◆より鮮明になったヴィクトリアマイルの特徴 5歳
ヴィルシーナ(父ディープインパクト)の2連覇が達成されたことにより、改めて東京1600mのGI「ヴィクトリアマイル」の特徴が一段と鮮明になった。
まだ9回の歴史しかないのに、ウオッカ(4歳時2着、5歳時1着)、ブエナビスタ(4歳時1着、5歳時2着)、
ホエールキャプチャ(4歳時1着、5歳時2着)ヴィルシーナ(4歳時1着、5歳時1着)…。
2年連続連対した馬がもう4頭も誕生した。ほかにアパパネ(4歳時1着、5歳時5着)、ドナウブルー(4歳時2着、5歳時5着)もいる。世代のエース格が出走してくると、まず崩れないのである。また、ここまでの連対馬18頭は、すべて「4歳馬と5歳馬」に限られる。
「1分32秒3-5」に集中する勝ちタイムが記録されたのは、なんともう6回目であり、ヴィルシーナの1分32秒3は昨年とほぼ同一の時計。ここ2年連続して1分32秒4で連続連対してきたホエールキャプチャは、残念ながら6歳の今年は4着にとどまった。しかし、ホエールキャプチャの走破タイムは、3年連続「1分32秒4」である。
来年もまた、1分32秒4前後のタイムで、4歳馬と5歳馬の1-2着快走があるなどとは限らない。しかし、難しい流れになりがちな同じ東京1600mのNHKマイルC,安田記念とは異なり、毎年だいたい同じように1分32秒3-5で決着することになったこのGIは、同じような時計で、再三リピーターが快走するマイルCSときわめて似た特徴をもつマイルのGIとして定着したことは間違いない。
昨年のこのレースを制したあと、連続して5着以下にとどまる大スランプ状態に陥っていたヴィルシーナ陣営が、前回、凡走覚悟で初の1400mに出走して覚醒をうながそうとした作戦は大正解。素晴らしいGI展望だった。調教は必ずしも4歳春までに示したような鋭い動きではなかったが、闘志を呼び覚ますことに成功した。
ヴィルシーナ(11番人気)の復調気配を知りながら、それでも有力候補に加え切れなかった人びとは、スタート直後のヴィルシーナ(内田博幸騎手)をみて、もう自分の馬券作戦が失敗であることに気がついたはずである。
「行く馬は少ない。
クロフネサプライズか、それともほかの伏兵か。しかし、どのみち速くはならない。平均ペースは間違いない」。たしかにその読みに間違いはなかったが、内田博幸騎手がヴィルシーナを果敢にしごき、あたかも闘魂を注入するかのようにハナを切った瞬間、一転の逃げ切り勝ちはともかく、もうヴィルシーナの快走は約束された。
ヴィルシーナに最初から気合を入れて覚醒させた内田博幸騎手は、ハナを譲る気などなく、まるで自身にも気合を入れているように見えた。ふつうならベスト10キープの騎手ランキングは、軽いスランプで済むだろうが、内田博幸騎手にとって、勝ち星で戸崎圭太騎手の52勝(先週終了時)に大きく離され、今年まだ重賞勝ちなしだった成績はとても自身を許せる成績ではない。
自分にも激しく気合を入れた内田騎手のヴィルシーナは、残された数字は「前半34秒7-46秒2――後半46秒1-34秒3」=1分32秒3。絶妙の平均バランスの逃げ切りだが、ここまで17戦、終始先頭に立って自分でレースを作った押し切り勝ちは一度もない。4コーナーを回って直線に向いたあたりで、ヴィルシーナ(内田博幸騎手)は苦しいように見えた。残り500mの直線、ヴィルシーナはムチが入るたび、激しく追われるたびに、闘志を奮い立たせるように何度も伸びた。逃げ切りというより、「ここで馬群にのみ込まれるわけにはいかなかった」のである。復活勝ちはヴィルシーナであり、同じく内田博幸騎手である。コンビの全力発揮を可能にしたのは激しい気迫の先行策だった。
◆2着メイショウマンボ、3着ストレイトガールも価値のある走り ヴィクトリアマイルでGIホースはめったに凡走しない。
メイショウマンボ(父スズカマンボ)の2着も価値がある。オークス、秋華賞、エリザベス女王杯を制した3歳牝馬チャンピオンは、7着(2秒2差)に沈んだ前回の大阪杯より6キロ増の馬体重が示すように、明らかに上向いていた。でも、古馬牝馬を寄せつけなかったエリザベス女王杯時や、完勝したオークス時に比べると、体全体が小さく映り、動きにもチャンピオン牝馬らしい迫力と落ち着きがなかった。とても完調には及ばないことは陣営も認めている。
それでも底力と総合力を求められる東京コースで凡走はできない。GIホースだからである。内枠有利の芝コンデションを味方に、自身のマイルの持ち時計を2秒6も短縮している。メイショウマンボが5歳になる来年のヴィクトリアマイルでは、もし直近の成績が悪くても、13年は12番人気にとどまったホエールキャプチャが、今年14年は11番人気に支持を下げたヴィルシーナが、なぜそろって盛り返したのかを思い出したい。
インで待ち、小差3着に突っ込んだ岩田康誠騎手の
ストレイトガール(父フジキセキ)は、きわめて惜しかった。まだ脚は残っていたように映った。ストレートな回顧になるが、1カ月くらい前にこのレースが行われ、同じような展開なら、さすがに勝ったとはいえないが、こじ開けるように伸びて2着はあったかもしれない。慎重に、大事に乗った印象は仕方がないだろう。初の1600mで、初の東京コースを乗り切ったストレイトガールは昨年夏からこの1年間【6-2-2-0】である。3着2回はGIでの快走。この上昇はすごい。
昨年は、馬群の中でもまれながら直線の坂上から猛然と伸びてヴィルシーナを追い詰めたホエールキャプチャは、人気の今年は好位の外。一分のスキもなく、坂を上がるあたりでは勝ち負け必至とみえた。なぐさめにもならないが、3年連続1分32秒4だから、力は出し切ったのだろう。
人気の
スマートレイアー(父ディープインパクト)は、信じがたい好スタートで流れに乗り、直線でもスペースを探して伸びかかったが、外を回ったここ2戦のような爆発するストライドに切り替わらなかった。控えて外を回るいつもの戦法もあったと思えるが、この日は、ホエールキャプチャの通ったコースでさえ並んで外に回ったぶんだけ負けた印象も残るほど、極端に「イン有利」の芝コンデション。かつ高速馬場。内に突っ込むのは仕方がないことだった。
前半控えて猛然と突っ込んできた7着
デニムアンドルビー(上がり33秒2)、同じく9着
ゴールデンナンバー(上がり33秒0)が外に回ったグループの最先着馬であり、先週(Aコース)と同様、Bコースに移った芝は極端にイン有利である。2400mのオークス、ダービーは距離があるから、道中のコース選択でカバーできるだろうが、ここ2週の芝のマイル以下の多頭数で、外を回って善戦止まりの馬は、最初から不利大だったことを忘れないでおきたい。