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【騎手引退】上村洋行 22年間の真実(3)―神戸新聞杯後の別離、そして、永遠の別れ

  • 2014年03月13日(木) 18時00分
上村洋行元騎手

◆「僕の立場でサイレンスを守りたかった」

 秋は天皇賞に照準を定め、神戸新聞杯から始動。互角のスタートから持ち前のスピードでハナに立つと、終始セーフティリードを保ったまま直線へ。直線半ばでは、後続はまだ4、5馬身後方。「もう大丈夫」。勝利を確信した上村は、ほんの一瞬、サイレンススズカを追う手を緩めた──。

 ターフビジョンを見て、後ろを確認して、“これだけ離していれば大丈夫”と思った瞬間、南井さん(マチカネフクキタル)が外から飛んできて…。後悔…うん、まぁそう言えるかもしれません。ファンの方からしてみれば、お金を賭けているわけですからね。あそこで勝っていれば、乗り替わることもなかったでしょうし。ただ…、ダービーがあんなレースになってしまい、一度立て直しての神戸新聞杯でしたから、天皇賞に向けてなるべく楽に勝たせてあげたかった。

 先生はもちろん大激怒です。勝負事ですからね、負けたらそれはジョッキーの責任ですから。ましてや、ああいう乗り方をしてしまったわけですから、下ろされても仕方がないと思いました。でもやっぱり悔しくて…。その日のうちに(滞在していた)札幌に戻って、あの日の夜はずっと泣いていましたね。

 ゴールまでビッシリ追っていたら、間違いなく勝っていたかというと、それは誰にもわからない。また、ビッシリ追っての2着だったら乗り替わりはなかったかといえば、それもまた、今となっては答えを見つけることはできない。ただ、上村の言う通り「勝っていたら、乗り替わることもなかったかもしれない」という可能性を残す以上、上村の騎手人生を変えた一戦だったのは確かだ。しかし、「騎手人生、最大の後悔か?」との問いに、上村はすぐには首を縦には振らない。それは、後悔のなかにサイレンススズカに対する自負があるからだ。

 僕は今でもサイレンスのことを誰よりもわかっていると思っています。そして、その自信もあります。サイレンスが持っていたポテンシャルの高さや、繊細さ、そして無限大に思えた明るい未来。それゆえに、人は馬に期待し、結果的に様々な要求をすることになります。もちろん馬は生き物なので、時としてそれが負担になる場合もあるのではないかと僕は思うんです。あのサイレンススズカとて、それは同じです。そういった人間側の要求が、精神的にあの馬を追い詰めていく結果になってしまうかもれない…。そう感じていた僕は、僕の立場でサイレンスを守りたかったんだと思います。

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