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フローラS

  • 2013年04月22日(月) 18時00分
 注目の新星として1番人気に支持されたデニムアンドルビー(父ディープインパクト)が、一度は道中最後方18番手に控えたあと外々を回って進出し、鮮やかに東京2000mのオークストライアルを制してみせた。

 ハロン「13秒台」のラップが道中3回も連続し、レース全体のバランスは「63秒1-60秒8」=2分03秒9。きわめて平凡な勝ちタイムは、このレースが2000mになった1987年以降の27年間で、ニシノハナグルマ(本番のオークス9着)の制した2002年の2分04秒0(稍重)こそ上回ったものの、史上26番目に相当する遅い時計である。しかしそれでも、デニムアンドルビーは有力なオークス候補ではないかと思わせた。

 前回が圧倒的な勝ち方だったとはいえ、3戦目で未勝利を脱したばかり。今回が初めてそれなりの相手であり、遠征競馬も東京コースも初めて。左回りも初。そのうえ、2月にデビューしたばかりでここが連続4戦目。馬体減があっても不思議ないが、わずか2キロとはいえ前回より増え、この馬とすればデビュー以来最高の432キロ。少しも小さくみせなかった。スローとあってレースの後半3ハロンは「11秒6-11秒2-11秒4」の高速フィニッシュ。前半は最後方にいて、ちょうど残り800m標識でスパートを開始したデニムアンドルビー自身の上がりは楽々と「45秒8(推定)-33秒8-11秒4」と思える。直線の入り口で接触しながら、ゴールまで一直線に伸びてみせたところが素晴らしい。

 このフローラSが2000mとなった1987年以降、このレースを制して本番のオークスを勝ったのは、その1987年のマックスビューティと2010年のサンテミリオンの2頭。だいたい、このオークストライアル(旧サンスポ杯4歳牝馬S)の勝ち馬が本番のオークスを制したのは、1800mだった当時を合わせても、ほかに1986年の3冠牝馬メジロラモーヌがいるだけで、過去47年のフローラSの歴史の中、本番との連勝は3頭のみである。

 東京2400mの日本ダービーを2分23秒3の大レコードで快走したのは2004年のキングカメハメハ。翌2005年、タイレコードの2分23秒3で楽々と乗り切ったのがディープインパクト。そのキングカメハメハの牝馬に、ライバル種牡馬ディープインパクトという「金子ブランド」はこれから続々と誕生するだろうが、デニムアンドルビーはその先駆けであり、この馬が初の重賞勝ち馬である。大仕事をして当然。そう思わせてしまう背景にはこと欠かない。母ベネンシアドールも、1999年のオークスを2着したトゥザヴィクトリー(金子オーナー)の半妹である。桜花賞は、ディープインパクト産駒の1〜2着。そして、またまたこのトライアルも種牡馬ディープインパクト産駒のワン.ツー。この流れに逆らうには、勇気と損失が求められる。  

 ちょっとマニアックな記録だが、天才種牡馬サンデーサイレンスは、東京2400mの「オークスとダービー」で3着以内に快走した産駒を、その生涯で「26頭」も送り出した。

 後継の種牡馬群は、2400m歓迎のネオユニヴァース、ステイゴールドなどを含めそれこそあふれるように存在するが、種牡馬ディープインパクト産駒は昨年までのわずか2世代で、もうスペシャルウィーク(ブエナビスタ、シーザリオの父)に並びかけ、計4頭も東京2400mの快走馬を輩出している。オークス、ダービー向きの後継種牡馬NO、1は、どうやらディープインパクトに決定しそうなのである。

 2着した2番人気のエバーブラッサム(母サクラサクIIの父はデインヒル)は、2008年のヴィクトリアマイルを制したエイジアンウインズ(父フジキセキ)の妹。父が同じサンデーサイレンス直系なので4分の3姉妹になる。イメージとするとマイラー型であり、また、体型もちょっと寸詰まりのスピード系を思わせるが、母の父デインヒルはいかようにも広がるダンチヒ系らしく、母の父となってからは、とくに欧州のクラシック血統のベースとなる種牡馬となった。

 デニムアンドルビーには競り負けたものの、記録の中身はほとんど同じ。出走可能な賞金には達していたが、桜花賞はパスしてオークスにマトを絞ったのが正解。減り気味だった馬体は活気にあふれている。近年のオークスはスローで展開することのほうが多く、まして3歳牝馬同士の2400mは、本質スタミナタイプかどうかを問われるレースでもない。デニムアンドルビーを高く評価したのだから、こちらもオークスの有力候補としたい。

 あくまで個人的にではあるが、同じディープインパクト産駒同士で決着した桜花賞組は、「オークスの2400mでは…」の不安が残った気がする。フローラS組のオークス1〜2着もある。前述レディパステルが勝った2001年、2着のローズバドもフローラS好走組だった。

 9番人気のブリュネット(父ダイワメジャー)が、オークス出走権利のかかった大接戦の3着争いを切り抜けて伸びた。阪神の1800mを1分47秒5の好時計で勝った裏付けがあっての好走だから、少しもフロックではない。母の父は日本では非常に評価の難しいジャイアンツコーズウェイ(その父ストームキャット)。祖母の父はリボー系。4代母の父は各国を渡って日本にきたダンサーズイメージ。なぜかビッグレースで買いたくなる血を秘めている。

 3番人気のスイートサルサ(父デュランダル)は、ちょっとカリカリしていたが巧みになだめて進み、外に回った直線は勝ったデニムアンドルビーに追いすがる場面もあった。今回の2000mをこなすとき距離不安を封じることができるかと思えたが、最後に失速して6着にとどまってしまった。条件賞金1100万なのでオークス出走不可能ではないが、残念ながらさらに距離延びるのは苦しいだろう。マイル前後がベストということか。

 テンシンランマン(父ハーツクライ)はなんとかタメを利かせ、一度は3着確保と思えたが、馬群の固まる展開の中、大外18番枠から出て少なからず行きたがった道中のロスが痛かった。寸前、差されて悔しい4着。状態は良かっただけに残念。

 イリュミナンス(父マンハッタンカフェ)はうまくインの好位におさまったが、他馬を気にしたためか終始首が高く、あまりスムーズな追走とはいかなかった。馬群がバラけてくれればもう少し見どころは生じただろうが、直線、こじあけて伸びようとするシーンはなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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