坂上で横に広がった馬群の真ん中から、一気に抜け出したのは9番人気のメイショウマンボ(父スズカマンボ)。人気のデニムアンドルビーは届きそうにない。ことのほか波乱を好むオークスが、今年もその歴史を守るかのように演出した逆転劇だった。ほとんどの馬が初挑戦となる東京の長丁場2400mで、みんなが期待通りの能力を発揮することはない。
フルゲートの頭数が18頭に制限され、馬連が発売されるようになった1992年以降の22年間で、馬連の万馬券は「8回目」。3連単が発売されるようになった2005年以降の9年間で、なんと「4回目」の6ケタ配当(10万円以上)である。
参考のため。今週、同じ東京の2400mで行われる「日本ダービー」は、過去21回のうち、馬連の万馬券は5回にとどまる。ただし、過去8年のうち、3連単は800倍以上の高配当が6年も連続して飛び出し、6ケタ以上の配当が実に5回もある。
レースを先導したのは、「自身がハナに立ってしまえば、折り合ってリズムに乗れる」と珍しく逃げ宣言をしていた武豊騎手(オークス3勝、2着3回)のクロフネサプライズ(父クロフネ)。しかし、残念ながら、クロフネサプライズはレース前からテンションが上がりすぎていた。ヨレながら突っかかるようにハナに立ち、前半1000m通過「59秒6」の猛ペースで行ったあと、手綱をゆるめた次の1ハロンはさらにペースが上がり11秒8。折り合いがつかなかった。
同馬の作ったレース全体のバランスは前後半「1分11秒4-1分13秒8」=2分25秒2。当然、クロフネサプライズは後半「1分15秒7」に失速して2分27秒1。でも、12着に残っている。しかし、先行タイプでこのクロフネサプライズ(武豊騎手)のペースに少なからず幻惑(影響)されたグループは、みんな大敗した。
メイショウマンボは最初からインぴったりを回り、折り合って中団キープ。VTRを見ての推定だが、この馬の前半1200m通過は「1分13秒8」前後か。縦長になった中、少しセーブしつつ理想のペースでの追走となった。有力候補4番人気で、大外の不利もあったが、ずっと外々をまわって前半からなし崩しに脚をつかってしまった桜花賞とは、一転、別コンビのような素晴らしいレース運びである。
これで武幸四郎騎手の制したGIレースは4つとなった。00年ティコティコタックの秋華賞が「10番」人気。03年ウインクリューガーのNHKマイルCが「9番」人気。06年ソングオブウインドの菊花賞が「8番」人気。そして今回のオークスのメイショウマンボが「9番」人気。めったに勝つことはない。でも、勝ったとき幸四郎ファンはたまらない。
3月の報知杯FRの回顧で書いた気がするが、メイショウ○○○の馬にふさわしく、父スズカマンボが送った初めての重賞勝ち馬がこのメイショウマンボ。最初は日高で人気だったものの、しだいに交配数の減っていた父スズカマンボ(その父サンデーサイレンス)は、その評価を取り戻している。ファミリーも、近年の輸入牝系が大半を占める中、決して現代の著名牝系とはいいがたいが、さかのぼる6代母ダイユウ(父ライジングフレーム)は、1965年の牡馬クラシックを「2・2・1着」と快走したダイコーター(父ヒンドスタン)の半姉。たしかに古いが、間違いなく伝統のクラシックファミリー出身である。クラシックの主力はいま、ディープインパクト産駒や、キングカメハメハではあるが、メイショウさん(松本オーナー)のずっと生産地で果たしつづける功績は、すべての競馬関係者の尊敬に値する。オーナーは涙を流し、幸四郎も泣いた。
人気のデニムアンドルビーは、432キロで馬体重減なし。体つきは良かったが、少し動きが硬く、前回はそんな印象はなかった気がするが、パドックでただ1頭だけずっと内を小さく回ろうとする仕草が気になった。出負けではないがスタートで脚がそろってまるでダッシュつかず。最後方追走になった前半1200m通過は推定「1分15秒台中盤」。たしかに前は飛ばしていたが、この時点で危険信号。推定の数字だが、同馬は後半1200mを「1分10秒台前半。上がり34秒7」でまとめた計算になる。内田騎手がタメすぎていたのではなく、進んで行かない感じだった。自身のラップは前回の2000mほどではないにしてもスローである。中間1200m通過地点で約1秒ほど前方にいたエバーブロッサムなどのライバルのスパートに懸命について行こうとしたが、追走グループのペースも上がっているから、ずっと同じ脚いろ。2月デビューでここが4戦目。ちょうど目に見えない疲れが出て不思議ない日程である。予期しない体調下降が敗因のひとつだろう。
エバーブロッサムは、中間地点でインのメイショウマンボ、直後のアユサンなどとまったく同じ位置で中団追走。インから直線に入って巧みに馬場の中ほどに出した武幸四郎騎手の絶妙のコース取りと、スパートの瞬間の鋭さで見劣ったのが、0秒2差だった。直前のフローラSのレースの中身が決して悪くなかったことをデニムアンドルビーに代わってこちらが示した形になった。
丸山元気騎手の手に戻ったアユサンは、能力を出し切っている。3歳のこの時期は、トップクラスの牝馬は少ないため少々の距離不安は総合力でカバーしてしまうことが珍しくないが、さすがにゴール寸前のストライドに余力はなく離された。2000m級までが適距離だろう。
2番人気のレッドオーヴァルは、ディープインパクト産駒(ほかは、2、3、4着)の中でただ1頭だけ凡走だが、オークス当日、みんながそろって納得の好状態で挑戦できることはありえない。まして小柄な3歳の牝馬である。ギリギリの422キロはメンバー中もっとも体重減大のマイナス8キロ。悪いことにもっとも落ち着きがなく、チャカついていたのがこの馬だった。
サクラプレジール(父サクラプレジデント)は、ひときわ目を惹く好馬体。陣営が出走させたかったオークスに間に合わせた手腕は見事だが、この日程、このキャリアでオークスを勝つのは、他馬より2ランクぐらい上でないと無理だろう。ましてもまれたくないからきついペースに半分乗ってしまった。失速は仕方がない。トーセンソレイユ(C.ウィリアムズ騎手)は、ちょっとペースの読みちがいか。今回はふだんの武豊騎手のペースではなかった。