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函館記念

  • 2013年07月15日(月) 18時00分
 キャリアを積んだ古馬の、2000m級の重賞を自分で主導権を握る「逃げ切り勝ち」には、大別すると3つのパターンがある。

▼明らかにスローの単騎マイペース型

トウケイヘイローの鳴尾記念2000mはこの形で、
前後半の1000m「60秒4-58秒5」=1分58秒9

▼前後半のバランスを失わない平均ペース型

今回の函館記念2000mを押し切ったトウケイヘイローは、
前後半の1000m「58秒8-59秒8」=1分58秒6

▼飛ばして差をつけ、我慢するハイペース型

前後半の1000m「57秒4-62秒1」=1分59秒5
(最近は例が少ないので、すでに古典になる1993年の七夕賞を逃げ切った中舘騎手のツインターボの逃げ切りの記録)


 今年の函館記念を逃げ切ったトウケイヘイロー(父ゴールドヘイロー)は、伏兵6番人気だった鳴尾記念と異なり、みんな行くことが分かっていた人気の逃げ馬。相手が相手だったので、厳しいマークを受けたわけではないが、こういう逃げ切りは高い能力の証明である。

 函館コースの2000mはちょっと独特で、1988年の函館記念。前半1000m通過「57秒7」のペースを追走したサッカーボーイが、当時とすれば驚愕の「1分57秒8」。新時代の日本レコードを樹立したコースである(洋芝になる以前)。また、1979年の函館記念では、レースの前後半「56秒5-62秒5」=1分59秒0。前後半の差が6秒0も生じた変則ペースをエンペラーエース(父タイテエム)がレコードで抜け出している。そのときの前半3ハロンの正式記録が、2000mの前半なのに、「11秒5-10秒0-10秒8」=32秒3だった(?)という怪しい記録があるのが函館コース。たしかにちょっと気合をつけると前半が速くなる傾向がある。

 今年のトウケイヘイローの逃げは、しかし、特異なダッシュが利くかもしれない前半の2ハロンを別にすると、そこからの残り1600mは、

 「11秒7-11秒8-12秒1-12秒1-12秒0-12秒0-11秒6-12秒1」

 後半の8ハロンは、それぞれの1ハロンに最大「0秒5」の差しか認められないまるでマシンのようなペースである。蘇った武豊騎手の真価発揮でもあった。

 マークされながら見事に一定のペースを守り、4コーナーを回るあたりでもっともピッチを上げての押し切りは、鳴尾記念のノーマークに近い逃げ切りとは大きく異なる。ここを評価したい。

 今回、57.5キロのトップハンデで勝ったから、ハンデ戦の新潟記念出走はありえず、サマーシリーズを狙うとすれば、定量戦の8月18日の札幌記念(同じ函館)だが、陣営の大展望は秋のビッグレース=秋の天皇賞2000mになるだろう。

 レースの中身や時計は別に、ここ2戦の相手を考えるとそうは強気になれない気もするが、自力でレースを作るトウケイヘイローの天皇賞・秋への挑戦は、見どころ倍増である。

 父はゴールドヘイロー。今年のトレンドにも近いサンデーサイレンスのちょっと著名ではない種牡馬大活躍の典型。南関東8戦5勝だが、とくに大きなレースを制したわけでもなく、売りはカーリアンを出した牝系出身になるのと、最初に公営競馬での2歳馬早期育成作戦が成功し、以降、大きなバラつきはあっても種付け頭数に恵まれる年が多いこと。トウケイヘイローはたしか初のグレードレース制覇の産駒であり、ほかはダートの短距離型が大半。

 トウケイヘイローは、典型的な夏の平坦一族として知られるファンシミンの牝系。ダイナマイン、ダイナシュートなどのファミリーだから、函館の平坦コースに高い適性があるのは当然。そこに、この牝系にしては珍しいことに母の父に登場するミルジョージの血が加わったから、洋芝の函館記念も合っていたのだと考えることができる。

 早めに進出する作戦が成功して粘り込んだ2着アンコイルド(父ジャイアンツコーズウェイ)は、現在も繁栄しつづけ、世界で多くの勝ち馬を送る女傑トリプティクの牝系。函館記念を2005年から2007年まで3連勝もしたエリモハリアーの父ジェネラスが、まさにそのトリプティク一族の代表馬だから、パワー型でここまでの2000mの最高タイムが1分59秒0(今回は1分58秒9)のアンコイルドは、まさに洋芝の函館記念向きだったことになる。

 そうは鋭い切れを持たないアンコイルドを、早め早めの進出で2着に粘らせたのは、早くも通算500勝を達成して勢いに乗る吉田隼人騎手(29)の好騎乗だった。

 3着アスカクリチャン(父スターリングローズ)と、ハナ差4着サトノギャラント(父シンボリクリスエス)の差は、函館記念では圧倒的に不利な外枠にもかかわらず、途中から馬群を割って進出し、最後はインに突っ込んだアスカクリチャン(岩田康誠騎手)と、外を回って一気にスパートしたサトノギャラント(北村宏司騎手)のコース取りの差だったところもある。

 しかし、夏の2000m級の重賞こそベストのアスカクリチャンに対し、典型的なマイラー型だったスティンガー産駒のサトノギャラントは、あの勢いで来ながら寸前に鈍ったあたり、2000mはベストの距離より気持ちだけ長いのだろうと思えた。

 巴賞の勝ち方が評価されて1番人気に支持されたエアソミュール(父ジャングルポケット)は、今回も気配上々。巧みに好位につけたが、ちょっと難しいところのあるエアシャカール(仕掛けの難しい2冠馬だった)の一族の死角か、デキのいいときだからこそ行きたがってしまう悪い一面が出て、折り合いを欠きながら、かつもまれてしまった。凡走は残念だったが、勝ったのは鳴尾記念でも完敗していたトウケイヘイロー。そのトウケイヘイローが前述のように武豊騎手で非の打ちどころなしのレースを展開させたから、力負けの部分もあったろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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