自分も止まるが相手も止まる
休養をはさみ4回も連続して2ケタ着順を続けていた6歳騙馬
メイショウナルト(父ハーツクライ)が、得意の夏を迎え、鮮やかによみがえった。2着に突っ込んできた人気薄の
ニューダイナスティ(父ディープインパクト)もまた、休養をはさんで3戦連続して2ケタ着順を続けていた馬であり、こちらも昨年の夏に急成長して新潟記念で1番人気に支持されていた、いってみれば夏型。まさに夏シーズン到来だった。
メイショウナルトは、昨年の小倉記念2000mを1分57秒1のコースレコードで抜け出し、今回はハナを切って七夕賞レコードの1分58秒6。これで【6-4-1-13】となった全成績のうち、連対10回はすべて5月最終週から9月までの約4カ月間に記録したことになる。難しい一面があったため、去勢されて騙馬となったのが5歳以降。活躍しなければならないこのシーズンになると、自然に調子が上がってくるのかもしれない。陣営は「走るときは本当に強いけど、いつ走るのか分からない」とはいうが、追い切りはちょっと平凡にみせながらも、冬場とはちがって昨年の絶好調時と同じ448キロ。スッキリみせる体作りに仕上がっていた。実際には見事な仕上げであり、田辺騎手を配したのも大正解だった。
その、テン乗りとなった田辺裕信騎手の判断が素晴らしかった。レース前に武田調教師から「好きなように、思うとおりに乗って欲しい」といわれ、地元福島での重賞初制覇のチャンスで選んだのは、自分でレースを作る作戦。同型をさばいた「逃げ作戦」が絶妙だった。前半1000m通過「58秒9」は、単騎の逃げとすると少しも楽なペースではない。ところが、気分良く走らせるため、向こう正面に入っても「11秒9-11秒9」ときつい一定ペースを保ち、後続の接近を許さない。それどころか、勝負どころの3コーナー手前でさらにペースを上げて「11秒6」である。このペースアップが勝負だった。引きつけて二の脚を使おうという逃げではない。
マイネルラクリマ、
ダイワファルコンなどは先行馬めがけてのスパート開始型。この4コーナーで先頭に並びたい福島巧者が、いつものようにピッチを上げようとしたとき、一歩先んじてピッチを上げたのはメイショウナルト(田辺騎手)の方だったのである。3コーナー手前からペースを上げられては、ここで先頭との差を縮めたかったマイネルラクリマ以下は追いすがるのに脚を使うしかない。自らのスパートではなく、脚を使わされる苦しいスピードアップである。
この日、ツインターボCがあったが、中舘騎手のツインターボもただ飛ばして差を広げ、いっぱいになりながら粘り込んだレースはほとんどない。ライバルが差を詰めようとするタイミングを見計らい、それでは自分も最後は苦しくなるのを承知で、相手に少しも楽な接近をさせないスパート作戦が、中舘騎手のもっとも得意とする逃げ切りだった。「自分も止まるだろうが、追撃の相手もゴール前は止まる」。いっぱいになるのを承知の先行策である。
ゴールまでの距離と、残る余力を天秤にかけた福島コース必殺の逃げ込み作戦を、「好きなように乗ってくれ」と任された田辺騎手は、メイショウナルトの力量を知っているから、いともたやすく実行に移した。ゴール前の最後の1ハロン、メイショウナルトは当然のように鈍って「12秒6」である。しかし、懸命に追撃し4コーナーで約4馬身差まで接近していたマイネルラクリマも、もう差を詰めることができない。同様に鈍って最後は約2馬身半差だった。
人気のマイネルラクリマ(父チーフベアハート)は、昨年の七夕賞は57キロでレースレコードの1分58秒9。今年は58キロで1分59秒1。ほぼ能力を出し切ったと思われる。それで完敗は仕方がないと同時に、メイショウナルトの巧みなスパートに翻弄され、自らスパートして粘り込む得意の形に持ち込めなかったのが痛かった。
インぴったりを通って中団追走のニューダイナスティは、以前は先行一手だったが、今回は流れがきつかったこともあり、無理に追走せず巧みに折り合って末脚温存。内枠の伏兵らしく最後までインを回ったのが正解。10番人気が物語るように本調子手前ではあったが、メイショウナルトと同様、良績ある夏場にきて少しずつ体調が上がっていたのだろう。
渋った馬場が歓迎ではない
ダコール(父ディープインパクト)は、良発表ながら時おり雨のぱらつく天候が味方しなかった。展開は向いたはずだが、馬場を気にしたためか前半から行きっぷりが思わしくなくかったのが痛い。それでも巧みに馬群をさばいて進出し、先行馬の脚いろが鈍ったところに直線突っ込んできたが、争覇圏には関係しない4着だった。
2番人気の
ラブリーデイ(父キングカメハメハ)は、意識的に先行して失敗した目黒記念のあとだから、もっと控える手もあったろうが、先行タイプ有利の初コース福島とあって、行くでもなし、控えるでもなし。良くいえば理想の好位の外だが、馬の方は前半から行きたがっていたから難しくなった。流れを考えると、結局は中途半端な位置取りだったのだろう。次は、タメて差す策になると思われる。
見せ場は作ったものの9着に沈んだダイワファルコン(父ジャングルポケット)は、このコースのレコード1分57秒3を持つ馬、こういう勝ちタイムになる梅雨時は歓迎ではない。5歳時も今回と同じ4番人気で9着だった。これは単なる偶然だが、必ずしも好調とはいえない状態に、微妙に渋った馬場が重なってしまった。