直前の函館メインで11番人気の7歳馬サイモントルナーレが快勝。2010年の10月以来、約2年10カ月ぶりの勝ち星(芝では初勝利)を挙げて驚かせたあと、新潟の夏のハンデ重賞を制したのは、10番人気の6歳牝馬コスモネモシン(父ゼンノロブロイ)だった。
コスモネモシンの勝ち星は2010年1月のフェアリーS以来なので、勝ったのは約3年7カ月ぶり。ここまで芝2000m以上【0-0-2-8】。夏のローカル競馬の最終日らしく、中央場所にもどってはもう苦しいかもしれないベテランホースの快走は、非常に買いにくい逆転劇の連続。ただし、すっかり注目度の下がっていたWIN5だけは盛り上がった。
不良馬場なのに、「レコードが出るかも知れないぞ」などという冗談が飛び出す高速決着の小倉競馬が行われている一方、1973年のエリモカップの函館記念2000m「2分16秒4」や、快速サクライワイの函館3歳S(旧)1200mの「1分21秒7」など、そっくり1ハロン異なる伝説のレースが再現されかねない函館競馬が同時進行していた。
新潟は、大雨洪水警報が出ているのに、うろこ雲のさわやかな秋空が広がっている。と思えば、一転、音を立てて局地スコールが見舞い、芝コンディションは「稍重→重→稍重」と変化して、新潟記念は稍重。結果、1分58秒9=「59秒9-59秒0」で決着したから、スローなのに、全体に上がりタイムを要するだいぶ渋った馬場だった。内外の有利不利はなかったものの、上滑りするようなコンディションを気にした馬が多かった。
上位を占めた1着コスモネモシン、2着エクスペディション(父ステイゴールド)、3着ファタモルガーナ(父ディープインパクト)は、順に、10、8、7番人気にとどまったあたり、なんとなく今回は買いにくい要素が多い馬ばかり。鞍上の好判断が好走、快走の要因だったろう。
6歳牝馬コスモネモシンの連対実績が1800m以下に限られてきたのは、速い脚が長つづきしないのと、デキが良くなると行きたがるなど、折り合いに死角があったため。これを承知の松岡正海騎手は、人気の圏外10番人気にとどまった今回、予測された通りのスローペースを人気薄の気楽な立場もあって、行きたがる面を出さないように控え、終始馬群のインキープ作戦に出た。
直線に向いてペースが上がった地点でもスパートを待ちながらイン狙いに徹した。もちろん、少し時計のかかる馬場を苦にしない背景(母の父はローエングリンで再評価されたシングスピール)もあったろうが、勝ち気にはやらず、技ありのイン狙いのスパートだった。スローの平坦新潟2000mで、レース上がりが34秒7も要した稍重のコンディション。まさに、絶妙の脚の使い方である。昨年が良馬場で1分58秒4(上がり32秒7)。0秒8差の13着。少しも強くなったわけでも、内容良化でもないから、みんな買いにくかった。
2着に粘ったエクスペディションは、人気になった七夕賞、小倉記念を連続して凡走し、狙ったサマー2000シリーズの成績はボロボロ。もう、ここを勝てばトウケイヘイローを逆転し…などというポイントではなくなった。それもあって、強力な逃げ馬不在を読んだ鞍上の浜中俊騎手は、「だれも行く気がないなら…」と、スタートしてしばらくのちに主導権を握る作戦に出た。6歳エクスペディションが先手を取って自分でレースを作ったのは、23戦目の今回が初めてである。
マイペースに持ち込んで自身の前後半は「59秒9-59秒0」=1分58秒9。上がり34秒7でクビ差同タイムの2着。昨年の小倉記念2000mを1分57秒3で快勝したときのデキにはなかったから、これが精いっぱい。相手と展開を読んだ鞍上の好判断だった。
3着ファタモルガーナは、新潟2000mを上がり32秒8で勝った記録はあるが、それは超スローの条件戦のこと。ステイヤーズS2着の賞金加算があってオープンに出世した馬だから、2000mの持ちタイムは有力馬を大きく下回る1分59秒6止まり。スロー必至を考えて先行し、現時点での詰めの甘さをカバーした田辺裕信騎手(この夏の新潟リーディングを獲得)の好騎乗の善戦だったろう。決して鈍ってはいないが、伸びてもいなかった。
人気馬は総崩れ。ニューダイナスティ(父ディープインパクト)は、目下2連勝の上がり馬だが、返し馬に入るとドタドタと鈍い印象のフットワークが目立ち、2000mでも勝ってはいるが、緩急のペース変化に対応できる馬ではなく、そこで陣営が2000mを超す距離を中心に出走しているのはさもありなん。鋭さに欠ける印象ばかりが目についてしまった。人気の中心に支持されたのは、流れに乗って先行できる点を評価されたからであり、実際その通りの展開になったが、自力でペースアップできるギアチェンジができなかった。こういう渋った馬場も不得手。大跳びのフットワークに上滑りするようなコンディションはとくに合わなかった。
以下、4着ダコール(父ディープインパクト)は、これで通算【5-9-6-7】。こういう馬場だと詰めの甘さがカバーできるどころか、もっと詰めの甘さが目立ってしまった。凡走はない。まして内田博幸に依頼してきた。候補の1頭からは外しにくかったが、いつも通りだった。
ブリッジクライム(父ゼンノロブロイ)は、主戦の横山典弘騎手が51キロで騎乗してきたとあって上位人気に支持されたが、前回、絶妙のイン強襲作戦で1000万特別を勝った馬。こういう軽ハンデの牝馬が台頭するのが新潟記念であり、実際、52キロのコスモネモシンが逆転勝利をおさめたが、ブリッジクライムは人気の中心。この馬場でインに突っ込む作戦は取りにくい。まして悪いことに渋馬場は不得手。晴れて良馬場に回復を思わせたかと思えば、スコールでまたまた馬場が渋り、結局、この馬は馬場状態に恵まれなかった。
トレイルブレイザー(父ゼンノロブロイ)は、7番人気だった前回の七夕賞(58キロ)ではさすがと思わせる2着だったが、あの手ごたえなら勝ち負けかとも思えたBCターフで急に止まったり、ドバイでは戦意喪失の凡走を重ねるなど、どうにも難しい馬であるのは変わらない。
宝塚記念にも、有馬記念にも、ジャパンCにも、BCターフにも、香港ヴァーズにも挑戦した期待馬は、今シーズンは一転、七夕賞と、新潟記念に出走してみた。しかし、相手が弱化したからといって、それでストレートに着順が上がるような馬ではなかったのである。
アカンサス(父フジキセキ)は一団の展開になって、外枠だから前にカベが作れず前半から行きたがるロス。サンシャイン(父ハーツクライ)は逆にインを通ったら、渋った馬場が予想以上に堪えた印象だった。