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兄と比べても完成度が高い/弥生賞

  • 2014年03月10日(月) 18時00分


◆1、2着馬は互角の印象

■2014年 弥生賞

2014年 弥生賞 映像

 トゥザワールド(父キングカメハメハ、母トゥザヴィクトリー)が、中位追走から早めのスパートをかけて抜け出し、少し遅れて追い込んだワンアンドオンリー(父ハーツクライ、母ヴァーチェ)の追撃をハナ差しのぎ切った。2000m2分01秒4。これでこの2頭、本番の「皐月賞」4月20日に向けて視界良好となった。

 トゥザワールドは、日経新春杯など8勝を記録する全兄トゥザグローリーが3歳クラシックではまだ開花しなかったこと(皐月賞不出、ダービー7着)。また、母トゥザヴィクトリー(父サンデーサイレンス)もエリザベス女王杯など6勝もしながら、クラシックではあと一歩の詰めを欠くようなところがあったこと(桜花賞3着、オークス2着)。さらには、その全弟サイレントディールもシンザン記念など7勝もしながら、3歳クラシックではもう一歩(皐月賞6着、ダービー4着)だったことなど、豊かな才能を秘めながら3歳クラシックではちょっと足りない一族のイメージが重なっていたが、上のトゥザグローリーと比べるとずっと完成度が高いように映った。レースセンスでも一枚上回り、身のこなしもシャープである。今年は、有力候補がかなり限られているのではないか。とりまく条件にも恵まれている可能性がある。

 グレード制が導入された1984年以降、過去30年、最重要トライアルのひとつとされるこの弥生賞の勝ち馬は、皐月賞で【5-2-7-12】(不出走4)。勝率.192。勝率2割未満ではとても直結の好成績とはいえず、あくまで一歩リードに過ぎないが、これが日本ダービーになると【6-4-2-9】(不出走9)。もっと好走例が多くなることになっている。自在のスピード能力をフルに生かしたい。コンビの川田将雅騎手には、ハープスターがいる。桜花賞でハープスターが期待通りの結果を残すとき、翌週の皐月賞に大きなプラス要素が加わることだろう。

 2000mの勝ち時計2分01秒4(前後半61秒2-60秒2)は、芝状態の変化が大きい時期だけになんともいえないが、最近10年間では、いい意味でごく標準と思える。

 春の芝コンディションは、週を追うごとに芝の根が張って良くなることが多い。この日、8レースの4歳上500万条件では、4歳牡馬マイネルミラノ(父ステイゴールド)が2分01秒1(60秒8-60秒3)で抜け出している。これはレース全体の流れの差もあり、4馬身差の独走を決めたマイネルミラノがあまりに優秀すぎたためと思われるが、トゥザワールド、ワンアンドオンリーの上がり「35秒7、35秒5」に対し、もっと速い流れを追走したマイネルミラノのそれは「35秒3」である。だいたいこの時期、3歳クラシックで勝ち負けのレベルは、古馬1000万級がおおよその目安とされるから、突然、走りすぎたとはいえ500万下のマイネルミラノに完全に見劣ったあたりが、勝ち時計は「なんともいえない」という意味である。

 印象度とすると、ハナ差(4センチ)だけ及ばなかった2着ワンアンドオンリーは勝ったトゥザワールドとほとんど互角か。スパート態勢に入った4コーナーで、外にいたエアアンセム(父シンボリクリスエス)とちょっと交錯しかかるようになって引いた分だけ、トゥザワールドに及ばなかったのではないかと思える。強靭なバネを感じさせるトモの送りが光る、鋭いタイプ。

 横山典弘騎手が、本馬場入場後にみせる「これから走るコースを改めて納得させ、意識的にスタンドに近い外ラチ沿いに誘導する」返し馬の儀式ができなかったあたり、ちょっとカッカしすぎていた面はあったが、初の中山コースはまったく問題なかった。祖母サンタムール(父ダンチヒ)は、2002年の皐月賞馬ノーリーズン(父ブライアンズタイム)、2004年のシンザン記念を制したグレイトジャーニー(父サンデーサイレンス)などの半姉。ヤマニンパラダイス、最近ではダークシャドウなどが代表する著名牝系の出身であり、春のビッグレース向きの一族といえる。

 ただ、わずかハナ差とはいえ弥生賞で負けたのは事実。ワンアンドオンリーのような弥生賞2着馬は本番の皐月賞【4-1-4-18】(不出走3)。勝率.148。これは勝ち馬にちょっと見劣るだけだからいいが、橋口調教師悲願の日本ダービーでは、その成績【1-1-2-13】(不出走13)。過去にはかなり心配になる数字が残っている。

◆アデイインザライフは本番までに変わる可能性あり、エアアンセムとキングズオブザサンはタイムから見ると厳しい

 1勝馬ながら3着で皐月賞の出走権を得たアデイインザライフ(父ディープインパクト)は、ディープインパクト産駒にしては珍しい540キロを超す巨漢馬。母の父サクラバクシンオー、祖母の父デインヒルの影響を強く思わせるが、体にゆるい面はまったくない。大型馬がインコースに押し込められる展開はかなり苦しかったと思えるが、最後までバテなかった。1勝馬で皐月賞の出走権を獲得すると、皐月賞で4着以内に快走しない限り、またダービー出走権をかけたレースに出走しないとならない苦しい立場となったが、今回を含めてまだ4戦しただけ。皐月賞に向けて急速に変わる可能性はある。

 4着エアアンセムの条件賞金は1150万円。この賞金だと皐月賞出走は苦しいこともあるが、男馬に重賞で賞金を獲得した馬が少ない今春は、皐月賞挑戦はほぼ可能か。凡走した前回よりレース内容は良かったと思えるが、中山2000mに3戦連続出走して「2分02秒0→2分01秒9→2分01秒8」。着順、ペース、相手を問わず、毎回判で押したようなタイムにとどまっているのは、成長が求められるこの時期だけに誉められない。

 5着キングズオブザサン(父チチカステナンゴ)は、エアアンセムと同じ視点に立つと、「2分00秒8→2分01秒4→2分02秒1」。ペース、芝コンディションによるものだろうが、3戦連続して大野拓弥騎手が乗って、歓迎したくない数字が浮かび上がってしまった。本番ではM.デムーロ騎乗の予定とされるが、それだけで激変するだろうか。

 12月のラジオNIKKEI杯2歳Sでワンアンドオンリーと0秒2差の接戦だったアズマシャトル(父ゼンノロブロイ)は、488キロながら当日の馬体が小さく映ったあたり、ひと息入った今回は、初の遠征が応えたか、体調一歩だったかもしれない。

 きさらぎ賞を0秒2差で3着のエイシンエルヴィン(父シャマーダル)は、もう少しいいレースに持ち込めると思えたが案外の失速。好位追走作戦はこの流れだから一応正解だろうが、なんとなく先行しただけにとどまった感がある。控えたほうがいいのだろうか。

 若駒Sのトゥザワールドも、ラジオNIKKEI杯のワンアンドオンリーも、京成杯のアデイインザライフも、ほぼ考えられていた通りの結果を残した中で、きさらぎ賞3着のこの馬だけが凡走したのは残念。さすがにレースレベルを反映したなどということはないはずである。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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