◆牡牝1頭ずつ生まれた「帝王」最後の産駒
この時期、「当歳」に関する話題というと、セレクトセールで父ディープインパクトの当歳馬を誰がいくらで競り落とし……といったものが必然的に注目を集める。
売上げ、売却率とも過去最高だった昨年を上回ったセレクトセール2014が行われたのが7月14、15日。
その10日ほど前、「当歳」に関して、ちょっと趣の違った、嬉しいニュースが舞い込んできた。
昨年8月30日に25歳で世を去ったトウカイテイオーの最後の産駒が、7月3日、無事誕生したというのだ。
新冠の「遊馬ランド グラスホッパー」で生まれたその仔馬は、母キセキノサイクロンの牡馬。知らせてくれた「チーム・テイオー」の事務局によると、トウカイテイオーの当歳時に雰囲気の似た、愛らしく、賢そうな仔馬だという。
母親のキセキノサイクロンは、1歳だった2003年の8月、台風10号で濁流に呑み込まれながら奇跡の生還を果たし、この名を授けられた。3歳時の04年8月、大きな注目のなかホッカイドウ競馬の旭川でデビューするも、4戦して未勝利。屈腱炎のため引退し、「グラスホッパー」に引きとられていた。
昨年、トウカイテイオーが種付けした牝馬は2頭。
もう1頭のトウカイパステルも、無事に出産を済ませている。
場所は平取の「びらとり牧場」。生まれたのは4月10日で、こちらの仔馬は牝馬である。
牡牝1頭ずつのトウカイテイオーのラストクロップは、すくすくと育っている。
今後も成長を見守っていきたい。
トウカイテイオーについては、ディープインパクトの強さについて説明が不要なのと同様、あれこれ言葉を費やす必要はないだろう。いや、必要がないのではなく、書き出すとキリがなくなり、端的にまとめるのが難しいからやめておいたほうが無難、と言うべきか。
史上初の牝馬のダービー馬ヒサトモを6代母に持つこの馬は、無敗で皐月賞、ダービーの二冠を制した。繋ぎがやわらかいため、トモを大きく上下させる独特の歩き方でパドックを周回し、その弾むような歩き方の延長といった感じの伸びやかな走りで、「大外枠は勝てない」というダービーのジンクスを初めて打ち破った。さらに、国際GIになったばかりで「史上最強メンバー」と言われたジャパンカップを完勝し、1年ぶりの実戦となった有馬記念を勝って私たちを感動させた。12戦9勝。その9勝すべてが圧勝で、敗れた3戦はすべて惨敗だった。それも明らかに力負けではなく、原因がよくわからない大敗だった。にもかかわらず、その次のレースで他馬を子供扱いにし、「帝王」の力を誇示するのだから、不思議というか、面白いというか、とにかく驚かされた。まさに「奇跡の名馬」だった。
普通、一頭の名馬を思い浮かべるとき蘇ってくるのはその馬の走りだと思うのだが、私にとってのテイオーの場合は、走りではなく「歩き」なのである。
この馬を初めてライブで見たのは1991年の皐月賞のパドックだった。ハイヒールをはいた女性が伸び上がって歩く「モンローウォーク」のように、この馬のトモだけがクイッ、クイッと沈んでは持ち上がる。何かあったのかな、と思ってしまうぐらい、他馬とは違っていた。一事が万事で、競走馬としての能力の違いの一部が、その歩き方の違いとして表に出ていたようにも思われる――。
私はもともと話が長いのに加え、それがテイオーの話となると、やはり、キリがなくなる。
このくらいにしておこう。
今週は、引退場協会を通じて、久しく消息の知れなかったハルウララが千葉県の牧場「マーサファーム」で余生を過ごしている、というニュースも伝わってきた。高知で113連敗し、「最弱のアイドル」になったあの馬も今年18歳。トウカイテイオーとは別の意味で、競馬の魅力を広く伝えた功労者である。ハルウララという名なのに、久しぶりにニュースになったのが梅雨時というのも、いつも遅れてゴールしたあの馬らしいのか。
来週は相馬野馬追がある。3泊4日で取材し、その足で八戸に行き、最年少ダービージョッキー・前田長吉に関して新たに出てきた資料を見せてもらう。
八戸で2泊したあと帰京するか、さらにどこかに足を伸ばすかは、気分と体調によって決めようと思う。