6月30日の函館の新馬芝1200mを圧勝。1分09秒3の2歳コースレコードを記録していた牝馬クリスマス(父バゴ。母の父ステイゴールド)が、今度はひかえて2番手から抜け出し、レースレコードの「1分09秒6」で快勝した。
近年の函館2歳Sは、長く9月に行われていた時代が過ぎ、8月の前半に移っていたあと、昨年からは7月の中旬に早まった。そのため、JRAのもっとも早い時期に行われる1200mの初重賞として注目を集めても、必ずしも評価の高いグレードレースとはならないことが多い。
しかし、2歳戦の開始時期がどんどん早くなったこと。このクリスマスがそうであるように、各種トレーニングセール出身馬が増えたこと。また、多くの馬がマイル戦を中心のスピード型に傾斜している時代であることを考えると、早い時期から能力を発揮する馬に対し、ふつう、日本では極端な早熟系はきらわれることが多いが、その評価を低くとどめる理由は乏しい。
昨年7月の函館2歳Sの4着馬は、今春のクラシックの主役となったロゴタイプである。やがて世界のGIホースに育った1997年のアグネスワールドは、7月開催の函館2歳Sをクリスマスと同様、レースレコードの1分09秒8で勝った馬だった。8〜9月の函館2歳Sに出走して、のちにGIで活躍した馬に、08年フィフスペトル、06年ローレルゲレイロ(今年のキタサンラブコールの全兄)、1998年ウメノファイバー、1993年ナリタブライアン(のちの3冠馬)などがいる。もう少しさかのぼると、サンエイサンキュー、ライトカラー、サッカーボーイ、マックスビューティ、エルプス、シャダイソフィア…なども、夏の函館(旧)3歳Sからスタートした馬だった。
クリスマスの場合、まだ母の父として送る世代が少ないから活躍馬はいないものの、いまもっとも注目種牡馬の1頭となったステイゴールド(父サンデーサイレンス。母ゴールデンサッシュの全兄が前出サッカーボーイ)をブルードメアサイアーに持つ点で、仕上がりの早さで快走したトレーニングセール出身馬にとどまらない可能性がある。
父バゴ(その父ナシュワン)の形容詞は、もちろん2004年の凱旋門賞馬(5番人気の評価で2分25秒0の快時計)だが、凱旋門賞も勝ってしまったとした方がふさわしい印象もある。全8勝中の6勝が2000m以下。3歳春、シャンティの1800m(GI)を圧勝した際は1分46秒6の高速時計だった。代表産駒のうち、障害入りしている菊花賞馬ビッグウィークはスタミナ型だが、オウケンサクラは東京のマイルを前半1000m通過55秒9で突進した。
バゴの父ナシュワン(その父ブラッシンググルーム)も、決してステイヤーではなくスタミナを秘めた中距離スピード系が一般的な評価。ナシュワンは1989年の英ダービーを独走してみせたが、7ハロンでも勝ち、8ハロンの2000ギニーも速い時計で勝っている。ナシュワンの祖母ハイクレアは、女王陛下のクラシック勝ち馬というより、日本ではますます評価を高めている種牡馬ディープインパクトの3代母とした方が通りはいい。欧州系だから当然スタミナタイプの血は内蔵しているが、現代の活躍種牡馬で、スピード能力に疑問の大きい馬などめったにいない。
クリスマスは、仕上がり過ぎていた印象のある新馬戦より8キロ増の426キロ。外枠だったからムキにならず、好スタートからなだめて2番手追走の形がとれ、追って楽々と抜け出した。1分09秒6のレースレコードは、芝状態の変化を考慮すると、開催当初の自身のコースレコード1分09秒3よりはるかに価値がある。活力を消耗することなく成長し、やがて1600mもこなし、さらには、父バゴ、母の父ステイゴールド。イメージにぴったりの牝馬に育って欲しい。
人気薄で2着にがんばったのも牝馬プラチナティアラ(父プリサイスエンド)。今年は函館の開催が連続24日間も行われるため、それこそ手を尽くした芝の整備が行われているから、インの芝はまだ荒れていない。下げることなくインから先行した木幡騎手の強気な騎乗に応え、「1分11秒4→1分10秒8→1分09秒9」。3戦連続して時計を詰めてきたから立派なものである。
父プリサイスエンド(その父エンドスウィープ)の良さを前面に出した仕上がりの早いスピードタイプと思えるが、ファミリーは日本を代表する名牝系フロリースカップから発展する渋い一族。3代母ナナヨーアトラスも、祖母ナナヨーストームも人気馬としてオークスに出走している。祖母の全妹ナナヨーウイング(父セレスティアルストーム)は、1997年のオークス2着馬である。ハデではないが、侮れない成長力を秘めるファミリー出身であることを忘れないでおきたい。
江田照男騎手が久しぶりに函館に遠征したトーセンシルエット(父トーセンダンス)は、東京の新馬1400mの時計が平凡だったため人気薄。でも、江田騎手が駆けつけただけのことはある。この時期にマイナス12キロの馬体減は決していいことではないが、道中一番もまれる位置にいながら最後はきっちり伸び、メンバー中最速タイの上がり35秒8で3着。ダイナカールが代表するパロクサイド一族らしい勝負強さをみせた。
直前の追い切りで素晴らしい動きをみせたオールパーパス(父ダイワメジャー)は、デビュー戦以上の好スタート。外のクリスマス、テルミドールの出足が良く、また内のプラチナティアラなども積極的に先行の構えをみせたから、すでに追っての味を示しているオールパーパス(岩田康誠騎手)は競り合いを避けて少し下げたように見えた。ただ、馬は行く気になっていたから、微妙にリズムが崩れたのかもしれない。まだ2戦目の2歳馬だから、折り合いを欠くようになったのは仕方がない。勝負どころでもう呼吸が合っていなかった。
そのオールパーパス、カリカリして3番人気ながらいいところなく16着に後退したビービーブレイン(父サクラバクシンオー)、見せ場を作れなかった4番人気ファイトバック(父アドマイヤジャパン)などは、急に評価を下げる必要はない。次走を待ちたい。北島三郎さんのキタサンラブコールは、馬体も仕草もまだまだ幼さすぎる印象だった。
公営のハッピースプリント(父アッミラーレ)の好馬体は光っていたが、ダート1700mの直後とあって行き脚一歩。伸びたのは直線だけ。さすがに1200mは短かった。また挑戦してくるだろう。再注目したい。