先週の続き、京都新聞杯で2着に入った9番人気のペプチドアマゾンだ。
彼はアグネスタキオン産駒である。これがなんとも曲者だ。
500万勝ちで鮮度が高く、鮮度が高いのに5戦全て違う施行条件で、距離も4種類経験してきたのは、鮮度と経験のバランスがよく、大きなアドバンテージだ。
問題は前2走が2400mだったこと。長距離の緩い流ればかりを近走で経験しているのは、今回が似た距離でも、毎回書くように決してプラスにはならない。
ただ、前走は2400mにしてはそれほど遅くない流れを、捲り気味に自分から動いている。つまり積極的に競馬に参加しているので、ある程度の活性化は見込めるだろう。
ここで問題をややこしくするのは、アグネスタキオン産駒だということ。
何度も書いてきたが、揉まれると嫌がり、自分より弱い相手に向くのが基本なので、今回が広い京都外回り2200mという揉まれにくい条件というのを考慮しても、短縮で格上げ戦という、タイトになるステップはやや気になる(短縮自体は別の理由で好きな産駒が多いが)。
それと同時に、アグネスタキオン産駒もやはり鮮度は大事で、今回が初のOPというのはプラスだし、タイプ的にも短縮での広いコースで非根幹距離という摩擦が無い質へ向かうのは、ベストだ。
プラスとマイナスが交錯している。これで3番人気ぐらいなら思い切って切っても良いが、9番人気では鮮度のプラス面が作用する可能性の方がかなり怖い。
そこで前日予想では、相手の一頭に評価したのだった。
事態が急変したのは、当日午後、1つ前のレースだった。急ににわか雨が降ってきたのだ!
これはアグネスタキオン産駒には、相当な神風である。
特に揉まれたくない状況(今回は格上げ戦で短縮とタイトなので)のときには、有効になる。というのも、重だと馬群がばらけて揉まれにくくなるからだ。
また、もともとパワータイプで湿った馬場は得意だし、脚元も弱い馬が多いので、クッションがあると、気持ちも楽になる。ただ、あまり降りすぎるとよくない馬も多い。降り始めや、乾き始め、そういう中途半端な馬場状態が一番アグネスタキオン産駒が喜ぶときなのだ。
案の定、湿って滑る馬場を厭わず、先行して2着に踏ん張り通した。にわか雨がなければ、恐らく4着前後だったろう。
キズナ、ジャイアントリープの1点目的中をワイドにさせられたのは残念だが、分かったこともある。今の京都で中途半端に湿った馬場になったら、アグネスタキオン産駒のツボになるということだ。
そこで迎えた先週の土曜京都。
晴れ予報で突然雨が降った先週と違って、天気予報も弱い雨が降り続くというものだった。この手の予報は、アグネスタキオン産駒の取捨をするときには実に有り難い。
重が得意な馬や、良が得意な馬だと、「弱い雨が降ったり止んだり」という予報だと、果たしてどのくらい降るのか見当が付かないので嫌なのだが(例えば都大路Sで2着だったマイネルラクリマは、もう少し雨が弱かったら4着前後だった)、アグネスタキオン産駒の場合は違う。
土砂降りや、カラカラでなく、取り敢えずある程度は降るというわけだから、降っても今の馬場が良い京都なら「中途半端な重」の域は出ないだろう。
それなら、「アグネスタキオンな馬場」だ。
そこでメインの都大路Sは、前走凡走でストレス無く、重賞からOP特別という、得意の相手弱化で、しかも中山から京都と、競馬場も揉まれにくい単調なものに変わる4番人気リルタヴァルを本命に指名した。
アグネスタキオン産駒には願っても無い状況が揃って、しかも当日は微妙な雨なのだから、かなり美味しい。
レースは、誰も通らない湿って走りにくいはずの内枠を嬉しそうにスイスイと通って、そのまま最内から抜け出して完勝。やはり道悪で行われた4走前カシオペアSを最内枠で完勝したのと、全く同じ形になった。
普段はタイトなレースでの内枠は即切りが基本の種牡馬だが、こういう特殊馬場になったときにだけ、アグネスタキオン産駒の内は実に怖いのだ。
この都大路Sのリルタヴァルは簡単だったのだが、厄介なのはヴィクトリアマイルの3番人気サウンドオブハートである。
覚えている方も多いだろう。
そう、京都金杯のときに、詳しくこの連載で解説した、あの馬である。
そのときの解説にもあったように、心身疲労があるときに、前走よりタフな競馬で相手が強くなると投げ出すのがアグネスタキオン産駒の特徴だ。
前走は中7週開けて心身疲労が薄れた状態でのレースで、しかもMでは精神ストレスが一番少ない距離とされる1400mで、自身ももともと一番得意な距離である。挙げ句に16頭立ての16番枠と大外で、揉まれる心配もない。
これだけ条件が揃って、接戦勝ち。
量系はC系と違って、条件が揃えば、物理的に走るので、接戦では勝たない。ターコイズSや洛陽Sのように圧勝するものだ。接戦だったということは、その通りの力だと考えるのが、量系の基本的考え方になる。そういう拮抗したメンバーの中、今回は中4週とレース間隔が詰まっての、相手強化のレース。まず100%来ない条件で、普通なら無条件に切り捨てで良いだろう。
だが、前日の雨で、馬場は得意の中途半端な状態が想定される。それに加えて、揉まれない大外枠。当日予想される状況は、全てプラスに働いている。
3番人気と人気では一銭も買いたくはないステップなのだが、これだけアグネスタキオンな状況が当日揃うとなると、そうもいかない。
そこで予想では8番手と、ぎりぎり最後の押さえ評価とした。
ところが当日は、予想以上に急速な馬場回復。パンパンの良馬場になった。
アグネスタキオン産駒が、ストレス時の相手強化で、拮抗したメンバー相手に来るための希望の綱は、あっさりと切られたのだった。
結局レースを投げ出して、14着に惨敗する。
この14着という大敗は、もちろん能力ではない。能力だけなら、上位馬とほとんど変わらない馬だ。
問題はアグネスタキオン産駒としてのステップと天候にこそ、あったのである。
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※正誤表が
競馬王ブログに掲載されています。