◆種牡馬としての素晴らしい未来を感じさせたオルフェーヴルのラストラン 2013年の有馬記念を8馬身差の独走で飾った
オルフェーヴル(父ステイゴールド)は、凱旋門賞2年連続の2着を含め、通算21戦【12-6-1-2】の記録を残して引退した。
オルフェーヴルは、ひょっとして最後の有馬記念が「もっとも強かったのではないか」。そう思わせたところに、オルフェーヴルの素晴らしい未来が広がる可能性がある。
現在の日本のトップサイアーの多くは、競走馬として最後になったレースを勝っている。ディープインパクトも、シンボリクリスエスも、急な引退ではあったがキングカメハメハも現役最後のレースを快勝している。種牡馬ビジネスが優先され、3歳時だけで、あるいは評価が下がりそうになったら4歳の途中でもたちまち競走馬引退の道を選ぶことが多いヨーロッパの名馬と比べると、だいたいは4歳シーズンの最後まで、またオルフェーヴルのように5歳いっぱいまで走り続けることが多い日本のチャンピオンが、少しピークを過ぎたように思わせながら、最後のレースをきっちり勝つというのは大変なことである。最後になってもきちっと能力を出し切ってチャンピオンの座を守ることが、次代に活力をつなげる約束なのかもしれない。
多くのファンは、おそらく最後のレースがもっとも強かったのではないかと思える馬を、ほかにも知っている。7歳暮れの引退レースで、初のGIタイトル(香港ヴァース)を手にしたステイゴールド(父サンデーサイレンス)である。オルフェーヴルは、父ステイゴールドの伝える類まれな生命力をそのまま継承し、さらに次代につなげてくれる可能性がある。
もうひとつ。もっとずっと重要なことは、わたしたちはさまざまなチャンピオンホースを知っている。しかし、残念ながら、名種牡馬になった父より、「明らかに息子の方が優れている」ケースは、めったに知らない。大成功し、世界に広がった馬をあわせると150頭は下らない後継種牡馬群を築き上げたサンデーサイレンスにしても、競走馬として、さらに種牡馬として、明らかに父サンデーサイレンスを上回る産駒はいないに等しい。ゆずってもディープインパクトくらいだろう。それが、わたしたちが知っているサイアーラインであり、父と子の関係である。
でも、オルフェーヴルは、明らかに競走馬として父ステイゴールドを上回るスケールを発揮してみせた。大きく広がる可能性も示している。これは日本の競走馬として大変なことである。
◆夢物語ではない「ステイゴールド系」の確立 さまざまな父系は、その全盛期を過ぎると終息に向かうことは、競馬ファンは教わらなくとも理解している。手にする種牡馬録は、現在の活躍種牡馬を収録するものであって、未来展望の辞典ではない。しかし、次に隆盛を誇るのは、サラブレッドに新種はないから、既存の父系のどこかに息吹きはじめた新芽である。それに気がついて、芽をつむことなく育てるしかない。
たとえば現代のロイヤルチャージャー系は、ときを経てその分枝のヘイルトゥリーズン、ヘイロー系が日本だけでなく世界を席巻する大きな時代を作ったが、実際にはもっと以前に(スピードシンボリのころ)日本も関与した父系である。こういうケースは珍しいことではなく、イギリスのシャーペンアップ、エタン(その父ネイティヴダンサー)の父系も、新しく輸入されるドイツのノヴェリスト(父モンズーン)の父系も、日本でも半世紀も前に手がけたことのある父系である。でも、そのときは新芽が出なかった。
大事に守ったからといって、新しい勢いのある父系に育つなど、世界のどこでもめったにありえないのが生産の世界だが、サンデーサイレンスで世界に影響力をもつ大きな父系を発展させることに成功したいま、その中の「ディープインパクト系」は勢いを失うことなくさらに発展するだろうし、最初、サンデーサイレンスの後継種牡馬群のなかで、必ずしも衆目一致の重要な後継種牡馬とは思われていなかったステイゴールドは、「オルフェーヴル、ドリームジャーニー、ゴールドシップ、フェノーメノ、ナカヤマフェスタ、ナカヤマナイト、オーシャンブルー、シルクメビウス…など」のちょっと特異な活力を思わせる産駒の大活躍により、評価が激変している。
最初、アルコセニョーラや、マイネレーツェルのころはだれも考えてもいなかったが、時間がたつごとにサンデーサイレンスを起点とする有力な分枝「ステイゴールド系」が成立し、このあとどんどん幹を太くするかも知れないのである。
巨大なミスタープロスペクターの父系群も、ノーザンダンサーのそれも、ヘイルトゥリーズンの父系も、主要ラインであればあるほどすでに頂点に達し、やがて終息に向かう時期は遠くないと考えられている。とくにヨーロッパの主流父系は偏りが目立ちすぎている。
サンデーサイレンス系では、ステイゴールドの分枝が明らかに、それも最初から世界のビッグレースに通用する可能性を示している。オルフェーヴル、ナカヤマフェスタの快走により。
「オルフェ」コールに参加したのも、「オルフェーヴルよ、感動をありがとう」も、それは競馬ファンとして何物にも代えがたい経験だが、それで終わっては、ハイセイコー物語や、オグリキャップ伝説の繰り返しに過ぎない。オルフェーヴル(父ステイゴールド)には、このあとに広がって欲しいもっと大きな展望や希望を加えたい。オルフェーヴル、ゴールドシップと時間を共有できたファンは、ひょっとすると後世に大変な記憶を残せるファンかもしれないのである。
伝説のリボーや、ハイペリオンは最初、情けないくらい小さな馬だったと伝えられる。ミスタープロスペクターもスピード系の根幹種牡馬とは思えない目立たない馬体で、ナスルーラは気が強すぎて頭がおかしいとされた時代もあったとされる。ステイゴールドは十分に小さい。オルフェーヴルは池添騎手をファンの前で2度も振り落としている。経歴に不足はない。
サンデーサイレンスの後継種牡馬を、日本は自分たちだけで抱えすぎたという説もある。「父ステイゴールド、母の父メジロマックイーン」は世界に飛び立ちたい。やがて世界の種牡馬録に「サンデーサイレンス→(ステイゴールド系)」のページを作りたい。夢物語でもない。
◆現役を続けるであろう有馬記念組のこれから オルフェーヴルの独走を許してしまった有馬記念組は、オルフェーヴルが最後の引退レースでふだんよりやたらに強すぎたと思えば、そんなに落胆する必要はない。同じ5歳の
ウインバリアシオン(父ハーツクライ)は、あれだけ休んだのだから、まだ実質4歳馬。これから自分の時代を築ける可能性は十分にある。
オルフェーヴルとて滑ったり転んだりしたから、同じステイゴールドの代表産駒で、同じように母の父にメジロマックイーンの血をひく
ゴールドシップは、もっと破天荒な競走成績を残してもだれも驚かない。通算【9-2-1-4】。GI競走4勝。いろいろいわれるが掲示板に載らなかったのは1回だけ。ゴールドシップもまた、情けないレースを山のように重ねた父のステイゴールド50戦【7-12-8-23】より優等生すぎるくらいである。
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