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世代レベルの高さを示した独走/菊花賞

  • 2013年10月21日(月) 18時00分
 圧勝したエピファネイア(父シンボリクリスエス)は、多くの人びとが想像していた勝ち方よりもっと強かったのではないかと、菊花賞制覇を称えたい。

 快勝した馬が素晴らしく映るのは、どのレースでも同じだが、前半こそちょっと力んで不安な素振りをみせたものの、位置取りに納得したあとはエピファネイア自身も辛抱して我慢できた。バンデ(父オーソライズド)の作ったペースにリズムを合わせるように3000mの中盤をスムーズに乗り切り、直線に向いて抜け出すと、あとはムチの必要もない独走だった。

 少なからず行きたがったのは確かだが、スタートして間もなく下り坂になり、スタンド前を通過しながら行き脚をセーブしなければならない京都3000mは、ディープインパクトなど多くのチャンピオンが行きたがった。でも、ここで辛抱し、それで気分良く勝てた。これからの中長距離のビッグレースで折り合い難の生じる危険は少なくなる。

 不良馬場というほど時計を要する走りにくいコンディションではなかったが、レース全体のペースを考えると、3分05秒2は十分すぎるほどの好時計である。自身のフィニッシュは35秒9-12秒3。とくに独走とわかった最後の1ハロンは流すくらいの余力があった。

 福永祐一騎手も、種牡馬シンボリクリスエスも、そしてエピファネイア自身も、ここまで2000m-3000mの牡馬クラシック制覇はなかったが、もう男馬のビッグレースに弱い福永祐一ではなく、産駒がクラシックに縁のない種牡馬シンボリクリスエスでもない。あとちょっとで勝ち切れないエピファネイアでもなくなったのである。

 また、現3歳世代は、4-6歳の層の厚い古馬陣にはねかえされるケースが多く、そう強い世代ではないのではないかと分析されるが、それは3歳世代のレベルが低いのではない。エイシンフラッシュの6歳世代や、オルフェーヴルの5歳世代や、さらにはジェンティルドンナの4歳世代がみんな見事にがんばる素晴らしい世代として存在するから、簡単に若い3歳馬に負けないのである。凱旋門賞で世界の世代トップと互角であることを示したキズナ(父ディープインパクト)や、同様のランクを示すように菊花賞を圧勝したエピファネイアが代表する世代が弱いなどとは、もういえない。メイショウマンボ、ロゴタイプ……もいる。少なくとも、この世代のトップはみんな納得のレベルにあることを示したのである。

 レース検討で種牡馬シンボリクリスエスの特性をちょっと考えたが、それは、これ以上はない繁殖牝馬を相手にするディープインパクトや、素晴らしい総合能力を伝えるキングカメハメハに一歩二歩譲るかもしれないが、こと3歳クラシックに限れば、父シンボリクリスエスと同様、成長のテンポがゆったりカーブを描くことが珍しくない。だから、春のクラシックでちょっと不振はやむをえないことが判明したともいえる。ユールシンギング(父シンボリクリスエス)は案外だったが、母の父にシンボリクリスエスをもつケイアイチョウサンが5着に健闘した。いやいや、それは父ステイゴールドのスタミナと勝負強さだろうという見方は、その方が正しいけれど…。

 逃げ馬バンデの作ったレース全体の流れは、1000mずつにして「61秒2-63秒0-61秒0」=3分05秒2。最初の1ハロンと中盤に2回、13秒0があるだけ。あとはすべてハロン「11秒7-12秒8」。この日の馬場を考えると、立派な演出だった。ちょっとだけ参加したネコタイショウは、中盤でバンデがペースを落とそうとすると、これをつついて許さず中身の濃いレースにし、ちゃんと補助役を演じている。厳しい中身のGIで力尽きたのは仕方がない。

 長距離タイプが遅咲きとはかぎらないが、まだまだ成長の途上と思えるバンデは、途中でちょっとネコタイショウにつつかれ、最後の直線に向くとすぐエピファネイアにかわされたが、自身の3000m3分06秒0は、不良発表の馬場で「61秒2-63秒0-61秒8」。逃げ馬のこういう記録は侮れない。スローの2400mの兵庫特別では、上がり33秒5-11秒5で6馬身差の独走を決めている。先手を取れないときにもろいタイプであって、それはかまわない。いつか、いい仕事をしてくれること必至である。

 サトノノブレス(父ディープインパクト)は、ちょっと甘くなった神戸新聞杯のレースを教訓に、流れが落ち着くと一旦先行タイプの直後まで下げる考え抜いたレース運び。4コーナーまで外に出さないコース取りは、コース選択の難しい渋馬場で岩田騎手が再三用いる「内ラチ沿いぴったり」追走作戦。スタミナ勝負になった函館で多用している。エピファネイアにマトをしぼっていたと思われるから、負けはしたがこの2着は岩田騎手も納得だろう。1周目の1コーナーではエピファネイアの直後に取りついた。そのままマークして離れず追走かと思えたが、それだと現時点での能力差がストレートに出て、2着は危なかったかもしれない。さかのぼるファミリーはベガの一族と同じ牝系。ビッグレース向きの底力が最後の直線で生きた。

 ラストインパクト(父ディープインパクト)は、ナリタブライアンが代表するパシフィカスから発展するファミリーの出身。正攻法で流れに乗り、懸命に粘った。一連のレース内容から、持てる力はフルに発揮しただろう。5着ケイアイチョウサンは、重馬場もこなせるだろうし、スタミナもあるが、全体にパンチ不足か。動きたいところで狭い場所をこじあけて進出できる迫力は乏しい。位置取りは違ったが、ラストインパクトとともに現時点での能力は出し切ったと思える。

 2番人気になった武豊騎手にチェンジしたマジェスティハーツ(父ハーツクライ)は、トライアルの爆発的な切れ味に魅力があった。ただ、これは偏見かもしれないが、ここ2-3代は明らかにスプリンターの牝系に、母の父がボストンハーバー(その父カポウティ)。たしかにハーツクライ産駒には違いないが、母エアラホーヤの仔であるのも事実であり、レース後に武豊騎手が「1600-2000m向きかも……」と振り返ったとされるが、前回の2400mから距離が3000mになってマイナスがあって当然なのに、プラスを求めるのは酷だった。とくにこの馬場ではスタミナ不安は致命的だったろう。あの爆発力は2000m級で生かしたい。

 フルーキー(父リダウツチョイス、その父デインヒル)は、さまざまに距離適性の幅を広げるダンチヒ系の中でもとくに枝を広げる主流ラインの新星。まして、母方は名牝系にサンデーサイレンスの配合。ここ2戦のパンチあふれるストライドも破壊力十分だったが、この日の返し馬の感じからすると、前肢を放り出すようにも見えたフットワークは重馬場巧者とはほど遠かった。それで、1800mまでの経験しかない同馬は正攻法に近いレース運びで6着。ここは完敗でも、適距離と思える1600-2000mならたちまちオープン馬と思える。

 ユールシンギングはまったく流れに乗れず、進出しかけてたちまち失速は、「緩い馬場でのめっていた…北村宏司騎手」。渋馬場が予想以上に応えたのだろう。

 同じ関東のダービーフィズ(父ジャングルポケット)は素晴らしい状態。かつ好馬体。ただ、マンハッタンカフェの一族にはちがいないが、アプリコットフィズ(1600mを中心に4勝)の全弟でもあり、どういうふうに本格化するのかその評価が難しかった。私見だが、アプリコットフィズの全弟である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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