◆期せずして「うまい」「さすがノリ(典)!」の声が上がった記者席
■2014年 京都記念
6番人気の伏兵、
デスペラード(父ネオユニヴァース)=横山典弘騎手の必殺の先行策が決まった。技ありである。一緒に見ていた周囲の記者から、おそらく馬券は外れたと思えるのに、期せずして「うまい」「さすがノリ(典)!」の声が上がった。
もちろん、勝ったのはタフな6歳デスペラードではあるが、ジェンティルドンナ、トーセンラー相手の押し切り勝ちは、ベテラン横山典弘騎手(45)の絶妙の騎乗によるところ大である。
「(デスペラードでは)、行けたら行こうという気持ちをずっと持っていた。きょうは思い通りのレースができた」という。しかし、デスペラードには軽快なスピードがない。まして気難しいから、気分を損ねるような疎通を欠く指示を出しては凡走の危険が生じる。ここまでの7勝はすべて、前半は後方でムキにならないように追走しての追い込みか、差し切りである。
みんなが苦しくなったステイヤーズSを抜け出したスタミナはあるが、この相手の2200mで先手主張はさすがに予想外だった。雪かきのあとの馬場状態、相手の仕上がり状態、それぞれの出方、脚質…。みんな読んだうえでの、「今回は先に行ける」の判断がデスペラードの能力全開につながったのである。奇策の先手ではないから、レース全体の流れは、
「前半63秒7-(12秒9)-後半59秒4」=2分16秒0
離して飛ばし、他馬を幻惑したわけではない。前半はごく平凡なスローペースである。最初は2番手につけたアンコイルドにしても、少し行きたがる感じで早めに2番手に押し上げたジェンティルドンナにとっても、途中から行きたがって仕方がないから一気にスパートして4コーナーで先頭に立ったトゥザグローリーにも、先頭を奪ったデスペラードは、ほかに行く馬がいないから単にハナに立ったトップ引きのように映った。いつでもかわせるはずの…。
抑え切れない感じでジェンティルドンナが横に並びかけても、意を決したトゥザグローリーが抜き去るように先頭に立っても、横山典(デスペラード)は逃げ込みを図るスパート態勢に入ったとは見せず、(実際には一気にピッチが上げたのに)、抵抗しているように見せない。抜かれかけているのに、それは仕方がないことで、まるでもうあきらめたかのように追う姿勢を隠した。
かわされた逃げ馬なのに、4コーナーを回ってまだ追うのもムチを入れるのも待ったのは、みんなが苦しくなって止まったステイヤーズSで、4コーナーを回ってから猛然と伸び、あっというまに3馬身半も突き抜けた「最後にがんばってもう一度脚を使う」デスペラードの本当の能力を信じていたからである。今回は、いつか「行こうと思った」チャンスがきていたから先行した。もちろん馬場状態からして、上がり33秒台のレースになどならない。鋭さの勝負ではない。なら、ムリなく先行するとき、追い比べでも互角のレースができる。その通りだった。
逃げた馬の差し返しではなく、デスペラードは、この馬場で動いたライバルの脚が最後に少し怪しくなるのを待ち、ゴール前で「差して届いた」とみえたのは錯覚ではないだろう。
58キロの
トーセンラー(父ディープインパクト)は、昨年の後半から大幅にパワーアップしている。それまでがちょっとひよわい印象もある切れ味のトーセンラーだった。3歳秋のセントライト記念など428キロである。今回の474キロの馬体は余裕残しのような印象を与えるが、もともと腹が出ているかのようにみせる体型であり、いまの体つきが完成期と思える。
この馬場と、ジェンティルドンナを意識し、いつもより少し早めの中位追走。京都の下り坂を使ってムリのないスパート。芝のいい外に回って伸び、一度はデスペラードをかわしたようにみえたが、トーセンラーの脚が鈍ったのではなく、相手がこの馬より前にいて同じように伸びたのである。両馬の上がり3ハロンの差は0秒1だけである。春の大目標は安田記念と伝えられる。マイルチャンピオンシップ当時よりパワフルに、マイラー体型になった。最有力馬の1頭だろう。
◆約2か月より長い休み明けはこれで7戦1勝のジェンティルドンナ 1番人気の
ジェンティルドンナ(父ディープインパクト)の結果をどうとらえるか、さまざまに見方は分かれそうである。レース展望で、今回に限っては、ジェンティルドンナにかなり死角があるのではないかとした。ジェンティルドンナ自身(陣営)がその死角をみんな出してしまっただけで、そんなに心配する必要はないのではないかと思いたい。
約2か月より長い休み明けは、新馬を入れると、これで7戦1勝。それに該当しない短い間隔でのレースは[7-0-0-0]。いつものジェンティルドンナである。
それにしても6着は負け過ぎではないかというなら、56キロで休み明けだった昨年の宝塚記念は「0秒6」差の完敗であり、同じく56キロで休み明けだった昨秋の天皇賞も「0秒7」差の大敗だった。同様に56キロで休み明けの今回も「0秒5」差の完敗。いつものジェンティルドンナである。0秒5差の6着と、秋の天皇賞の0秒7差の2着は、馬券を離れれば完敗の度合は同じである。もともと休養明けは良くないうえに、ドバイに行く前の厳寒期の休み明けで、完調であるわけもない。
ただ、やけにふっくら良く見せて、ここまで体重変化のなかった牝馬なのに自己最高体重。ここは問題。研ぎ澄まされた状態ではないジェンティルドンナが負けるのはいい。しかし、では次には好調時のジェンティルドンナにまた戻れるのか。だれにも分からない。
昨2013年は、4戦1勝。ジャパンC連覇はすばらしい偉業だが、あのムーアが名誉をかけて追いまくったのに3歳デニムアンドルビーとハナ差。オルフェーヴルをはじきとばしたジェンティルドンナとはもう全然違っていたではないか。そういう見方が間違っているとはいえなくなったのはたしかである。
3着
アンコイルド、
ラキシス4着、5着
ヒットザターゲットは、それぞれ健闘し、みんな期待通りの成績を残した。かなり惜しい内容だった馬もいる。これからに期待したい。
それはジェンティルドンナに先着したからではない。デスペラード、トーセンラーの内容は、時計は平凡でも、それを上回る中身の濃いレースだった可能性が高いからである。