エイシンフラッシュのここまでの快走は、日本ダービーでの上がり32秒7。4歳時の有馬記念2着の際の上がり33秒6。昨年制した天皇賞(秋)の上がり33秒1。そして前回の毎日王冠の上がり32秒8。猛烈に速い上がりタイムを記録したときに激走するケースがほとんどである。
スローペースを楽に追走できると、爆発する末脚が生きる。かかり気味に行ったり、ハイペースを流れにのって追走すると、たとえば11年の天皇賞(秋)の6着が象徴するように、その結果はだいたい芳しくない。
大きな理由は、ジャパンCで欧州のトップホースが苦戦するのと同じで、欧州血脈が濃いからだと思われる。ヨーロッパのビッグレースの多くは、スローからの追い比べになる。スローだから、時には驚くような高速フィニッシュも珍しくない。洋芝のパワーと底力勝負ではあっても、最後は爆発力がなければ勝つことはできない。
エイシンフラッシュはもう十分に日本化しているが、欧州タイプの本質は変わらない。父キングズベストは、Mr.プロスペクター系ではあっても、その母方がドイツ血脈。母ムーンレディは、その父がジャパンCに来たドイツのプラティニであるように、典型的なドイツ血脈。だから、エイシンフラッシュはスローからの追い比べは合っているが、全体に流れの緩まないスピードレースを追走してしまうと、リズムが崩れ、最後に伸びるスタミナを削がれてしまうのである。
昨年、シルポートがぶんぶん飛ばし、(57秒3-60秒0)=1分57秒3。あんな高速決着になった全体にハイペースの天皇賞(秋)を鮮やかに差し切ったではないか、と疑問が出そうだが、ここが難しいところ。テン乗りになったM.デムーロ騎手は、まるでエイシンフラッシュを知り尽くしていたかのように、先行グループなどまったく無視。タメて直線に向くまで差を詰める気配もなく、後方から最内に入れ上がり33秒1で一気に突き抜けてみせたのである。
記録を振り帰ると、エイシンフラッシュの後半1000mは推定[56秒5-44秒7-33秒1]である。誤差はコンマ1-2か。確かにレース全体は厳しいハイペースかもしれないが、エイシンフラッシュ(デムーロ騎手)の前半1000mは推定60秒8前後の計算になる。シルポート以下、ハイペースで展開した馬はいる。2着に粘った形の人気のフェノーメノや、5着カレンブラックヒルなど。しかし、デムーロ騎手は意識的にタメにタメ、エイシンフラッシュ自身は、前後半の差が実に(4秒以上)にも達する超のつくスローペースバランスから、高速上がりの競馬を展開させたのである。後半を56秒台でまとめるスピード能力が秘めらているなら、そこまでタメなくてもいいように思えるが、現実に1分57秒3で乗り切って勝ったのだから、あの戦法は素晴らしいというしかない。
今年、間違いなく武豊騎手のトウケイヘイローは行く。この相手に(59秒0-59秒0)=1分58秒0をペースバランスの目安とするような流れを作っては、武豊騎手はまるで勝ち目はないと考えている気がする。そんな逃げは、ただのペースメーカーにすぎず、ジェンティルドンナばかりか、他の人気上位馬にとっても格好の目標になるだけである。とくに、ジェンティルドンナ(岩田騎手)は、トウケイヘイローが平均以上のペースで行ってくれるとありがたい。休み明けだと案外、反応が鈍いことがあるジェンティルドンナは、トウケイヘイローが少し厳しいペースを演出してくれると、こんな簡単なレースはない。武豊騎手さえ捕らえれば、勝ったも同然である。
今年、かなりのペースで行っているはずの逃げ馬はシルポートではない。武豊騎手であり、それを格好の目標とするのが岩田騎手と思える。ミルコは位置どりではなく、昨年をベースに考えるなら、前半1000mを60秒台前半くらいを目安に追走したい。デムーロ騎手の体内時計の秒針で。ほとんど良馬場に近いくらい回復しそうである。ミルコ・デムーロは勝ち気にはやらず、相手はまずバテることはないだろうジェンティルドンナではあるが、我慢してタメることができるだろうか。それとも、多少とも渋った状態が残る馬場なら、それこそ欧州血脈のエイシンフラッシュらしい底力を生かすような乗り方をするのだろうか。
最初から、吹っ切れてトウケイヘイローに騎乗できるのは武豊騎手。行く一手である。全然、難しい競馬を考えなくても良さそうなのはジェンティルドンナの岩田騎手。それをマークできるようでいて、一番難しいエイシンフラッシュに乗るのがデムーロ騎手。そういう、ミルコ・デムーロに肩入れするように期待したい。