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秋のビッグレースを展望したい快勝/函館記念

  • 2014年07月21日(月) 18時00分


夏の重賞にふさわしい勝ち馬

 接戦の好カードを制したのは、5歳ラブイズブーシェ(父マンハッタンカフェ)だった。

 好位追走から得意のイン突き作戦に出るかと思えたが、スタートが良くなく、中団より後方の位置取り。しかし、行きっぷりは目立って良く、3コーナー手前でインから外に回ると、まくるように一気にスパート開始。小回りコースでみられるコース巧者のレース運びそのものであり、直線に向いて人気のグランデッツァをかわすと、そのままの勢いで押し切る快勝だった。

 これで函館の芝コース【3-0-1-1】となり、全3勝が古川吉洋騎手とのコンビ。昨年の札幌記念(函館)こそ超不良馬場でいいところなく終わったが、さすがにあれは例外。今回はコース巧者ぶりをフルに爆発させた。もちろん中央場所でも通用するが、同じようなコース形態の、札幌、小倉、福島で好走しているから、勝負どころから思い切ってスパートできる小回りコースがとくに合っているのだろう。古川吉洋騎手はさっそく、昨年凡走した「札幌記念(8月24日)」に行きたい」と次のレースを展望した。

 母方に配されてきた種牡馬は、ムーティエ、ボールドリック、モガミ…。そして母の父は、ステイゴールドとの組み合わせでよみがえったメジロマックイーン。少し以前のビッグレースに不可欠な種牡馬を連続交配させたファミリーそのものの色彩であり、なおかつ3代母はオークス2着のナカミサファイヤ。いかにも夏の重賞にふさわしい勝ち馬であるように思える。

 2着に押し上げてきたのは、復活を示しながらもトップハンデ58キロとあって8番人気にとどまったベテラン7歳のダークシャドウ(父ダンスインザダーク)。こちらは2011年の天皇賞(秋)を2着している実力馬だが、もともと休み休みだった出走が、最近ではとくに少なくなっていたから、「ダークシャドウはまだ7歳馬だったのか(7歳にすぎなかったのか)」などという声が上がったほどで、ベテランホース健在なり。これもまた、夏のローカル重賞の大きな見せ場だった。

 勝った5歳ラブイズブーシェは、まだ5歳だからサマー2000シリーズで名を上げ、秋のビッグレースを展望したい。小林オーナーは早くも、昨年は12番人気で挑戦し、1秒9差とはいえ4着にがんばった「有馬記念」再挑戦をほのめかしているというから、気が早い人である。というより、こういう未来展望をかかげるから、所有馬に気力が注入されるのだろう。

ダークシャドウは若返った、グランデッツァは体調さえ戻れば巻き返し

 順調さを取り戻したダークシャドウは、2012年の札幌記念の2着馬であり、そのあと天皇賞(秋)→ジャパンC→有馬記念の王道を歩んですべて争覇圏だった。この夏、体つきが若返ってみえる。8歳秋にGIを連勝したカンパニーを目ざしてがんばりたい。

 3着ステラウインド(父ゼンノロブロイ)は、終始馬込みの中でもまれる苦しい展開になったが、54キロの軽ハンデを生かしてしぶとく差をつめてきた。これで2000m【3-1-1-2】。凡走したのは3歳秋に1戦あるだけ。ゼンノロブロイ産駒は手がけるほとんどの陣営が試行しなければならない難しさを伴い、事実、距離適性の幅は広いタイプが多いが、どうやらこの馬は2000mがもっとも合うようである。ただし、一応は…である。

 人気のグランデッツァは、勝負どころにさしかかる前から大きなストライドが見られず、直線は止まって10着に沈んでしまった。こういう出走は初めてだったから、1週前にビシッと追い切って馬運車に乗った時点で、あの週がレースだと思ってしまったのではないか(キャリアの浅い馬には珍しくない)。それに、先行馬つぶれのきつい流れが予想以上に応えたのではないか(前後半59秒6-60秒5=2分00秒1)。2歳時に経験があるとはいえ、大跳びのフットワークに小回りコースは合わないのではないか。安田記念(不良馬場)出走が良くなかったのではないか、など、さまざまな敗因はありそうだが、4コーナーを回るともう手ごたえなしだから、能力を出していないのは明らかである。距離2000mが長かったという理由は根拠に乏しい。

 5歳とはいえ、まだ12戦だけ。さらに、脚部難明けの今年の最初の2戦は手探りのダート出走であり、満足のいく状態での出走はきわめて少ない。今回は初遠征に伴う変則調教がもたらした体調変動が否定できないから、体調さえ戻れば巻き返してくれるはずである。コーナーのきつくない大きいコースの方が持ち味発揮に合っているだろう。

 51キロの軽ハンデが買われたバウンスシャッセ(父ゼンノロブロイ)は、4コーナーにさしかかる前にもう手ごたえなし。直線は完全にギブアップ、離れたしんがり入線だった。レース後、「ひょっとするとフケ(発情)が出ていたかもしれない。決してペースうんぬんが敗因ではない」という意味の敗因が陣営から発表されている。

 故障ではないから、フケの兆候はあっても能力を出し切るレースをする馬は珍しくない。また、仮りに陣営が、突然のフケかもしれないと申告しても、瞬時に診断のつく決定的なマイナスではなく、必ずしも能力発揮に支障があるとは限らないので、この理由では直前に出走取り消しにはできない。これはやむをえない凡走の原因のひとつではあるが、バウンスシャッセは昨年の札幌2歳S(函館)でも、9秒5差の競走中止に近いしんがり負けがあるから、かなり危ない馬である。

 多くのファンは、季節外れの「フケなら仕方がない」では済まないところがあったろう。悪いことに、バウンスシャッセは「もっとも軽いハンデ51キロ」。本当は買うべき馬ではないけれど、やっぱり軽視できないと考えに考え、買わされた形になったファンが多かった。

「51キロなら足りる」と考え、◎をつけた記者も多かった。なんとか帳尻を合わせたい函館シリーズの最終日に待っていた、悲しい函館記念だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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