春競馬も終わり、早いもので、そろそろ秋の血統辞典の気配がしてきた。昨年デビューの新種牡馬も、データが揃ってきて、なんとなく全体像が見えてきた頃でもある。そこで、いくつかの昨年デビュー種牡馬を分析していこうと思う。
春にも少し触れたが、データが揃ってより詳細な分析が出来るようになり、少し気になったことも出てきたので、今回はブラックタイドをもう一度見てみよう。
言わずと知れたディープインパクトの1つ上の全兄だ。
産駒は、テイエムイナズマがデイリー杯で重賞制覇を果たしている。昨年の辞典では、「スプリングS、中山金杯ともに道悪だったように、ディープインパクト、オンファイアよりパワー型で、強引なSの強いタイプだった。産駒も外から捲り気味に動いたり、先行押し切りのような、単調な力勝負タイプが多いだろう」というような、産駒の予想解説をした。
実際に発売後、テイエムイナズマの初勝利が9−3−2の捲り、次走2勝目になったデイリー杯が一転して逃げ切り勝ちだった。産駒の全13勝を見てみても、3番手以内からの逃げ、先行押し切りが8回、捲りが3回で、捲りではない普通に差しての勝利は3回しかない。その差して勝った3勝の内訳は、デビュー戦、前走12番手から短縮で4番手と前に行く位置取りショック、前走5番手から短縮で9番手と後ろに回る位置取りショックとなっている。デビュー戦以外は、距離変更+位置取り変更のダブルショックだったことになる。
これは何を意味するのか?
思い切った戦術以外で勝つときに、位置取りショックや距離変更ショックを要求する率が高い種牡馬は、基本S質の強い種牡馬といえる。S系の不安定な精神のコントロールを、位置取りショックを仕掛けるとしやすくなるのが、その主な要因だ。我慢の利きにくいS系に、一時的に我慢させるのには、距離変更ショックや位置取りショック、重馬場、休み明けは重要なアイテムになる。
またそれとは別に、一本調子に加速していくパワータイプも、極端な戦術ではなく、好位で差して勝ち切るのには、位置取りショックや距離変更ショックを必要とするケースが多い。体力で押すパワータイプは、基本的に緩急に弱い上に揉まれ良いので、一気に加速する形を好む。その為、自分のペースで逃げ、先行するか、後方から外を強引に捲る形が合うのだ。
ブラックタイド産駒が、逃げ、先行、捲りか、あるいは距離変更付き位置取りショックをかなり好むのは、この2つの性質が色濃くあることを端的に示しているといえる。
以上からM的にまとめると、「体力とパワーが豊富な一本調子の非C系タイプ」ということになるだろう。
デイリー杯を制したテイエムイナズマが、距離の長いといわれた皐月賞を6着、ダービーも6着と崩れなかったことにも注目したい。これは、かなりの体力とパワーが供給されていることを意味している。それと同時に、ある程度の量も供給されている。今のところ、2勝を挙げたのはテイエムイナズマとサイモンラムセスの2頭だが、この2頭にはある程度の量も供給されているわけだ。他の産駒は、ほとんど体力とパワーに頼っている。後者の場合、安定感を欠き、極端な位置取りショックや条件変更ショック、休み明け、道悪などに頼る比率が一気に高まる。
ほとんどの産駒は後者になるので、そういったステップを踏まない限り、単勝のうま味はあまりないと考えて良い。逆に、何かしらの思い切ったショックが施されたときは、惨敗から変わる可能性も十分あるということだ。
まだ未勝利だが、レースを多く消化してステップのサンプル数が多いという意味で、クリノコトノオーという馬をちょっと見てみよう。
3回連対しているのだが、1回目は新馬の重馬場。2回目は1400mから1800mと400mの距離延長をほどこされ、前走追い込みから8−7−6−4と捲ったレース。3回目は1800mから1700mへの短縮で不良馬場だったレースとなっている。フレッシュだったり、特殊馬場だったり、ショックが施されていると、一押しが利いている。ちなみに、400mの延長で捲って2着した次走、同じダート1800mで1番人気に支持されたが3着に着順を落としている。初距離で雑に捲って2着なんだから、距離に慣れた次走で、普通に好位差しで競馬すれば勝てるのでは?ということで、1番人気になったわけだが、結果はそうもいかなかった。
なんとも、M的な結末だ。
始めて1800mを走って連対して以降、1800m適性が高いという読みで、5回連続で1800mを走るが、結局始めて1800mを走ったときの着順を超えることはなかった。その後、始めて走った1700mで連対して、今度は1700mに適性があるのでは?ということで使われた次走の1700mでは、やはり人気を裏切って5着に凡走している。
ただし、ここで注目すべきは鮮度要求率だけではない。
位置取りショックや、大捲りや逃げ、先行などの思い切った作戦の相性、特殊馬場への適性、そちらの方によりフォーカスを当てた方が良いのかもしれない。結果、鮮度要求率が非常に高いような戦績になっているし、春の時点での見立てでも鮮度要求率の高さを中心に見てきたわけだが、どちらかというとブラックタイド産駒のポイントは、後者の方に比重があるのではないか?というのが、ここまで見てきての、率直な感想である。
では、量をある程度供給された場合はどうか?
このケースでは、体力に頼ることに変わらないので、自分より強い相手に踏ん張るということは少ないが、自分と同等レベルまでなら、それほど大崩れせずに、体調さえ良ければ自分の力はそのまま出せるケースが多いだろう(生涯鮮度が落ちたら、量がある産駒でも安定感を欠いていくことにはなるが)。ただ自分より弱くても、自分にある程度近いレベルの相手に勝ち切るとなると、やはり再三書いているタイプのショックや特殊馬場、リフレッシュの要求率が普通より高くなることも、また間違いない種牡馬である。
※M3タイプ
S(闘争心)
闘争心を持つ馬。1本調子に走ろうとする性質。このタイプは気性をコントロールするために、短縮などのショック療法が有効。生涯に1度の絶頂期には、あらゆる条件を飛び越しで走ろうとするが、それを過ぎると極めて不安定になる。Sの由来は闘争を表す「Struggle」の頭文字から。
C(集中力)
集中力を持つ馬。集中して他馬との相手関係の中で走ろうとする性質を持つ。レース間隔を詰めたり、体重を絞ったり、内枠、ハイペース、強い相手との競馬など、摩擦の多い状況を得意とする。Cの由来は「Concentration」の頭文字から。
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※正誤表が
競馬王ブログに掲載されています。