハロンの方が明らかに速い」形である。
おそらく新しくなった中京では、たまたま今年だけ出現した特殊な形態のペースではない可能性がある。スプリント戦のバランスとすると、前傾バランスにならない京都や阪神の1200mに近く、また、新潟の直線1000mや、欧州の直線5〜6ハロンの短距離戦のもつ中身と同様の一面があるかもしれない。
ただし、スプリントレースは、中距離戦のように「あの馬に競り勝てばいい。そうすれば勝てる」というものではない。今年の勝ちタイムはみんなが「1分08秒前後」ではないかと予測した。事実その通りだった。ここがある程度以上のレベルのスプリントレースの最大の特徴だが、自分自身が1分08秒前後で乗り切らないことには、勝ち負けはありえない。1200mだからこそ、相手はライバルだけにとどまらず、時計も強敵なのである。
たとえば前半3ハロンを「35秒4」で通過してしまった馬は、後半3ハロンを「32秒6」で乗り切らなくては、1分08秒0でレースを完結できない。今年、いつもと同じように後方に位置してしまった伏兵は、ひかえた時点でアウトだったろう。
今年の高松宮記念は、多くのトップジョッキーがまだ新中京コースの高額条件の短距離戦になじみが薄く、さらには、同じGIの1200mでもスプリンターズSの中山とは大きく異なるレースであることに対応できなかったのではないかと感じられた。実際、久しぶりの芝でついて行けないはずのシルクフォーチュンが楽々と7〜8番手にいたり、差しのツルマルレオンが好位にいるあたり、これまでとはまるで流れの異なるスプリントレースだったのである。
ロードカナロアの岩田康誠騎手は、出負けしてヒヤッとさせたが、慌てることなくスルスルと中団に上がった。前半が予想外に落ち着いたペースだったことも、置かれたくないロードカナロアにとって幸いだったろう。カナロア自身の前後半は「34秒9-33秒2」。なんと前半の方が1秒7も遅いというきわめて特殊なバランスの1分08秒1になったが、たとえどんなバランスになろうとも、タフなコースに変化した新中京の1200mを、自力で1分08秒1のレコードを記録してしまう能力を備えていたということである。
5代母シリアンシー(父ボールドルーラー)は、ニシノフラワーの3代母ザブライド、さらには伝説のセクレタリアトの全姉にあたり、半兄には起点の種牡馬サーゲイロード(父ターントゥ)がいる名門中の名門サムシングロイヤルの一族。パワーあふれるスピード型としてさらにたくましくなり、サラブレッドランキングのレーティング「120」にとどまる日本のチャンピオンから、あえて希望をいうなら、やっぱり世界のロードカナロアに飛躍して欲しい気がする。悔しいが、前出ブラックキャビアは牝馬ながらそのレーティング130である。
2着に突っ込んだドリームバレンチノ(父ロージズインメイ)は、凡走にとどまったライバルが多い中、「35秒0-33秒3」=1分08秒3。勝ったロードカナロアとそっくり同じように、前半3ハロンのほうが1秒7も遅い変則バランスをこなして快走した。ロードカナロアには着差以上の完敗ではあるが、こんなバランスで1分08秒3だから立派である。
粘りに粘って、10番人気の低評価に反発するように3着したハクサンムーン(父アドマイヤムーン)の1分08秒3は、「34秒3-34秒0」のバランス。数字だけでいえば望外の楽なペースの単騎逃げによる粘り込みだが、ほかの好位追走グループも、それは楽なペースで直後にいたのだから、フロックとはいえない。先行一手型が、坂のできた中京1200mの後半を、自身「11秒2-11秒0-11秒8」でまとめたから、見事なスパートである。
サクラゴスペルは、自身の芝1200mの持ち時計を短縮して1分08秒4。慣れない遠征競馬でちょっと気負いすぎていた印象もあったから、上がりの速い競馬で自身「33秒8」のフィニッシュなら現時点での力はほぼ出し切ったのだろう。こういう後半の速くなる流れで、たとえばどこかで「10秒台」の瞬発力を求められたりするレース向きではない印象が残った。
同じように、入着止まりに終わったマジンプロスパー(父アドマイヤコジーン)は、今回は素晴らしいデキと思えただけに、ちょっと残念。成績通り1400mのほうが合うのだろう。
エピセアロームはインのもまれる位置になったこともあるが、数字には現れないプラスαの底力を求められるスプリント戦向きではないのだろうか。しかし、失速する位置でも流れでもなかったから、この14着はちょっと解らない。春の好調牝馬はいつも怪しい。
最初から控えたサンカルロ(父シンボリクリスエス)は、今年こそは…の4回目の挑戦。期待は大きかったが、「35秒5-33秒2」のバランスで、1分08秒7。上がり33秒2は最速タイ。しかし、後方になった時点で、もうどうすることもできない位置である。スプリント戦を好むのに、1200mでは未勝利。そういう最大の弱みが露呈してしまったのだろう。