10番人気の伏兵マイネルホウオウ(父スズカフェニックス)が最後方近くから外に持ち出して力強く伸び、1着馬から18着まで1秒2差の大接戦を制した。
高速決着になる近年のNHKマイルCにふさわしく、またまた記録は1分32秒台だった。レース全体のバランスは「46秒1-46秒6」=1分32秒7。コパノリチャードがリードした前半1000m通過は「57秒8」。もちろん先行タイプにとって楽な流れではあり得ないが、前半の半マイル(800m)も、後半の半マイルもそろって46秒台だったのは、シーキングザパールの勝った1997年、稍重でエルコンドルパサーが抜け出した1998年、クロフネが差し切って、グラスエイコウオーが粘った2001年に続き、史上4回目。最近10年間ではなかったしばらくぶりに落ち着いたバランス型であり、高速決着ながらレース全体は無理のない「平均ペース」に近い形である。レース上がりは「11秒3-11秒6-12秒0」=34秒9。どの馬にも大きな有利不利はなかったろう。
だから、勝ったマイネルホウオウと、2ケタ着順の後方に沈んだグループまで、だいたい6馬身前後のあいだに固まって入線したのだと考えることができる。また、あくまでレース全体のペースからの推測ではあるが、決して先行馬つぶれではない流れなのに、人気上位に支持された「先行グループ」は案外の内容であり、みんな差がなかった中で、差して上位に突っ込んだグループのほうが高い評価を受けるべき結果なのだろう。
マイネルホウオウは、4番人気のニュージーランドTでは中山の1600mでは不利な外枠と、1000m通過60秒0のスローで7着止まりだったが、これを別にするとマイル戦【2−1−0−0】。高松宮記念のほか、東京新聞杯1600mを制した父スズカフェニックス(父サンデーサイレンス)譲りのスピード能力と切れを爆発させた。
ファミリーは、祖母の半兄にオースミポイント、3代母の半姉に桜花賞馬オヤマテスコ。ヒシミラクル、アカネテンリュウ、オサイチジョージなどが代表する、ヘレンサーフ(1907年に小岩井農場が輸入)から広がる牝系。古典を思わせる牝系は確かだが、その渋い牝系に配された母の父になるフレンチデピュティ(クロフネ、ピンクカメオの父)は、現代のスピード系の中でもことのほかNHKマイルCを好む種牡馬。苦しい大接戦になってタフな活力発揮のベースとなったのである。
柴田大知騎手は、この日、5Rの未勝利戦でガッツポーズを決めて199勝目を飾るなど、気合にあふれていた。伏兵マイネルホウオウでは慌てずに後方で機をうかがい、直線は外から一気に伸び切った。06〜07年は年間0勝。不遇の時代もあったが、マイネルの岡田氏の助力もあって3年前あたりから、本来の柴田大知騎手に戻ることができた。平地GI初制覇。200勝記念のプラカードを持っていたのはおとなしそうな息子さんと娘さんだった。ファンは、柴田大知騎手の涙が本物であることを知っている。5月の陽ざしがまぶしい表彰式だった。
2着に突っ込んだのも、後方にひかえていたインパルスヒーロー(父は2001年の勝ち馬クロフネ)。3連勝がすべて1400mであり、時計は判で押したようにすべて1分22秒台。高速決着に不安もあったが、NHKマイルCのクロフネを父に、祖母ダイナクラシック(父ノーザンテースト)は、種牡馬サクラバクシンオーの母サクラハゴロモの全姉。1600mあたりまでならスピード能力フルに発揮に不安はなかったということである。
直線の坂上からずっと内にささり通しで、ゴール前は大きく斜行してエーシントップの前に入ってしまった(田中勝春騎手はペナルティー10万円)。これはエーシントップにもう脚はなかったという判断で、たとえインパルスヒーローが降着になっても、エーシントップは大接戦のため7着まで下がってしまっているから、同馬を買ったファンの救われることはないのだが、最近、1〜3着争いでも同じように審議なしのケースが多い。降着ルールの変更により、以前より明らかに後味の悪いレースが増えている気がする。「仕方がない、仕方がない、どうせ…」、そうやってあきらめるしかない事象の繰り返しは、世の中の流れと重ね合わせるわけではないが、ルールに見直すべき点が大きいということだろう。正義を重んじる若いファンが消えてしまったら、競馬の楽しさも消えてしまう。うなだれるおじさんおばさんが中心の競馬場は、つらいものがある。
フロムドグロワール(父ダイワメジャー)は、休み明けで前半行きたがってしまった。そこからなだめるように少し下げ、直線はまた盛り返すようにゴール前まで伸び、先行した馬の中では最先着の0秒1差3着。レースの中身は1〜2着馬に少しも見劣らないと思えた。ローテーションの狂いが惜しまれる。キャリアの浅い3歳馬が、休み明けでGI制覇は難しい。
最後に突っ込んできたレッドアリオン(父アグネスタキオン)は、痛恨の出遅れ。上がり3ハロン33秒6はメンバー中No.1だったから、きわめて残念。気配は抜群に良かった。
問題は失速した人気の先行タイプ。2番人気のガイヤースヴェルト(父ダイワメジャー)は、サッと2番手につけて流れに乗ったが、ウイリアムズ騎手のそつのなさがかえって裏目に出た印象もある。毎日杯1800mで1600m通過1分33秒7のスピードを示していたとはいえ、厳しい流れのマイル戦は今回が初めて。もまれなかったが、馬自身はこのキャリアだからずっとムキになってコパノリチャードを追いかけていた気がする。坂上では先頭。あのまま押し切ったらAランクのトップマイラーだったが……。今年の能力に甲乙つけがたい組み合わせの中で、厳しいレース経験なしが最後の競り合いから脱落した原因か。負ける形ではなかった。
人気の中心エーシントップ(父テイルオブザキャット、祖父ストームキャット)にとって、今回のハイペースに近い流れは、実は理想的だったと思える。スローで展開していたら、おそらく粘り強さは生きずに切れ味負けしていたことだろう。父母両系の特徴からして速いくらいの流れは望むところであり、そこでがんばるのが真価のはずだったが、インパルスヒーローに寄られて前に入られたときはもう余力は乏しかった。状態は文句なしだった。スローの流れも、速い流れも経験していたから、信頼性は高いように映ったが、1分34秒台の平凡な持ち時計が示すスピードが、現時点での能力を示していたのかもしれない。成長するだろうか。
主導権を握ったコパノリチャード(ダイワメジャー)は逆に、皐月賞とは違って今回は勝機十分の立場だから、もっとペースを落として逃げるかと思えたが、ハイペースとまではいかないものの「34秒4-46秒1-57秒8……」。単騎の逃げで、だれも競ってこなかったわりに、ムキになるすぎた。「初めての左回りが応えた…福永騎手」のは確かだが、マイペースで逃げて1分33秒1だから、持てる能力は出したのかもしれない。