目の病魔に侵され、騎手として苦境に立たされた上村洋行。そんな時に救いの手を差し伸べたのが、橋口調教師だった。上村のインタビューでは、その橋口調教師への思いがあふれたという。当時の様子、そして共に掴んだGI制覇を、今改めて、橋口調教師に伺った。(取材・文:井内利彰)
2004年に目の手術を行った上村騎手。復帰後の乗り鞍確保に行き詰っていた時、突然、橋口調教師から、2005年高松宮記念でのクリノワールドの騎乗依頼をいただいたという。デビューからこの高松宮記念までに、橋口厩舎に騎乗した回数は3回。最後の騎乗は1998年3月のズーン(8着)だったが、それから数年も経ったタイミングで騎乗依頼した理由とは?
「騎乗機会こそありませんでしたが、いつもスタートが上手なジョッキーだという印象がありましたからね。特にこれといった理由があったわけではなく、軽い気持ちで声を掛けただけですよ。クリノワールドは1600万下を勝ったばかりの身でしたが、そつのないレースをしてくれて、9着と健闘しました。しっかり乗ってくれたと思います」
師の上村騎手に対する印象や、騎手としての評価は?
「騎乗機会さえあれば、しっかり結果を出すジョッキーだろうという印象でした。そう思っていなければ、クリノワールドの騎乗依頼もしていませんしね。それとデビュー当時よりも人間的に成長したと感じる部分もあったので、それが馬乗りにも活きているのではないかと思ったのも、起用した一因かも知れません」
クリノワールド以降も上村騎手の橋口厩舎への騎乗機会は増えていく
「上村騎手が『これから調教にも乗せてください』と志願してきたので、断る理由もなく、調教を手伝ってもらう形から、レースでの騎乗数が自然と増えていきました」
そして、スリープレスナイトとの出会い。2007年5月13日の3歳500万下で、上村騎手が初めて手綱を握ることになったが、前走騎乗していた安藤勝己騎手から乗り替わった理由は?
「安藤騎手が騎乗することができなかったので、替わりの騎手ということで、上村騎手に乗ってもらいました。そのレースは逃げ馬をきっちりとマークするような形で快勝でした。その後の1000万下、1600万下と、3連勝してくれたので、巡ってきたチャンスをしっかりとモノにしてくれましたね」
2008年CBC賞の勝利は上村騎手自身、1998年のスワンS(ロイヤルスズカ)以来、実に10年ぶりの重賞勝利。師にこの勝利を振り返ってもらった。
「(前走の)栗東Sを勝った後、ダートの短い距離を使うにはレース間隔があいてしまうので、番組を思案していました。そんな時、(前々走の)京葉S(1着)の時に騎乗した横山典弘騎手が『この馬、芝でも十分走れますよ』と進言してくれたことを思い出して、芝を使ってみようと思ったんです。レースは3コーナーすぎで『勝ったかな』という手応え。人馬とも、ここでもきっちり結果を出してくれましたね」
続く北九州記念で4連勝。そして、悲願のGI制覇となったスプリンターズS。
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