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メイショウ・松本好雄オーナー(1)『涙で言葉にならない 幸四郎には苦労をかけた』

  • 2013年12月09日(月) 12時00分
おじゃ馬します!
今月は、名門馬主“メイショウ”の松本好雄オーナーをゲストにお招きします。メイショウマンボがオークス、秋華賞、エリザベス女王杯とGI3勝の大活躍。幼い時から可愛がってきた武幸四郎騎手での勝利は、何物にも代えがたい喜びだったと言います。「人がいて 馬がいて そしてまた人がいる」という松本オーナーの言葉を物語るような、数々のエピソード。さらには、声を大にして言いたい競馬界への提言とは―。(聞き手:赤見千尋)


◆エリ女の当日、不安ばかりが頭をよぎった

赤見 :メイショウマンボがGI3勝の大活躍。おめでとうございます。エリザベス女王杯は初の古馬との対戦でしたけれども、いかがでしたか?

松本 :いや本当、古馬に敵うのかどうか。結構、人気していましたしね。(1番人気の)ヴィルシーナって、ジェンティルドンナと非常に良い勝負をしているから、もうすごいんじゃないかなという気がしていましたね。そういう馬に勝負になるのかどうか、未知の部分がずいぶんありました。

赤見 :パドックで実際に見た時はどんな印象でしたか?

松本 :見た時はね、ヴィルシーナだとか、それからデニムアンドルビーですとか、他の馬がずいぶんと良く見えて。皆で「他の馬が良く見えるなぁ」って言っていたんですよ。

赤見 :マンボよりもですか?!

松本 :うん、マンボよりも。マンボってね、あんまり見た目は良くないんだわ(笑)。パドックで目の前を通るでしょう。後ろを向いたら、やっぱりトモの格好がそんなに。張ってるという、そんな感じじゃないんだよね。

赤見 :じゃあパドックでは、不安なお気持ちもありつつ。

松本 :まぁ、雨も降っていたしね。以前は「雨は得意な方ではないか」というふうに、皆さん言っていたんですよ。でも、ローズSは負けましたからね。

赤見 :また当日は、直前になって強い雨が降ってきましたし。いろいろ心配が重なったんですね。

松本 :うん。期待をして来ると、そういう心配がある。それに、枠順も内枠だと。普通ならいいんだろうけど、やっぱり枠順も心配になってくるな、とかね。それから、GIを2連勝しているから、3連勝っていうのはほとんど考えられないよなという、そういうマイナス面をずっと思っていましたね。

赤見 :そんな心配を吹き飛ばすような、あの完勝ぶりでした。

松本 :本当にすごいなと思いましたね。レースが完璧でした。やっぱり幸四郎が、最高の騎乗をしたんじゃないかなと、僕は思いますけどね。1コーナーの時にちょっとかかっていて、内枠をうまく利用して、向正面に行った時には非常に良いポジションだったね。先頭集団の後ろに付けて、それでヴィルシーナ以下が後ろにいてという。

赤見 :4コーナーで人気のヴィルシーナを内に入れながら、外から差し切って。全く危なげのないレースでしたね。

松本 :いや、すごかったね。幸四郎のお母さんが来られていましてね。幸四郎の大きなレースを見るのは初めてだっていうわけですよ。だから僕ら、一緒にレースを見たの。余計にそういうプレッシャーもあってね。

赤見 :それは喜びもひとしおですね。当日はマンボの写真が入ったスーツを着ていらっしゃったそうですね。新聞で拝見しました。

松本 :そうそう。新聞記者が「何かゲンは担ぎますか?」って言うから、「いや、そんなにゲンは担がないけど、秋華賞の時に作った背広を着て来て。裏地にマンボのグラビアが付いているやつで」ということで。まあ僕は、結構そういうのを。今日も、ほら。

おじゃ馬します!

赤見 :うわぁ。メイショウサムソン!

松本 :ユタカね。天皇賞・秋。こっちが石橋(守)、天皇賞・春。年寄が楽しんでますねん(笑)。

赤見 :左右にユタカさんと石橋さん、すごい。きれいですね。素敵だなと思います。

松本 :これで勝ったので、次もまた着ていかなあかんね(笑)。

◆桜花賞10着…追加登録料を払ってもオークスへ

赤見 :GI3勝の始まりがオークスだったわけですが、桜花賞からオークスに行く時に、追加登録料(200万円)を支払ってオークスへということでしたけれども、あの決断というのはオーナーがされた?

