2歳戦のスタートが早まり、つれて距離1600mのこの重賞の評価は高まっている。今年は、新潟で勝ち上がった馬はわずか3頭だけ。初勝利を記録した競馬場別にグループ分けすると、「福島5、中京4、東京4、新潟3、小倉1、函館1」頭という組み合わせになった。
これまでの初期のローカル2歳重賞とはだいぶ様子が異なっている。今回の成績を、初勝利を記録した競馬場別にすると、1着馬から順に「中京、東京、中京、福島、東京、中京、東京、中京…」となり、9着のダウトレス(福島デビュー)が新潟で勝ち上がった組の最先着馬である。もう、新潟でデビューした馬中心のローカル重賞ではなくなったのである。
それを考えると、中京の芝1400mで新馬戦を快勝し、2戦目のこの1600m重賞を圧倒的な内容で楽勝した牝馬ハープスター(父ディープインパクト)には、このレースの中身が際だっていたという以上の高い評価をしていいだろう。
ダッシュもう一歩のスタートから、4コーナーを回ってもまだ最後方追走になったハープスターは、残り2ハロンに差しかかった地点でも、通過順はまだ最後方。レース全体が前後半「47秒9-46秒6」=1分34秒5(1000m通過60秒7)のスローだったから、大きく離れていたわけではないが、残り400m地点の大外でムチが入ったハープスターの加速は強烈。
レースの最後の2ハロンが「10秒9-11秒4」の高速フィニッシュなので、そこから17頭をまとめて差し切ったハープスターの2ハロンは、推定「10秒2-10秒8」と思われる。新馬戦とは一変、ささらず一直線に伸びた。必死というフットワークでもなく、大楽勝である。
ハープスター自身の1000m通過地点は「62秒0」のスローなので、そこまでが非常に楽な助走だったと考えれば、上がり3ハロン「32秒5」は、こと新潟では必ずしも驚異的な爆発力ではないかもしれない。そっくり同じペースの前半1000m通過60秒7のスローで流れ、1分33秒8で決着した2011年の新潟2歳Sのモンストール=ジャスタウェイも、上がり「32秒6-7」を記録している。
同じ川田将雅騎手が乗ってこういう印象的な勝ち方をした馬には、2008年の新潟大賞典2000mを、最後方近くから直線だけで2馬身半も突き抜けた6歳オースミグラスワン(父グラスワンダー)がいた。同馬の上がりは楽々と31秒9であり、今回のハープスターと同様に最後の2ハロンは連続10秒台だった。
でもそれは古馬であったり、今年よりずっと高速の芝だった年や、すでに新潟を経験していた馬のこと。ハープスターはここが初コース。2戦目の2歳馬。きわめて落ち着いているというより、厳しいレースをしていないから、まだのんびりしているかのように映った。松田博資厩舎の所属馬だから、このあとは無理することなく大事に育てていくことだろう。必ずしも有力なクラシック路線とはいえない新潟2歳S出走馬だが、これまでの勝ち馬とはひと味も二味も異なると思えた。異常な高速上がりをこなした反動が出ないことを祈りたい。
祖母は2冠牝馬のベガ(その父トニービンの新潟適性は知られる)。ベガの残したただ1頭の牝馬が未出走の母ヒストリックスター(その父は平坦巧者を送ると同時に、牝馬のファルブラヴ)。そこに切れ味勝負なら比類なき種牡馬ディープインパクト。どの馬より新潟1600mが合っていたことは間違いないが、この世代のチャンピオン牝馬になれる可能性がある。
ハープスターのあまりの爆発力に、快走した2着以下(3馬身以上)はかすんでしまった印象はぬぐえないが、みんなまだ2-3戦目。特殊な高速上がりの1600mだから、勝ち馬に切れ味負けしたのはたしかでも、上位馬はみんな別にバテたわけでもない。
2着したイスラボニータ(父フジキセキ)は、出遅れ気味のスタートはこのスローだから苦もなく挽回できた。これはロスにはつながらなかったが、6月第一週の勝ち馬とあってここは約3カ月ぶりの出走。余裕のあるローテーションとはいえ、2歳馬に一旦楽をさせての仕上げは難しい一面もある。スローで密集した馬群の中に入り、狭いところを割って抜け出すように上がり33秒7。
この勝負強さが、ピークトラムとの2着争いに競り勝った要因だろう。
3着ピークトラム(父チチカステナンゴ)は、すでにここが4戦目。中団でうまく流れに乗り、一旦は2着確保かと思える伸びをみせた。チチカステナンゴ(その父スマドゥン)産駒は、この夏、心持ち時計のかかる平坦コースに適性を示しているあたり、広い意味で同じ父系に属するトニービンと似た特徴がある。勝ち上がった中京コースや、今回の新潟コースは合っているのだろう。3年だけで早世してしまったこと、初年度の産駒にあまり光る産駒が含まれていなかったことから一般に評価は下がっているが、総じて真価発揮は2000m級と思われる。 ピークトラム(母父スペシャルウィーク、母はタッチミーノットの4分の3姉)の中京1600m1分35秒8は2歳コースレコードだが、少しも速くはなく、示している内容はマイラータイプのそれではない。真価発揮はこのあともう少し距離が延びてからだろう。
人気の1頭ダウトレス(父プリサイスエンド)は中位のインで流れに乗っていたが、3コーナー過ぎ、スローで一団になった馬群に前を塞がれるように後退し、完全にリズムを崩してしまった。
3番人気のマイネグラティア(父ネオユニヴァース)は、前半もたもたして流れに乗れなかったダリア賞では脚がたまる形になり、追っての味につながったが、ちょっとカリカリしていた今回は道中のタメが利かなかった。同じダリア賞組のアポロスターズ(父アポロキングダム)もまったく同様で今回は先行できたのが裏目。ダリア賞組(7、10、11、16着)の全体レベルが低かったこともあるが、2歳戦の新潟1600mの難しいところは、なまじ流れに乗って先行できてしまうと、楽なように見えて結果がでないこと。
その典型が直線の中ほどでは快勝か、と思える手応えできながら、最後は5着に沈んでしまったマーブルカテドラル(父ダイワメジャー)のパターン。超スローの新馬戦だったりすると大丈夫でも、相手の強化した今回のようなペースで先行態勢に入ると、折り合っているように見えて、なんとなくムキになってしまうのだろう。
ここが新潟外回りの2歳戦のもっとも難しいところで、負担の少ない、スローに近いちょうどいいペースで先行できたと思える馬の2歳Sの成績は驚くほど良くない。スローの流れが一般化する以前は、もう少し厳しいペースで先行した馬の好走例も多かった。先行して止まったグループは、他場と異なり、まるで力不足というわけでもない点に注意したい。