◆凱旋門賞に向かう2頭とエピファネイアがいる大阪杯
私は、自分たちの主義主張を訴えるため天下の往来を占拠するデモなどを毛嫌いしている。もちろん、ルールにのっとり、整然とやっているものは別だ。が、いつだったか、デモの主催者が、「国会議事堂周辺を人で埋めつくしましょう」とネットで呼びかけているのを見たときは、自分が国会図書館でよく調べ物をすることもあって、非常に迷惑に感じた。あれでは、ストなどと一緒で、
――おれたちの言うことを聞かないと困らせるぞ。
と言っているようなものではないか。デモというのは、困る第三者が出てきて初めて効力を発揮する、というものではないはずだ。
誤解のないよう加えておくが、私は、デモそのものではなく、「天下の往来を自分の都合で占拠するような行為」が「嫌いだ」と言っているだけだ。「やるな」と言うつもりはないし、言える立場にもない。
ただ、先述した主催者にはこう言いたくなった。
――あんたみたいな考えなら、よそでやってくれ。
逆に、先週のドバイデューティフリーに、ジャスタウェイとロゴタイプ、トウケイヘイローが出ることを知ったときは、
――この3頭が出るなら、ここ(日本)でやってくれよ。
と、言いたくなった。
しかし、ジャスタウェイがぶっちぎるシーンを見て、
――やっぱり、これはありだよな。
と思った。以前から言っているように、私は、海外のビッグレースを勝つには、「そのレースを日本のレースにしてしまう」ことが最も効果的だと思っている。たんに本命視される馬がいる、というだけではなく、レースをつくる馬、つまり逃げ馬も強い日本馬だとなおいい。今回がまさにそれで、しかも鞍上が、世界中の関係者で知らぬ者のない「ユタカ・タケ」なら、みな、
――タケを好きに逃がすな。
とマークする。
もちろん、勝ったのはジャスタウェイが強かったからなのだが、
――同じことを凱旋門賞でやったらどうなるのかなあ。
そう考えたと同時に、
――このレース、日本でやったとしても同じような結果になったんじゃないかな。
と思った。8頭の日本馬がドバイ入りした今回は、「アウェー感」がずいぶん薄れ、砂漠の夜のレースを「ホーム」に近づけることに成功したのではないか。
ということで、凱旋門賞である。
ディープインパクトが参戦した2006年ごろから、凱旋門賞当日のロンシャン競馬場は、ずいぶん「アウェー感」がなくなり、一部の馬券売場などは完全に「日本化」されるようになった。
しかし、正直、あの日、大勢の日本人ファンが「開門ダッシュ」し、さらに、お土産用にレーシングプログラムをごっそり持って行くシーンを見て、
――これはやりすぎなんじゃないか。
と思った。
門の内側には、客を迎えるような形で数頭の騎兵がいたのだが、日本人のダッシュに馬が驚いて暴れ出し、一歩間違えれば事故になりかねない状況だった。
また、レープロにしても、ひとりで何部も持って行ったら、あとから入場した客には行きわたらなくなるだろう。
もちろん、日本のファンに悪意があったわけではない。このレースに大きな価値を見いだし、ずっと楽しみにしていたからこそダッシュし、レープロをわしづかみにしてしまった……ということは、同じ日本人としてよくわかっただけに、複雑だった。
するとすると、である。
主催者のフランスギャロは、日本人ファンの開門ダッシュが見込まれるときは、騎兵隊を出さなくなった。ダッシュをやめてもらう方向ではなく、ダッシュされても大丈夫なよう備えたのである。
そして、これは去年からだと思うが、レープロを有料にした。ごそっと持って行かれたら困るが、ごそっと買って行かれるぶんには大歓迎だろう。
で、決め手は、先月中旬に行われたフランスギャロの年間表彰式である。日本の競馬界全体を指す「JAPAN RACING」が、長年にわたって凱旋門賞に参戦するなどしてそのステイタスを高めながら活躍したことが評価され、国際賞を受賞した。
――あとは、どうぞ勝ってください。
と言われたようなものだ。
去年の凱旋門賞の翌日行われたパリ国際競馬会議で、ギャロの出席者が、
「今年もフランスの馬が凱旋門賞を勝つことができてよかったです」
と苦笑していた。言外には、
――いやあ、今年こそ、ヨーロッパ調教馬以外の馬、つまり日本の馬に勝たれる覚悟をしていましたよ。
というニュアンスがあった。
――歓迎されているのだから、喜んでロンシャンに行きましょう。
歴史的瞬間の目撃者に、やっぱり、私もなりたいと思う。
今週の大阪杯に、そこに向かうであろう2頭、キズナとメイショウマンボが出場する。エピファネイアもいる。GIに格上げしてもいいんじゃないかと思うほどの超好メンバーである。
追い切りに訪れた報道陣がGI級だったというから、レース当日の入場者数もそうなるだろうし、何より、レースそのものが、超GI級の争いになることに期待したい。