前2戦の敗戦でちょっと評価が微妙になっていたアユサン(父ディープインパクト)の鮮やかな逆転が決まった。2着も同じディープインパクト産駒のレッドオーヴァル。これで種牡馬ディープインパクト産駒は、2年連続して桜花賞1〜2着独占となり、初産駒を送り出して以降、桜花賞3連勝となった。改めてサンデーサイレンスの血を持つ馬を整理すると、
・サンデーサイレンスの直仔
95年ダンスパートナー2着、99年フサイチエアデール2着、00年チアズグレイス1着、03年スティルインラブ1着、04年ダンスインザムード1着、04年アズマサンダース2着、06年アドマイヤキッス2着
・サンデーサイレンスを母の父に持つ馬
05年ラインクラフト1着、08年レジネッタ1着、11年ホエールキャプチャ2着
・ダンスインザダークの産駒
01年ムーンライトタンゴ2着
・フジキセキの産駒
02年ブルーブリッジリバー2着、08年エフティマイア2着
・スペシャルウィークの産駒
05年シーザリオ2着、09年ブエナビスタ1着
・アドマイヤベガの産駒
06年キストゥヘヴン1着
・アグネスタキオンの産駒
07年ダイワスカーレット1着
・マンハッタンカフェの産駒
09年レッドディザイア2着
・ディープインパクトの産駒
11年マルセリーナ1着、12年ジェンティルドンナ1着、ヴィルシーナ2着、13年アユサン1着、レッドオーヴァル2着
過去19年間に、サンデーサイレンス直父系の産駒として桜花賞を勝った馬が計「9頭」を占める。その血が2代前までに出てくる連対馬の合計は「23頭」にも達する。
アユサンの勝利にもっとも大きく貢献したのは、前年のアイムユアーズの挑戦を教訓に、入念に間をあけてトライアルのチューリップ賞をステップにし、完ぺきな状態に仕上げた手塚貴久調教師を中心とする係わるスタッフの手腕であることはいうまでもない。さらには生産、育成を手がけた下河辺牧場の底力もあった。そして、丸山元気騎手の落馬負傷により急きょの乗り代わりとなったクリスチャン.デムーロ騎手の落ち着いた騎乗も大きかった。
だが、2着にも一旦は差し切ったかと思えたレッドオーヴァルが入ったことを考えると、その父ディープインパクトを通したサンデーサイレンスの血の影響力を改めて思わずにはいられない。
栗東に入厩してビシビシ追うことができたアユサンは、もともとスケールあふれる490キロ前後の馬格に恵まれていることもあって、良馬場発表に回復したとはいえ、1分35秒0(レースの前後半46秒9−48秒1)のパワー勝負が少しも応えなかった。
いきなり桜花賞騎乗が舞い込んできたC.デムーロ騎手は見事。好スタートから5〜6番手につけたが、行く馬が多いとみると慌てずに道中は10番手前後までさげた。中団で折り合って進み、直線に向いてもいきなり外に回ったりせず、少し待ってからクロフネサプライズ、伏兵サウンドリアーナの外に回る進路をとった。一度は外から追撃のレッドオーヴァルに半馬身近く出られたようにみえたが、そこからのフットワークが圧巻。大跳びのストライドを取り戻し、もうひと伸びしてレッドオーヴァルを差し返している。丸山元気騎手は、前日の落馬負傷があまりにも残念、不運としかいいようがない。でも、コンビのアユサンの桜花賞制覇をきっと喜んだはずである。ケガが治ったら再コンビが待っているだろう。
胴長に映る体型。祖母の父は1978年の米3冠馬アファームド。仮にこの馬自身のベストの距離が1600〜2000m級としても、現在、2400m級に距離が延びてこそ真価発揮の望める牝馬などめったにいない。桜花賞の力関係が平衡移動することの多い近年のオークスでは最有力馬の1頭になるだろう。無理なローテーションを組んでいないことがこのあとの強みとなる。
同じディープインパクト産駒でも、2着レッドオーヴァルのほうがより高いマイル適性を思わせるちょっと寸詰まりの体型。差し返されたのはスタミナ能力の差ともいえなくない。安田記念のストロングリターン(父シンボリクリスエス)の下という潜入観念は捨てたいが、こちらは東京の2400mには課題が大きいだろう。陣営は、NHKマイルCに向かう選択も匂わせている。安田隆行厩舎でもある。
3着プリンセスジャック(父ダイワメジャー)の母は、1994年の桜花賞13着のあと、オークストライアルの4歳牝馬特別(当時)を勝ち、オークス2着のゴールデンジャック(父アフリート)。だからといってこの馬が2400m向きかどうかは難しいが、ゴール前鋭くのびたレース内容は悪くない。
レース直後、「なんだ、こっちの兄弟のワン、ツーだったのか」などという声が飛びかった。人気のクロフネサプライズ(父クロフネ。武豊騎手)は、外から他馬と間隔をあけ、慎重に進路を選びながら先行し、4コーナー手前から先頭に立って粘り込みを図ったが、道中ちょっと行きたがっていたためかもしれない。阪神JFで見せた粘り腰も、チューリップ賞で示した2段加速もなく、勝ち馬から約3馬身差の4着に沈んでしまった。マイナス8キロの458キロはとくに細くは映らなかったが、阪神JF時が472キロ。カリカリしていた。
すんなり逃げられなかった、というのが敗因ではなく、体調ピークにもっていき方に誤算があったかもしれない。自身の前後半バランスは「46秒9-48秒5」=1分35秒4。先行タイプ壊滅とはいえ、失速するほど厳しい流れではなかった。
大外18番枠のメイショウマンボ(父スズカマンボ。武幸四郎騎手)は、こういう少し時計のかかる馬場で、もまれない外枠は有利とみえたが、終始外々を回されたうえ、道中なしくずしに脚を使ってしまった気がしないでもない。
トーセンソレイユ(父ネオユニヴァース。ディープインパクトの下)は、2月2日のエルフィンSから間をあける熟考のローテーションをとってきたが、また体が減って416キロ。小柄な体格に不安の少ない一族とはいえ、稍重にも近い馬場はきつかったろう。そのうえ、キャリアがないから出負け。直線、2ケタ着順かと思えたところから7着に伸びたあたりはさすだが、勝ち目のないところから(あきらめるわけにはいかないから)、苦しいレースをしてしまった。オークス直行といわれるが、苦心の調整を余儀なくされるだろう。