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重版の裏側で

  • 2014年04月19日(土) 12時00分


◆『決断』と『勝負師』の戦い

 4月16日から書店に並んだ自著『誰も書かなかった武豊 決断』(徳間書店)は、発売前に重版が決まっていた。ネット書店のアマゾンで、予約注文だけで書籍全体の20位台にランク入りするなどしていたからだ。さらに発売翌日に3刷が決まり、週明けにも4刷が決定する見込みだという。

 本書は、私が書き下ろした武騎手の本としては、1997年春に集英社から出した『「武豊」の瞬間』以来17年ぶりのものだ。『瞬間』が発売されたのは4月下旬で、発売日に重版が決まったのだが、2刷が書店に並んだのはゴールデンウィーク明けだった。当時はネット書店などはなかったので、買おうと思ったらリアルの書店に行くしかなかった。しかし、せっかく足を運んでも、2、3店回って品切れだったら、

――もういいや。

 と読者の購買意欲が冷めてしまう。

 そうしたことがないよう、今回は発売日を4月中旬にしてもらった。

 私は今も札幌にいて、母の入院先に行ったり、父のケアマネージャーと面談したり、区役所に病名が変更された母の身障者手帳をとりに行ったり、合間に原稿を書いたりという毎日なので書店に行けていない。が、いろいろな人から聞いたところ、『決断』は、平積みや、「面陳(めんちん)」と呼ばれる、表紙をこちら側に向けて壁面の棚に並べる置き方をされていることが多いようだ。なかには、面陳で、フィギュアスケートの羽生結弦選手の本の横に置かれ、さらに隣には浅田真央ちゃんの本、下にはイチロー選手の本、という並べ方の書店もあるという。

「ゆづ君と仲よく並んでいる書店があるらしいですよー」と武騎手に言ったら、「ホンマに?」と笑っていた。

 今、『決断』のタイアップ企画として、「週刊アサヒ芸能」に武騎手に関する短期集中連載をしている。そのほか、来週月曜発売の「週刊現代」に掲載される武騎手グラビアの原稿を書いたり、「週刊朝日」先週号の「競輪選手出場自粛問題」の記事に武騎手とともにコメントしたり、と、このところ週刊誌の記者や編集者と話す機会が増えている。彼らは例外なく恐ろしいほどの激務をかかえており、私なら半日ももたないと思う。

 うちひとり、「週刊朝日」編集長をつとめる長友佐波子さんは、私と大学時代のクラスメートである。前任の男性編集長がセクハラか何かで更迭になり、クリーンなイメージにするため抜擢されたらしい。大手出版社で伊集院静氏の担当などをしていた、もうひとりのクラスメートのワサやんと3人でまたメシでも食おう、と話したのは確か3月だったと思うのだが、その時点で、彼女が時間をとれるのは5月になってから、と言っていた。避けようのない忙しさなのだろうが、体を壊さない程度に頑張ってほしい。こう書くと、可憐な感じの女性をイメージされるかもしれないが、実際は……いや、これ以上はやめておこう。

 武騎手の本に話題を戻す。昨秋、双葉社から、彼自身の著作である『勝負師の極意』という本が出版された。「週刊大衆」に連載されたコラムをまとめたものだ。

 私が上梓した『決断』は、「大衆」と競合する、徳間書店「週刊アサヒ芸能」の現・旧スタッフが担当している。それもあって、互いにライバル意識があるようで、担当編集者は、早く『勝負師』の発行部数を追い抜きたい、と言っている。双葉社もどうやら、『決断』の動きに合わせて重版をかけたりしているらしい。

 いいことだ。と思うと同時に、

――だったら、最初から『勝負師』の今の部数と同じぐらい刷ってくれればよかったのになあ。

 と思ってしまう。

 公称部数などのややこしい問題があり、ここで実数を言うとマズいことになるかもしれないので黙っておくが、20万部を超えたら、おそらく広告にも「○○部突破!」と打つようになるだろう。

 今回も手前味噌になってしまった。

 本稿を愛読してくれている人はわかっていると思うのだが、ここには、まともに生きていくうえで役に立つことは一切書かれていない。

「お金を効率よく稼ぐ方法」とか「対人関係のトラブル解決法」といった、役に立ちそうことは、わからないから書けない(逆はいくらでも書けますが、ハハハ)。

 しかし、役に立ちそうにないこと、あってもなくてもどうでもよさそうなことで心を豊かにしてこそ人間らしい、と言えるのではないか……というのは、今、とってつけたことだ。

 さて、今週末は皐月賞が行われる。1着から7、8着までが3馬身ぐらいの間に入る大激戦になるのではないか。外国産馬による初勝利を狙う馬がいたり、無敗馬がいたり、華を添える紅一点がいたりと、見どころが多い。

 では、中山競馬場で会いましょう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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