去る9月1日(日)、道東の中標津町にて恒例の草競馬が開催された。数えて37回目となる今年は、折からの悪天候にも祟られ、コンディションは決して良くなかったものの、終日多くの人馬によって熱戦が繰り広げられた。
中標津南中競馬場の看板?
この草競馬は、かつて高倉健と倍賞千恵子が共演した「遥かなる山の呼び声」(昭和54年、山田洋次監督、松竹映画)の舞台にもなった伝統ある草競馬で、主催は、標津・中標津地区馬事愛好会という民間団体である。それに標津町や中標津町、北海道新聞社、周辺の各農協などが協賛する。
会場となる競馬場は中標津町南中(みなみなか、と読む)にある。一見、ただの草原にしか見えないようなところだが、そこに一周1000mのダートコースと200mのばんえいコースが併設されており、一年でこの日だけ使用される競馬場だ。
道東では平地よりもばんえいの方が盛んに行われており、草競馬と言えば多くの場合ばんえいを指すが、ここでは平地(速歩と繋駕レースを含む)とばんえいの両方を行っていて、お昼休みを挟んで1日で計31レースも組まれている。レース数は概ね半々である。
ばんえいから繋駕まで、全てを1日で見られるのは日本でおそらくここだけだろう。
しかも第1レースが午前10時スタート。最終レースが終了したのは午後3時前だったから、目まぐるしく人馬が次々に登場する。周回コースでレースを行っている最中にもばんえいコースのレースが始まったりして、しばしば“同時進行”されるのがここの草競馬の大きな特色だ。わずか5時間で31レースをこなすのだから、かなりタイトなスケジュールになっている。
中標津南中競馬場のばんえい風景
ポニーの「馬体審査」
馬は全道から集結する。浦河からもポニー乗馬スポーツ少年団のメンバーを中心に300キロを移動して遠征してきた。馬運車のナンバープレートを見ると、札幌、室蘭、函館、帯広、釧路、旭川などとバラエティに富んでおり、馬運車の形態もまたいろいろだ。競馬場などで見かけるようなタイプの馬運車はここではほとんどなく、普通のトラックに簡易な“馬室”を荷台に載せ、馬たちが横積みで運ばれてくる。ばんえいの場合、大型の農用馬よりも近年はポニーばんばの方が主流になってきていることから、専用の小さな輸送車をけん引して来場する人もいた。
受け付け開始は午前7時半となっているが、中には前日から会場入りしている人もいる。
ばんえいに出走するポニーには「馬体審査」が課せられる。ポニーのクラス分けは体高によって決められており、過去にもこの測尺を巡って口論になる場面を幾度も目撃してきたが、今年は割に平穏であった。
ついでながら記すと、同じポニーであっても、平地で走るポニーと、橇を曳くポニーとではまったく別の生き物に見えるくらい体型が異なる。ばんえいに出て来るポニーはマッチョでいかにも力が強そうな体つきだ。
因みにばんえいの場合、ポニーの負担重量はクラス毎に異なり、Dクラスで50キロ、Cクラス80キロ、Bクラス140キロ、Aクラス(これが最上級である)になると実に170キロもの荷物を曳く。
朝から雨が降り続いているあいにくの天候で、おまけに気温が低く、15度に達していない。東寄りの風があり、横から雨が吹き付けてくるような空模様のまま草競馬が始まった。プログラムには31レース記載があるものの、毎年ここでは“変更”がある。予定していたレースにエントリーが少なかったり、逆に想定以上の頭数が集まったりすると、その場で簡単にレースが追加されたり取り止めになったりするのだ。
今年は、ばんえいに出走するポニーが多くなり、当初4レースが実施される予定だったが、急遽7レースに増えた。A〜Dクラスだけだったところに、Eクラスが追加され、さらに、1歳馬、2歳馬のレースが新たに加えられた。
ポニーで行われているばんばの風景
第1レースに出走のポニーたち
こうした変更は、その都度、迫田栄重アナウンサーが放送で場内に伝えるのだが、よく聞いていないと聞き逃してしまう。前述したように、レース数そのものが多いので、途中にこれら追加されたレースが挟まると、かなり分かりにくくなる。次々にスタートするレースを目で追いながら、それがプログラムの何番目になるのかを確認しなければならないので見ている方も忙しい。
第1レース(平地)は、「ポニーキャンター・道新杯」という、いきなりメインレースみたいな名前のついた1000m戦で、ここには9頭出走してきた。浦河の子供たちだけではなく、地元中標津や釧路方面からも出走馬がいて、まとまった頭数になった。
ただ、折からの雨のせいで、馬場状態は「不良」。第1レースから水の浮いている泥んこ馬場になっており、どの馬も水しぶきを上げながら、一団で目の前を通過して行く。
1000mの場合、4コーナーを回って直線に入ったあたりからのスタートとなるため、実質的には1200mくらいの距離になるだろう。バシャバシャバシャという音を響かせながら各馬が泥んこ馬場を一周してくる。雨は依然として降り続いており、このまま止まないとしたらちょっと大変だなぁなどと思いながらゴール前でカメラを構えた。
以下、次回につづく。