◆思い出す野平祐二さんの言葉
勝負には勝ち負けのほかに、勝ち方負け方というその内容が大きな問題となる。キズナの勝利は、先行馬が粘った展開だっただけに際立った。最後方から大外一気の差し切り、さすがダービー馬と感じさせた。誰しもが認めた強さ、武豊騎手が言うように日本のエースという言葉が現実味を帯びてくる。
仕事社会でも同じことが言える。ただ成果をあげさえすればいいのではない。他の迷惑をかえりみず、遮二無二に進むだけでは、その仕事は社会的意義はない。いかに正しい方法で成果をあげるか、そこに価値があるし、めざすのはそこだ。つまりは、どちらも世の中全般が広く認めているかどうかにつきる。
前年のダービー馬がこの大阪杯から始動して勝利したケースは、最近ではネオユニヴァースとメイショウサムソンがある。キズナがこれらを超える存在になるにはどうであるかは明白だ。体重が増えパワーアップしたとなれば、その夢も、夢ではなくなる。日本では負けない、それが現実となれば、秋にはさらに大きな夢が待っている。
理想を追い求めたホースマン、野平祐二さんの言葉を思い出す。「夢の実現に向かって努力する姿勢がなければ駄目だ。夢を持てないなら仕事をやめる。日本の馬が外国でどのていどなのか試してみたい。これが私の夢」と。野平さんの外国は、凱旋門賞のことである。あと一歩まで来ていることは承知しているが、競馬は勝ち切ることに意義がある。背負ってきた過去があるから、歴史を伝える必要があり、それを重んじる人がいなければ、語り続けることも無くなってしまう。競馬にある歴史を重んじ語りながら競馬を楽しむ、それには、今年ほどふさわしい年はない。キズナが当面戦わなければならないジャスタウェイにゴールドシップ、ジェンティルドンナ。「理想とはたどりつけるものではなく、見つめるべきものである」となだいなだ氏は書いているが、競馬の世界になら、たどりつく現実も夢ではないから、そこが楽しいのだ。