松本 :そうです。変な具合だもんね、桜花賞は登録してオークスに登録しないって。まぁ、飯田明調教師が気を遣ったんだろうね。桜花賞ぐらいは登録しとくか、ぐらいだったんでしょうけど、走り出したらこの馬は、長いところの方がいいなと。

こぶし賞という1600mのレースを勝った時に、喜んで下へ降りて行ったら、調教師が「すみません、すみません」って僕に言っている。何かなと思ったら「オークスの登録をしてないんです」と。「まあまあ先生、フィリーズレビューがあるから、その時に考えたらいいんじゃないですか」って言ったんだけどね。

赤見 :こぶし賞はすごいレースをしましたもんね。あそこで長い距離で走ると確信されて。

松本 :ところがね、長いところがいいって言ってたのが、次の1400mのフィリーズレビュー、川田で行ったんだけれども、あれも強かったからね。だから、短いところも良いし長いところも良いなって。

赤見 :どっちがいいのかという迷いも。ところが、桜花賞でまさかの10着。それでもオークスへという選択をされたんですね。

松本 :桜花賞が終わった時に帰る車の中で、幸四郎から電話がかかって来て。「えらいすみません」って言うから、「いやいや、まあまあ。競馬はしょうがない」って。「オークスはどうされますか?」って言うから、「あんたはどうするの?」って言ったら、「ぜひ行きたいです」と。「じゃあ追加登録して行こうか」って、そう言ったの。「いいんですか?」「ああ。いい、いい。行こう、行こう」って、それで電話で決めたんですよ。

おじゃ馬します!

赤見 :松本オーナーが自分の言葉で決断してくださって、幸四郎さんにしたら、オークスは何としても勝ちたかったという。

松本 :うん。だから勝った時は、お互いに涙でボロボロになってしまって。僕もね、涙が出てというのは、初めてのクラシックだった皐月賞と、このオークスですね。幸四郎の顔を見たら、もう涙が止まらなくなって。

赤見 :お二人で涙されていて、すごく素敵な、感動的なシーンでした。

松本 :僕もあの時は泣き癖がついてね。それからオークスのお祝いの会をやって、飯田調教師の顔を見たら、また涙が…。「年行ったな」と思ったな。もう涙が出て来てしょうがないんだ。言葉にならない。

◆幸四郎、苦しかったやろうな

赤見 :どんな思いが溢れてだったんですか?

松本 :いやまぁ、幸四郎の気持ちを思ってね。重圧というか、苦しかったやろうなと。それがやっと勝利に結びついて良かったなという。自分もものすごい嬉しいんだけど、幸四郎の気持ちはもっとすごいんじゃないかなと。苦労をかけたなという感じで、涙が出て来たのね。

赤見 :幸四郎さんは高い技術があるけれど、なかなか成績に表れない時期もあって。

松本 :まぁ、ちょっとヤンチャな面があるからね。お兄ちゃんみたいに優等生じゃないから。そういうのでやっぱり、良い馬に乗る機会が少ないのは少ないからね。

おじゃ馬します!

赤見 :そういう中で、松本オーナーには本当に昔からお世話になっているんだっておっしゃっていますよね。オーナーにとって、幸四郎さんはどんな存在ですか?

松本 :幸四郎が小さい頃からずっとだからね。お父さんと非常に仲良くしてもらってるから、そういう関係もあって。可愛い自分の息子みたいな気もするんです。えらい相手には失礼なんだけど。ちょうど年もね、自分の子供ぐらいですからね。

赤見 :幸四郎さんと、お付き合いの長い飯田厩舎、そのチームでGIを勝たれたというのが。しかもマンボのお母さん、お祖母さんもメイショウの馬という血統で。すごく感動的な勝利ですね。

松本 :すごいことですよね。これはもうね、競馬が本当に難しい、答えのない、そういうものの証明みたいなことですからね。ディープインパクトの仔が何頭出て、キンカメの仔が何頭出てという中で競走をやって、こういうマイナー血統が3つもGIを勝つんだからね。1個ぐらいならね、まぁまぐれかっていうぐらいでいいんだけど。

赤見 :3つですもんね。3歳でこの活躍、この先がますます楽しみです。(Part2へ続く)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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