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春天の格言

  • 2013年04月27日(土) 12時00分
 また故郷の札幌に来ている。このまま10日ほど滞在する予定なので、天皇賞・春は実家のテレビか、場外発売をする札幌競馬場のスタンドで見ることになりそうだ。

 春天は昔からとても好きなレースなのだが、今年は「一強」のゴールドシップがどんな勝ち方をするか、ということぐらいしか見どころがないと思い、この時期に帰省した。

 ところが、だ。23日、火曜日の夜にエアグルーヴが世を去り、産駒のフォゲッタブルが春天で、言ってみれば弔い合戦をすることになった。

 グルーヴの悲報に触れ、あの馬の綺麗な外観と強烈な走りを思い出し、さらに20歳という馬齢に時の流れを感じてしんみりしていたら、フォゲッタブルが6枠12番を引いたことを知った。グルーヴが97年の天皇賞・秋を勝ったときと同じ枠である。

 --お母さんとして、天国から三男坊を応援しているのかな。

 これまで私はグルーヴを「美しき戦士」だとか「牡牝の別を超越した名馬」と表現してきた。競走馬としての強さが、繁殖牝馬になってからは遺伝力の強さとなった。そして天国に旅立ってからは、母として仔を思う強さを、こうした形で見せてくれたかのようだ。

 春天の見どころを、グルーヴがひとつ増やしてくれた。

 帰省の時期をズラすべきだったかなと思いながら、あらためて出馬表を眺めていると、大切な格言を思い出した。

 --フルゲートの春天は荒れる。

 というやつである。

 去年を思い出してほしい。大本命のオルフェーヴルがまさかの11着に沈んだ。勝ったのは14番人気のビートブラック。

 一昨年もフルゲートで、1番人気のトゥザグローリーが13着、7番人気のヒルノダムールが優勝した。

 そのほか過去10年で2010年、09年、05年、04年、03年もフルゲート18頭が出走した。10年はフォゲッタブルが1番人気に支持されたが6着に終わり、2番人気のジャガーメイルが勝った。09年は1番人気のアサクサキングスが9着、12番人気のマイネルキッツが1着。05年は13番人気のスズカマンボ、04年は10番人気のイングランディーレ、03年は7番人気のヒシミラクルが春の盾を勝っている。

 今年もフルゲートである。

 しかし、あのゴールドシップが馬群に沈むとはまず考えられない。

 去年のオルフェは、やはり阪神大賞典の3コーナーで一度止まりかけ、そこから再度スパートをかけるというキツい競馬の反動が出たのだろう。それに対し、ゴールドシップの臨戦過程には一点の曇りもない。

 格言が当てはまらない、例外的なレースになるのか。それともヒモ荒れになるのか。

 今、「週刊ギャロップ」をパラパラめくっているのだが、巻頭グラビアに「浮沈艦ゴールドシップ」とある。上手いことを言うものだ。「駆けるLEGENDトウカイトリック11歳」に3見開き=6ページも割いているところも雑誌の個性が感じられて面白い。個人的にはトーセンラーもカラーで紹介してほしかったのだが、この馬のキャッチもいい。「充実期+平成の盾男=戴冠」である。この数式に、さらに「+京都コース」「+外回りの下りで勢いをつけて直線へ」としてもいい。

 武豊騎手のことだ、確実に2着を獲りに行く競馬ではなく、「勝つか惨敗か」という戦術を選ぶはずだ。

 京都の坂を「滑走」し、父ディープインパクトがやってみせたように直線で「離陸」して「飛ぶ」ことができるか。

 天国のグルーヴも、「応援する馬」は当然息子のフォゲッタブルだろうが、「応援する人」となれば、やはり主戦だった武騎手だろう。

 グルーヴに代わって、フォゲッタブルとトーセンラーの馬連とワイドでも買おうかな。目は1-12か。惜しい。グルーヴが勝った秋天は第116回だ。

 フェノーメノも強いし、外国馬レッドカドーも不気味だ。

 と、こうして書いていると、結構見どころがあることに気づいて、現地に行かないスケジュールにしたことを後悔しそうなのでこのくらいにしておく。

 手稲山の山頂付近は残雪で白くなっているところが多いが、雪がまばらになる七合目あたりは、ちょうどゴールドシップの毛色ぐらいの白さである。

 そんなところまであの馬に見えてしまうということは、私はきっと意識下ではゴールドシップが貫祿でジンクスを吹き飛ばすと思っているのだろう。いずれにしても、ゲートがあくのが楽しみだ。

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作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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